表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/12

第六章:女王の戴冠式――そして、開幕の鐘が鳴る

王都・ラグラディアの中心、王城グランセリア。そこに鳴り響くのは、戴冠式の鐘――祝福と忠誠を誓わせるための、偽りの音。


だが、その鐘の意味が今宵ばかりは変わる。


それは、“開幕”の合図。

私、アリシア・グランフォードが、王国の秩序をひっくり返す第一手。


「ようやく……ここまで来ましたわね」


離宮の塔の最上階、窓辺から王城を見下ろしながら、私は静かに呟いた。


背後では、三人の従者――ゼフィルス、ルシアン、セイランが揃って跪いている。


「アリシア様、王城の魔封結界は、すでに“氷の浸食”で弱体化しました。これで貴族議員の記録室も、王家の秘匿資料庫も侵入可能です」


ゼフィルスが報告する声は、いつも以上に冷静だった。


「王子の愛人……いえ、“新たなる王妃候補”の側近にも、私の情報網がすでに入り込んでますわ。浮気相手の名前、金銭の流れ、脅迫の記録……すべて“王妃のお披露目”の直前に暴かれる予定です」


ルシアンは妖しく笑う。仮面の奥で、その魔眼が静かに光っていた。


「……式典当日、王子が玉座へと歩み出る直前、私が“剣”としてその場を制圧します。王城衛兵の半数は、すでに私の旧部隊にすり替えてあります」


セイランの声に、かつての“聖騎士”としての威厳が滲む。


完璧な包囲。完璧な手配。あとは、私が「舞台」に立つだけ。


「ふふ……では、戴冠式を始めていただきましょう。“真の戴冠”を、ですわ」



戴冠式当日


黄金の大広間に、王家の血を引き次代とされた王太子――ラウル・カリュードが現れた。


王冠を戴き、民衆に微笑むその顔。だが、その瞳には慢心と偽善しかない。


「民よ、今日より我は新王ラウル一世として、そなたらを導く――」


その瞬間、会場の天井から降るように舞い落ちたのは、数百枚の“証拠文書”だった。


貴族の収賄。王子の不正な愛人囲い。民の土地を奪っていた密約の記録。


そして最後に、王子の手によって仕組まれた“アリシア・グランフォードへの断罪”の真実。


会場は騒然となり、王子の顔色が青ざめる。


「な、なぜ……! 誰が……!!」


「それは、“わたくし”ですわよ、ラウル殿下」


悠然と現れた私に、王族たちは声を失った。


「わたくしの“ざまぁ”劇、お楽しみいただけましたか?」


ゼフィルスが氷壁で玉座を封鎖し、ルシアンの結界が観客たちを動けなくする。


セイランが前に出て、かつての王子の剣として宣言する。


「この男は、王としての資格を失った。民を騙し、貴族を腐らせ、真実を封じてきた者だ」


「アリシア・グランフォードこそが、真に“統べる”器を持つ者。彼女こそ、新たな秩序の中心となる“女王”にふさわしい」


そして、私の目の前に、三人の“騎士”が跪いた。


氷の魔導侯爵、ゼフィルス・ヴァン=エストレイア。

毒を纏う仮面の情報屋、ルシアン・ノワール。

堕ちた聖騎士、セイラン・アルバ=カリュード。


その忠誠は、もはや演技でも計略でもない。ただ一人の女——アリシア・グランフォードという“毒姫”に捧げられた、狂気すら孕んだ信仰だった。


「貴様……! 女が、王都を追われた罪人の身で……!」


ラウル王子は激昂し、剣を抜こうとする。だがその手は、氷の棘に封じられ、動きを止められた。


「王子殿下、お手を汚すには及びませんわ。あなたが血を流す価値など……わたくしの手には、ございませんもの」


私の声に、静かに魔力が重なった。優雅で、妖艶で、そして容赦のない響き。


——瞬間、天井が割れた。


舞い降りてきたのは、王都全域に放たれた私の“新たな令状”。そこには、王家と貴族会による不正の数々が記されていた。しかも、それは“証拠”と共に、魔導映写として民衆の目の前にも投影されたのだ。


王城の外で、民衆の怒号が上がる。貴族たちが席を立とうとするが、逃げ道はもう無い。


「おやおや。帰り道は、凍ってしまいましたねえ?」


ルシアンが微笑む。ゼフィルスが天井を凍らせ、セイランが扉を封鎖する。


「皆さま、今日は“処刑”の日ではありません。これは“戴冠”の儀式。つまり——私の“始まり”を告げる舞台ですわ」


私は一歩、玉座の前に進んだ。


「この国の秩序は、偽善と欺瞞によって成り立っておりました。けれど、今日を境に、それは変わります。新たな統治者のもと、“選ばれた才と忠誠”こそが力となるのです」


玉座に座る私の手には、あのかつて婚約破棄された日の指輪があった。


それを静かに王冠の下へと置く。


「民のために。己の矜持のために。そして——わたくし自身の正義のために」


私は宣言した。


「アリシア・グランフォードが、“毒姫”としてではなく、“真なる女王”として、ここに戴冠いたします」


鐘が再び鳴り響いた。


だが今度の音は、誰かの命令ではない。誰かの嘘でもない。

ただ、“わたくし”という存在が、王都を包み込んだ音だった。



「忠誠を誓います。我らが“毒姫”に」


「永遠に、この命を捧げよう」


「あなたに堕ちた、この魂すべてを」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ