幕間:月影の誓い
夜の帳が落ち、王都は静寂に包まれていた。寝台の上、アリシアの銀の髪が月明かりに照らされ、柔らかく光を纏っている。
ルシアンは彼女の頬に手を添え、指先でそっと髪を梳いた。アリシアはまぶたを閉じ、ただそのぬくもりに身を委ねていた。
「……眠っているのですか?」
答えはなかったが、その静かな呼吸に、彼はかすかに微笑む。
ルシアンはゆっくりと身を屈め、彼女の唇に、優しくキスを落とした。まるで確かめるように、何度も。
**
(……最初に、あなたに触れたいと思ったのは、あの夜だった)
回想は、音もなく過去へと滑り込む。
王都を追われたアリシアが「仮面の客人」として現れた、城下の秘密の夜会。仮面越しに交わした視線――氷のように冷たいはずの瞳が、なぜか熱を帯びて見えた。
「……貴族らしくもない話し方ね」と彼女は言った。
「あなたも、王家らしくない立ち振る舞いだ」
「ふふ……どうして、そう思うの?」
「目に、孤独があるからです」
アリシアはその時、ほんの一瞬だけ、表情を崩した。
あのわずかな隙が、ルシアンの心に深く焼きついた。
(俺は、あの一瞬の揺らぎに――心を奪われたのだ)
**
「ルシアン……」
まぶたの奥で夢を見ていたのか、アリシアがかすかに声を洩らした。
ルシアンは彼女の唇にもう一度、そっと口づけた。今度は長く、深く。
「……ずっと、そばにいます」
そう囁いたその言葉は、彼女の夢に届いたのか、アリシアの指がゆっくりと、彼の手を探すように動いた。
彼はその手を握り返し、まるで過去と現在を結ぶように、そっと指を絡めた。
夜は深く、静かに二人を包んでいた。