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番外編:仮面の令嬢、舞踏会に咲く

ラグラディア王国王立学園。


それは、未来の貴族たちが集う社交と教養の場であり、政略と陰謀が交差する“舞台”だった。


その中でも、もっとも注目を集める存在は、当然ながら王太子ラウル・カリュードとその婚約者、アリシア・グランフォード。


私——アリシアとして生きる白石玲奈は、今日もその“仮面”を外すことなく、優雅に微笑んでいた。


「アリシア様、やはりあなたのダンスは完璧ですわ……!」


「まあ、ありがとう。けれど、私の腕ではまだ、殿下のリードには到底及びませんわ」


——そんなことはない。


実際には、王子のリードなど、音楽教師に何度も修正されている。だが、私はそれを口にしない。


この世界では、「王子を立てること」が女の価値であり、義務であり、そして“死刑執行を遅らせる猶予”でしかない。


これはゲーム。私はその世界に組み込まれた“悪役”の皮をかぶったプレイヤー。


だから私は、どこまでも完璧に「アリシア・グランフォード嬢」として振る舞い続けた。


学業は常に首席。礼儀作法、舞踏、剣術、魔法、どれもそつなくこなす。王族に恥をかかせない、完璧な令嬢。


だがその裏では、私の“情報収集”もまた、静かに進行していた。


王子の寵愛を受け始めた平民の少女——エミリア・ローレット。


彼女が初めて王子と接触したのは、図書館で「本を落とした瞬間」だった。典型的な恋愛ゲームの出会いイベント。


次の週には、「魔術の授業で庶民なのに驚異的な魔力制御を見せる」ステージが発生。


ふふ、順調にフラグが立っていますわね。


私の中の“プレイヤー”は冷笑していた。


——だからこそ、私は急いだ。


この“断罪”という名の処刑劇が始まる前に、次の手を用意しなければならない。


ある日の午後。誰もいないバルコニーで、私は手帳を開いていた。


書き込まれているのは、表面上は社交日誌。しかしその裏に、私は王子の動向、教師陣の発言傾向、貴族生徒の派閥図を記していた。


「……侯爵家の第三子、リヴィエル嬢。最近、エミリア嬢と親しげ……あら、ラウル殿下の側近の妹でしたわね。なるほど、囲い込みは順調なようで」


策謀の芽は、もう至るところに生えている。


この学園は舞台。そして、私はこの舞台の“舞台裏”を誰よりも冷静に見ている“役者”だった。



その夜、学園の舞踏会。


私は、紫のドレスをまとい、王子の隣で笑っていた。


「本日の舞踏会、君に似合う花を見つけた。これを……」


王子が手にしたのは、瑠璃色の薔薇。だがその色には、どこか作為的な意味を感じる。


《エミリアのドレスと、同じ色……? まあ、わかりやすい“比較対象”を用意してくださって》


だが私は、笑顔で受け取る。


「ありがとうございます、殿下。とても……嬉しいですわ」



すべてが偽りでも構わない。


この“仮面舞踏会”の結末を、私はすでに知っている。


だからこそ、私は笑い続ける。


いつか、この仮面を脱ぎ捨てる日のために——その瞬間、すべてを“ざまぁ”と共に焼き払うために。


今日もまた、「悪役令嬢」は美しく笑いながら、静かに牙を研ぐ。


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