第一章:婚約破棄の日、私は笑った
「アリシア・グランフォード嬢、あなたとの婚約をここに破棄する!」
学園の大ホール。そこに集う貴族子女たちの視線が一斉に私へと注がれた。だが、その中で一人だけ、冷ややかな笑みを浮かべている者がいた。それは——この私、アリシアである。
本来なら、ここで泣き崩れるはずだった。無実の罪で糾弾され、王太子に婚約を破棄され、追放されるという、いわゆる「悪役令嬢の断罪イベント」。
だが、私の中身は違う。かつてこの乙女ゲームの世界に転生してきた、日本の社畜OL、白石玲奈。死因:過労死。人生二周目、どう転んでも無様には終わらせない。
「まあ……そうですの。では、婚約指輪は返して差し上げますわ。どうぞ、陛下——あら、まだ“殿下”でしたっけ?」
ざわつく空気。王子の顔が怒りに染まる。隣にいるのは、所詮ゲームのヒロイン役に過ぎない庶民出身の少女。
私は彼女を一瞥し、唇の端を上げた。
「後悔なさいませ、殿下。私を敵に回した、その意味を——身をもって知ることになるでしょうから」
そうして私はドレスの裾を翻し、堂々と断罪会場を後にした。
復讐?いえ、そんな野蛮なことはしませんわ。私のざまぁは、もっと上品に、確実に。