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1話 名は



「君が、噂の女か」

「……お初にお目にかかります。西の方から参りました、ナビーラ・イルハイムと申します」


 目の前に堂々とした様子で玉座に座っている男の名前は、アシール・ハサナインという。彼は乾いた砂漠の国の王であり、若いのにも関わらず王となった人だ。

 透き通るような白髪に、褐色の肌。座っていてもわかる身長の高さに加え、威厳なオーラを放っている。


(……なるほど、この方がすごいと言われている意味がわかるわ)


 後ろから見える金色に光っている動物。百獣の王と言われる()()が彼の後ろについている。彼の守護神なのだろう、私の方を見ては静かに頷いている。


「今宵はもう休むと良い。明日から頼む」

「お心遣い感謝いたします。また明日から、よろしくお願い申し上げます」


 礼儀に従い、顔を上げないまま彼が玉座から離れるのを待つ。

 しばらく同じ姿勢のままでいると、先ほどまでアシールの近くにいた側近が声をかけてくれた。


「お部屋までご案内します」

「ありがとうございます」


 立ち上がり、側近の後ろをついていく。

 来た時も思ったことだけど、王宮というだけでとても華やかだった。見たこともない装飾品に、煌びやかな内装。国の王というのは、こんなにも贅沢な王宮を持てるというのか……。


「お部屋はこちらになります」

 

 両開きのドアの前に到着した。

 側近がドアを開けると、びゅうと風が吹いた。何かのお香が焚かれているからかいい香りも乗ってきて、心地よい風が肌をくすぐる。


「夜の砂漠は冷えますので、早い段階であちらの窓をお閉めください。明日、ナビーラ様専属の侍女が参ります」

「わかりました。ここまでの案内、感謝いたします」

「とんでもございません。今宵はごゆっくりとおやすみください」


 そういうと、側近はゆっくりとドアを閉めていった。

 すでに必要なものは揃えられており、私が持ち込んだ荷物も運ばれている。

 少し肌寒かったので、さっそく窓を閉めた。ちらりと見えた星空は綺麗に見えたが、今の私には夜空を楽しむ余裕などなかった。


「……疲れた」


 ここまで長い旅だった。

 馬車での移動が終わったかと思えば船に乗り、そこから歩いてラクダにも乗った。初めてラクダという動物を見たが、あんなに乗り心地の悪いものだとは思わなかった。

 同じ国とはいえ、馬車や船に乗るほど遠い。私が住んでいた地域にはラクダなんていないし、何より気温差や砂漠などによる乾燥で体力が奪われていった。


(まさか私が、王に呼び出しを受けるなんて……)


 広いベッドに飛び込みながら、深いため息を吐く。

 ここより遠い、西の地域からやってきた。そこでは占いや占星術が有名で、私の家系も”占い師”として占いなどを生業としていた。そんな中で、私は珍しいタイプだった。

 霊視、といった守護霊や守護神、その人の魂の存在などを見ることができる能力を持って生まれた。先祖を辿れば、私と同じ霊視の能力を持っていた人は多かったが、子孫が増えていくたびに能力は弱まり、ついには誰も能力がない状態で生まれるようになった。

 そんな中で、霊視の能力を持った私が生まれてしまった。

 霊視の能力を持つ者は"霊能者”と呼ばれる。昔では当たり前だったが、今は時代が変わって霊能者は恐れられるものになった。人の罪を見ることや、その人の近い未来も、遠い未来も視ることができてしまう。死期も見えてしまう場合もあるため、一部の人からは死神だと呼ばれることもあった。



「……ここまで、私の噂が飛んでいるなんて」


 今回、王に呼ばれたのも私の能力が目当てらしい。

 詳しいことはわからないが、王宮から届いた呼び出しの手紙一通で、私は遠路はるばるやってきたのだ。

 呼び出しの手紙を読んだ両親が慌てた様子で「早く! 一刻も早く家を出発しなさい!」と言ったため、満足に荷造りもできないまま家を飛び出した。


『気をつけるのよ、王様に失礼がないようにね!』

『霊視の能力が見たい、という王からの直接な願いだ。どうか無事に成し遂げてくれ……! お前さんがこの願いを成功させれば、我が家の景気も安泰になるはずだ!」


 頼んだよ! という強い声を聞きながら、馬車に乗り込んだ。

 両親の背後には不安の色が大きく溢れていて、しかも王からの直接な呼び出しであれば断れるわけもなかった。

 王様の機嫌を損ねることがあれば、私の首なんて一瞬で吹き飛んでしまう。そんなことは絶対に避けたい。


「なんで、私が……」


 大きく息を吸って吐いたあと、急激な眠気がやってきた。

 着替えもせずに寝るなんて、と頭では思っていても動けるわけではない。瞼は重く、もう起き上がる気力もない。

 知らないところに来て寝られるわけがない、と考えていたはずなのに体というのは疲れによる睡眠欲に抗うことができないんだな……と思いながら、私は深い眠りへと落ちていった。

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