質問
第7話出来ました!
昨日と同じように、午後から天耀学の授業が始まった。訓練室で佐々宮先生が強化術について説明している。
「異能使いにとって強化術は基礎中の基礎であり、これを一定のレベルまで修得出来ない者は落第とする。だから気を引き締めて臨んで欲しい」
佐々宮先生がそう注意する。僕も強化術を重要視しているので佐々宮先生の考えに賛成だ。
強化術は異能使いが最初に持つ武器であり、最後に残る武器でもあると僕は思っている。天耀術式や千変武創が無くなった時に残るのは己の肉体だけ。だからこそ、自分の肉体と強化術を優先的に鍛える方が良いと思うからだ。
「強化術はただ強化すれば良いというものではない。例えば、柳、前に出てきてくれ」
先生から指名され、柳は緊張しながら前に出た。
背は高いが体格はそこそこで、自信に欠ける表情のせいで頼りない印象の男子だ。
「じゃあ柳、身体強化をして全力で高く跳んでみてくれ。深く考えなくて良いから、さぁ」
「は、はい」
柳の身体に天耀力が伝わり纏っていく。そして柳が跳んだ。10メートルは跳んだだろう。強化術は先生が言ったように、異能使いにとって基礎中の基礎だ。基礎であるからこそシンプルであり――
「そのまま維持していてくれ。これが柳の身体強化だ。そして――」
先生も身体強化をして跳ぶ。同程度の天耀力しか消費していないのに先生の方が高く跳んだ。
「これが私の身体強化だ。同じ量の天耀力しか使っていないのに、どうして私の方が高く跳び、差が生まれたのだろうか。答えは天耀力の操作技術にある。私は天耀力を無駄無く使い、強化が出来た。対して柳は操作に拙さがあり、強化に全て使えずに無駄が出た。少し抽象的になるが、操作を洗練させれるかどうかで大きな差が生まれてしまうんだ」
強化術はあくまでも天耀力の操作によるもので、操作が拙ければ強化にその影響が出る。実際、先生の天耀力の流れは柳よりとても綺麗で滑らかだ。
電気の変換効率を高めればパフォーマンスが向上することは分かっていても、その効率を高めるのが難しいのと似ているな。
だから適切な指導が必要になってくる。まぁ、天耀力の操作を洗練させると言っても、どうすれば良いのかは個人の感覚に依るものが大きいのだが。
「君たちもさっきの私と同じくらいのことが出来るように頑張って欲しいと思ってる。まぁ、最初から張りきりすぎなくても良い。焦らず着実に成長していこう。じゃあ各自で強化術、というより天耀力の操作の練習をしてくれ。先生は見て回っているから質問があれば呼んでくれ、すぐに行く」
先生の指示で操作技術の練習が始まった。
周りは1人で練習したり友達でチームを組んだりして練習している。
僕は比乃宮と神崎と一緒になって練習することにした。まずは比乃宮と神崎が軽く自己紹介をする。
「俺は比乃宮圭、よろしくな」
「私は神崎姫奈、こちらこそよろしくね」
「なぁなぁ、神崎って中学から頑張ってたのか? 千変武創とか綺麗だったけど」
「うん、結構頑張ってたかな。担当の先生に頼んで、授業外で指導して貰ったこともあるよ」
「ほえぇ、凄いな」
比乃宮もそうだが神崎も初対面の人相手に緊張せずに自然体で接することが出来ているな。やはり僕とは育ちが違うのだろう。
さて、2人の話を眺めてるのも良いが、今は授業中で指示が出ているのでちゃんとやっておこう。
3人で距離をとって操作の練習をする。昨日と同じで周りのレベルに合わせてやっていく。
神崎も上手いが比乃宮も負けていないな。放課後の練習で操作技術も向上したのだろう。
現状は神崎が1番で比乃宮が2番といった所か。
先生が僕たちのチームを見に来た。
「神崎も比乃宮も凄いな、1年の最初でここまでレベルが高い生徒はそういないぞ。欠神は2人に比べてまだ粗い所が目立つが、2人を見て良い刺激を貰いながら成長すれば、すぐに解決するだろう。3人とも、この調子で頑張るように」
先生は僕たちを評価して他のクラスメイトの所へ向かった。
その際、また僕に一瞬視線を向けてきた。
今回は探るというより普通に観察している視線だった。注意をするわけでもなくただ見るだけ。
不気味ではあるがやはり敵意は感じないし、まぁ放っておこう。
そのまま練習を続けて授業時間が終わりに近づいたら、先生が次回の授業の連絡をして解散を告げた。
今日は金曜日で、華の金曜日と呼ばれる日だ。比乃宮と神崎の3人で遊んで帰りたいな。
そう考えていたら先生が、
「欠神はまだ残ってくれ、少し話したいことがある」
僕が残るよう指示をしてきた。視線を向けてきた理由を話すのか? 比乃宮と神崎が心配そうにしているな。
「なんかやったのか? 俺はそんなことしてなかったと思うけど」
「私も同じ。怖い雰囲気じゃなかったから大丈夫だと思うけど、なんだか緊張するね」
「話がどれだけ長いか分からないから2人はもう帰ってくれ。また月曜日で」
2人が帰り、他のクラスメイトも訓練室から出た。佐々宮先生が話を切り出す。
「さて、残されたことに何か思い当たることはあるか?」
「いえ、特には。僕は何かやらかしてしまったのでしょうか?」
「そういうわけではない」
先生は片方の口角を少し上げて問いかけてきた。
「欠神、君は手を抜いているんじゃないか?」
「何故そう思うんですか?」
「こちらから質問したんだがな……まぁ良い。君が手を抜いていると思った理由だが、2つある。1つ目は君の千変武創の形だ」
「千変武創? 僕の武器のどこに違和感を感じたんですか?」
「君の千変武創は失敗していた。欠けていたり曲がっていたり、そんな失敗だった。だが、失敗の種類が違うと思ったんだ。重ねて言うが君は失敗していた。でもそれは『そうなるように作ったから失敗している』のであって『成功させようと作った結果失敗した』ものではないと感じたんだ。他の皆が正しく失敗作なら、君のはそういう作品だ。そこには大きな違いがあるだろう? それに君の武器をよく見てみると、他の生徒と全く同じ形でミスをしているものもあったしな」
本当によく見ているな。確かに僕は失敗したように作ったし、その時にクラスメイトを真似した。
しかしそれに気づくとは思わなかった。
失敗の種類が違うと言っていたが、正しく見れる眼が無いとそこに気付けずに同じ失敗だと見てしまうからな。
どうやら僕が思っている以上にこの人は眼が良いようだ。
「2つ目は天耀力の流れだ。これは1つ目と似ていて、君の天耀力の操作は作られたものを感じた。粗い部分があっても何処か静かで、流れるように操作をしていたから違和感を感じたんだ。さて、私は君を疑っている理由を話したわけだが、君はどう返してくれるのかな?」
ここまで見抜かれているなら仕方ないな、認めよう。
「はい、僕は手を抜いています」
「あっさり認めるんだな。もっと恍けるかと思ったんだが」
「あそこまで見抜かれていて、これ以上恍けるのは無意味だと思ったんです。それで、僕はどうなるんですか? 手を抜いたことで説教されるんですか?」
「説教はしない、純粋に気になったんだよ。どうして手を抜いているんだろう? 出来ることを隠すことにどんな理由があるんだって。もし何か特別な事情があったら、それに合わせた対応を考えないといけないからな」
「そうですか。だとしたら、しょうもない理由で申し訳ないんですけど、僕は今の時点で出来たら目立ってしまうと思ったから手を抜きました。僕はなるべく目立たずゆっくりと過ごしたいだけなんです」
「そうか、それが欠神にとって大事なことならそれを尊重しよう」
僕みたいなふざけた理由でも受け入れるとは、器が大きいというか生徒に甘いというか。僕はそれで構わないから良いのだが。腕を組んで考えている先生を眺めながら先生に感謝をする。
「話が終わったならもう帰り――」
「いや、話はまだ終わってないぞ」
帰ろうとしたがまだ終わっていなかったようだ。
「君の考えは尊重すると言ったが、手を抜いているのは良くないことだ。なので君に罰を与える」
「マジすか」
「マジだ。君は今から先輩と戦ってもらう。おっ、ちょうど来たみたいだな」
入口の扉が開いて男子生徒が入って来た。
キリッとしている鋭い雰囲気を纏った人で、その雰囲気に違わぬ実力を感じる。そして、左の二の腕に風紀と書かれた腕章をつけている。
「紹介しよう、彼は2年生の彩辻賢人。序列7位の実力者であり、風紀委員会に所属している」
「彩辻賢人だ、よろしく」
「欠神戒斗、1年生です」
彩辻先輩が手を差し出してきたので、その手を握り握手をする。先輩が先生に話しかける。
「それで、俺はどうして呼ばれたんですか? 何の用事かまだ分かっていないんですけど」
「悪い悪い、実はな、彩辻には今から欠神と模擬戦をしてほしいんだ」
「入学したての1年生と? 本気ですか?」
「あぁ、本気だ。やれるなら決闘場に移動して始めたいんだが」
先生の表情から本気だと伝わったのだろう、真剣な顔になり僕を見てくる。
上から下までじっくりと見て僕を観察している。一通り観察して先生の方を向く。
「正直、俺は欠神から何も感じませんでした。普通の1年生と同じに見えますが、それは俺が見抜けていないということなんでしょう。欠神、良いか?」
マジかー。ここで先輩が断ってくれたら罰が無くなると思ったんだが、思い通りにはいかないな。
まぁ手を抜いている僕が悪いわけだし、大人しく受け入れよう。
「はい、大丈夫です」
「よし、じゃあ決闘場に移動しよう」
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訓練室から決闘場に移動していたら、彩辻先輩と同じように二の腕に風紀委員の腕章をつけた集団が前から歩いてきた。
「あれっ彩辻くん。まだ終わってなかったんだね」
「あぁ、そっちはもう終わりか?」
「えぇ、今日は軽い業務だけだったから。そっちでは何を?」
「はい、委員長。これから1年生と模擬戦をすることになりました」
「えぇぇ!? 彩辻さんと模擬戦!? しかも1年生と? えっと、いじめは駄目だよ?」
何だか賑やかだな。これ以上騒ぐ前に先生が落ち着くように言っている。
「色々あってな、こいつには罰として模擬戦をしてもらうことにしたんだ」
「そうですか……。先生、私たちも模擬戦に立ち会うことは出来ますか?」
「うーん、この模擬戦は記録にも残さず秘密裏にやろうとしたんだが、まぁ良いだろう。立ち会っても良いが、他言無用で頼むぞ」
「ありがとうございます、先生」
ということで、風紀委員会の愉快な仲間が加わり決闘場に着いた。
僕と彩辻先輩は既定の位置で待機している。
待っていると先生の声がアナウンスとして流れてきた。
『今回の模擬戦は通常ルールとほとんど一緒で、審判が私であることと、勝っても負けても序列が変動しない所が違う。では、10秒後に開始の合図を告げる』
息を吐き、目の前の相手を見る。
先輩は千変武創を持ち、いつでも動けるように構えている。顔は真っすぐこちらを向いていて、僕の一挙手一投足を見逃すまいと集中している。
さて、どうしたものか。勝っても良いのだろうか? 先輩、それも序列7位の実力者を倒したらどうなるのだろう。この模擬戦が記録に残らない秘密のものでも、風紀委員会のメンバーが見てしまっている。
風紀委員会、特に委員長と呼ばれていたあの女生徒に目を付けられると後々面倒なことになる気がする。今も僕を注意深く観察してきているな。
いい具合に善戦して負けるか? ただ負ければあの先生、そして実際に戦った先輩はそれを見抜いて再戦を要求するかもしれない。それなりの実力があるように見せて負ければ良いか。
負けようと考えていたが、懐かしい声が僕の頭に優しく、しかし激しく響く。
『その考えは好きじゃないな。良いかい? その時は負けても良いって判断しても、それが正しいとは限らないんだ。負けが次に繋がるとしても、勝てるのなら勝つべきだよ』
はぁ……本当に。本当に、僕に色々と残したな、あの人は。
このタイミングで思い出したら、負けられないじゃないか。
仕方ない、この模擬戦は勝つことにしよう。
『模擬戦、始め!』
先生が開始を告げた。先輩が動こうとするが、遅い。
僕は一歩踏み出し、足の裏で天耀力を小さく爆発させるように放出して、推進力にして加速する。その際、空気抵抗を減らすのと先輩の視界から消えるために前傾姿勢になる。
一瞬で先輩の懐に入り、お腹に掌を当てる。
天耀力を腕で回転させて螺旋を描きながら掌まで伝え、そのまま驚いた顔をした先輩に撃ち込む。
先輩は血を吐きながらワイヤーで引っ張られたように吹き飛び、決闘場の壁にぶつかった。
壁にはクレーターが出来ており、その辺の生徒が相手なら今ので終わっていただろうが、先輩はまだ意識を保ち立っていた。
先輩が僕を捉えようと顔を上げたが、何も見えなかっただろう。
何故なら、まだ倒れないと予測していた僕が、先輩の顔にさっきと反対の掌を当てて2撃目を撃ち込もうとしているのだから。
2撃目を撃ち、また壁にぶつかったことでクレーターが広がる。
先輩が力無く倒れた。模擬戦が始まって3秒位か、決着が着いた。
しかし終了の合図が無い。観戦席の風紀委員会も何も言わないし、気まずい静寂が広がっていた。
ちゃんと手加減したんだけどな。
先生がいる審判室を見て終了を宣言するよう視線で訴えかける。
『模擬戦終了! 勝者、欠神戒斗!』
終了が宣言され、模擬戦は僕の勝ちで幕を閉じた。
どうも、神座悠斗です。
私事ですが、カクヨム様の方でも連載することにしました。
カクヨム様の方で読みたい方はそちらでも読めます。
次回も気合を入れて書くので、良ければ見てください~。ではでは。