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記憶

新しい話が出来ました!

 朝日をカーテン越しに感じる。今から2日目が始まるのか。ベッドから起き上がり伸びをする。


 自室には基本的な調理器具や家電、食器が揃っており、生活に困ることは余程のことがない限り無いだろう。


 食器棚からコップを取り出し水を飲む。寝起き特有の喉の乾きからくる不快感が消えるのを感じる。


 昨日は朝食になるものを何も買っていなかったので、登校途中にコンビニで何かを買うとしよう。


 歯磨きをする為に洗面所へ向かう。歯ブラシを取り、歯を磨く。磨き残しが無いように丁寧に磨いていき、磨き終わったら口をゆすぐ。


 口に含んだ水を吐き出して顔を上げた時に鏡に映った自分と目が合う。


 無表情で目に光が無い。感情が宿っていないその顔は、多感な年頃の10代の少年がするには似合わない顔だろう。


 だから僕は、比乃宮のように感情豊かな人間に憧れを感じる。やはり、自分に無いものを持っている者には、そういう感情を抱いてしまうな。


 僕の表情筋がもっと仕事をしてくれれば、学生らしい人間に成れるのに。何も変わっていない自分がただ存在している。


 まぁ、これに関しては一朝一夕に変われるものでは無いか。少しずつ変わっていくとしよう。


 制服に着替えて家を出る。コンビニでおにぎり1個とお茶を買って学校に向かう。ちなみにおにぎりの具は鮭だ。おかかと迷ったが、スタンダードにいくことに決めた。


 ツナマヨ? 申し訳ないが僕の嗜好だと論外だな。


 早めに家を出たので、通学路には生徒の姿がポツポツとしか見えない。早すぎたか? いや、遅いよりは良いか。入学早々遅刻はしたくないからな。


 教室に着くと、1人席に着いている人がいた。


 あの人は確か矢吹先生に質問していた女子だな。彼女は教卓のある中央の列の後ろの方に座っている。遠くはないが、かといって話しかけやすいという訳でもない微妙な位置だ。


 どうしよう、話しかけるべきか。いや、いきなり過ぎるか?だがこの機会を逃すのは……。


 少しの間葛藤していたが、とりあえず朝食を済ませることにした。断じて勇気が出なかったとかでは無い。ウン。


 1口噛んでみる。まず海苔のパリッとした食感を感じた。次にご飯。米が密着して纏まっているからもちっとしているが、ほんの少しの固さがある。最後に鮭だ。鮭おにぎりとして、やはり鮭が1番重要になってくる。だからその期待はとても高くなるが、その期待に応えてくれた。素晴らしい美味しさだ。


 塩分によって喉が訴える。早く、水分を流し込めと。すぐにお茶を手に取り飲む。冷えたお茶が口を通り、喉を通り、胃に流し込まれる。


 これを繰り返していく。何てことはない、ただの食事だ。高級料理でも何でもないコンビニで売っている普通のおにぎりとお茶だ。


 だが僕にとっては初めての経験で、良い気分にさせてくれる。


 食べ終わり、途中から感じていた視線の元を見る。例の女子がこちらを見ていた。


「何か用か?」

「いや、普通のおにぎりを凄く美味しそうに食べるから……気になっちゃって」

「美味しそう……か」

「うん。顔は無表情だったけど何というかこう、食べてる雰囲気でそう感じた」


 そうか、僕はそんな風に見えていたのか。表情が変わっていないのが残念だが、良しとしよう。


 そうだ、きっかけが出来たし自己紹介をして友達になろう。


「えっと、僕は欠神戒斗。良ければ君の名前を教えてくれないか?」

「私は神崎姫奈(かんざき ひめな)。これからの3年間よろしくね。」


 可愛らしい見た目の女子だ。この髪型は確か、ポニーテールだったか。矢吹先生に近い雰囲気を持っているが、目の奥に見える力強さが芯の強さを映している。


「あー、えっと……友達にならないか? まだ友達が一人しかいなくて、もっと色々な人と友達になりたいんだ」

「良いよ、私もそう言おうと思ってたから」

「本当か?じゃあ連絡先を交換しよう」


 スマホを取り出して連絡先を交換する。そういえば比乃宮とはまだ連絡先を交換していなかったな。今日交換してしておこう。


 暫く神崎と話してホームルームまでの時間を潰しているとクラスメイトが続々と入ってきた。それに合わせて神崎との会話を切り上げる。


 比乃宮が教室に入ってきて話しかけてきた。


「はよ、昨日ぶりだな。結構早くから来てたのか?」

「あぁ、二番乗りだった。昨日はちゃんと眠れたんだが、僕の気持ちは静まりきっていなかったみたいだ」

「なんだ、ずっと無表情だからそういう感じじゃないと思ってたんだけど、案外そうでもないのか?」

「僕の表情筋は無断欠勤を繰り返していてな。意図して動かそうと思わないと何も変わらないんだ」

「へぇそうか。まぁそのうち雰囲気で分かるようになるだろ。いっぱい観察しよ」


 ケラケラ笑いながらこっちを見つめてくる比乃宮に、僕も負けじと見つめ返す。お互い一歩も譲らず見つめ合っていると、矢吹先生が入ってきた。勝負を中断して前を向く。


「皆さん、おはようございます。出席確認からしていきますね」


 微笑みながらホームルームでの仕事をしていく。その際、例のクラスメイトの方を見てみると、くらっと来てはいたが何とか耐えていた。耐性が完全についたようではないが、クラスメイトが頻繁に倒れる事件が起きずに済みそうだ。


 ホームルームが終わり、少しの休憩時間の後授業が始まった。


 異能使い(エクストリア)として成長する為のカリキュラムを天耀学(アルフェイド)と呼び、ここ(アスカーディア)ではそちらが重視されやすいが、一般的な学校教育も勿論ある。午前を主に一般教育、午後を主に天耀学と分けて進行していくのが才麗学園の方針のようだ。


 一般教育は特筆すべき点は無く普通に進められ、昼休みになった。昼食をどうするか比乃宮と話し、食堂で食べることにした。ちなみに比乃宮と連絡先は交換してある。


 食堂には多くの生徒がいた。こんなに多いのか、これだと席を確保するだけで時間を使ってしまいそうだ。何とか席を確保し、昼食を選ぶ。食券制で提供場所に置いてある販売機で買う必要があるようだ。何にするか決めて食券を買い、店員に渡して呼び出しベルを貰い席に戻る。比乃宮は違うところに行っていたが同じタイミングで帰ってきた。


「欠神はラーメンにしたのか、俺はカレーにした」

「正直全部と迷った。だから1番人が少なかったところを選んだんだ」

「やっぱ迷うよな、全部美味しそうだし」


 比乃宮と会話を続けていると、天耀学の話題になった。


「いやー何ていうかさ、本格的に異能使いとして学んでいくんだなぁ、って感じだわ。俺らがやってきたのは天耀力(アルナ)が暴走しないように制御できるようになる位だから緊張するな」

「最初だから難しいことはしないはずだ。だからそんなに身構えなくてもいいと思うぞ」

「いや、俺もそうは思ってるぜ?でもこう、何か身体が震える感じあるじゃん」


 未知を学ぶ時は確かに恐怖とは違う震えが身体に起こることが偶にある。比乃宮は正にそれが起こっているのだろう。


「欠神はずっと変わらないな。自然体で力が入ってる感じがしない」

「楽しみだとは思うが、僕は比乃宮程の熱を持っていないからな。それにいつも無表情だから分かりにくいんだろう」

「そうか?もしかして、中学の時に先取りでもして――」


 比乃宮の呼び出しベルが鳴った。言いかけだったが、続けるほどでもなかったのかカレーを取りに行った。正直あれ以上探られるのは勘弁してほしかったのでありがたかった。比乃宮は勘が良いから、もしボロを出せば面倒な事になるかもしれない。


 比乃宮のような普通の人間は知らなくても良い、いや知るべきではないことだ。


 僕の呼び出しベルも鳴りラーメンを取りに行く。その後は比乃宮と昼食を食べ、午後の授業が始まるまで雑談を続けた。





 昼休みが終わり天耀学が始まる。初回は座学ではなく実習なのか、教室ではなく訓練室で行われるようだ。比乃宮と共に訓練室に行くと、僕たち以外のクラスメイトは全員揃っていた。どうやら僕たちで最後だったらしい。


 授業が始まるまで待っていると男の先生が入って来た。


 年齢は20後半から30歳か。朗らかに笑っており良い人という印象を受けるが、髪型が短髪のオールバックできっちりとした雰囲気も出している。


「私の名前は佐々宮貴斗(ささみや たかと)、君たちの天耀学を担当することになった者だ。よろしく」


 軽い自己紹介と出席確認をして、千変武創(トリビス)を僕たちに渡していく。


「早速だが、千変武創を起動して武器を作ってくれ。これは君たちの今の技量を確認するためのものだ。あぁ、作れなくても減点はしないからな。やるとしても加点だけだ」


 確かに、天耀力をどれだけ扱えるかを確認するならこれが1番簡単だろう。千変武創で武器を作るには天耀力の操作技術が求められるので、この方法なら練度が分かりやすい。


 周りの皆が武器を作ろうと千変武創に天耀力を注いでいるが、苦戦しているようだ。僕もやるか。


 千変武創を握る、それだけで昔の感覚が甦ってくる。千変武創による武器の形成は、僕にとっては呼吸をするのと同じ程度の難易度であり、形成するのに1秒もいらないがそれだと目立ってしまう。


 1年生の最初で千変武創を使えるのはかなりのレアケースだろう。なのでここは、周りと同じように苦戦しているふりをする。比乃宮の方を見てみると、苦戦してはいたが筋は良いようで、それなりに形が出来ていた。


「上手いな、アスカーディアに来る前に練習してたのか?」

「はい。中学生の時の授業で、出来ておいて損は無いという事で制御だけでなく、ちょっとした応用も教わっていました」


 声のした方を見てみると、神崎が佐々宮先生に褒められていた。確かに神崎の千変武創が1番綺麗な形をしているな。どれだけの期間教わっていたのか分からないが、中々センスがあるのだろう。


「よし、大体分かったからもうやめて良いぞ。皆初めてにしては悪くないな、これなら当初の予定より早く進めてもまぁ問題ないか。あぁそれと、その千変武創はもう君たちの物だ。もっと欲しいなら訓練室にいる職員に申請してくれ、追加で持ってきてくれる」


 千変武創に天耀力を注ぐのをやめる。上手く周りに馴染んで普通の学生らしく振舞えたはずだ。僕は良い手応えを感じ上機嫌になった。


「次は強化術についてだ。異能使いにとって強化術は千変武創の使用より基本的なことで、意識せずとも出来るから軽く見られがちだが、極めれば己の肉体そのものが武器となる。千変武創も天耀術式(フォルトゥス)も無しに強化術だけで世界でもトップクラスの実力者になった者は数は少ないが確かにいる」


 佐々宮先生は天耀力を纏い、腕を力強く振り上げる。それだけで風圧が発生し、髪が揺れた。


「まぁ、私程度の強化術でもこれ位のことは出来るようになる。次の授業では強化術を扱うから、そのつもりで。じゃあ今日はこれまで、解散して良いぞ」


 先生が授業の終わりを告げた。


 その時、先生がこちらを一瞬見たのに気づいたが、気づいていないふりをして比乃宮と訓練室を出た。

どうも、神座悠斗です。

もっと投稿ペースを上げたいと思いつつアイデアを纏めるのに時間がかかって上げられないです。

もっと精進します。

また読んでくれると嬉しいです。

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