意地
第4話が出来ました。
《序列12位太刀川玲奈と序列13位佐野錬治の決闘を開始します。決闘のルールは通常ルールで行います。ルールを説明します。
1.相手を死に至らしめる、並びに回復不能な傷害を与える攻撃の禁止。
2.開始の合図を告げるまで既定の位置で待機し、天耀力を練らない。
3.勝敗は一方が降参を宣言するか、審判AIが続行不能と判断した場合に決する。
以上のルールを守ってください。ルール違反に該当する行為を行えば、その時点で決闘は終了し、違反者の敗北として処理します。》
二人とも千変武創を構えている。ルールによって今は待機状態だが。
千変武創は異能使いが主に使う瞬間形成武装のことだ。天耀鉱石を核にして造られた武具で、待機状態の時は手のひらに収まるサイズの黒い棒になっている。天耀力を操作、集約、固定化することで、天耀鉱石が素体を具現化し使用者の望む武器を自由に形成することが出来る。
この武器の特徴的な点は、天耀力の操作技術が優れていればその場の状況に合わせた武器をすぐに作れる所だろう。ある時は剣で、ある時は槍で、ある時は......、といったように千変の戦い方が出来る。
と言っても、武器の形成には高い天耀力の操作技術が求められ、一つの武器種を形成するだけでも難しく、何通りもの武器を作れる者は成熟した異能使いでもそういないだろう。
《決闘、開始!》
AIが開始の合図を告げるとともに、ブザーが鳴る。両者は同時に前へ飛び出しながら千変武創を起動する。
形成するスピードが速いな。
太刀川先輩は槍を持ち、佐野先輩はガントレットを両腕に纏っている。
初速は太刀川先輩が若干早いな。互いに武器を展開し終えたと同時に太刀川先輩の間合いに入った。
突き出された槍を振りぬいた拳で迎え撃つ。
武器が衝突し、衝撃波がここまで伝わってきた。
1秒程拮抗していたが、太刀川先輩が押し切って佐野先輩を後退させる。やはり力の押し合いでは太刀川先輩に分があるようだ。
押し負けた佐野先輩はすぐに体勢を整え太刀川先輩の攻撃を捌いているが、リーチの問題で上手く攻めに出ることが出来ていない。
このままでは負けるぞ。
そう思っていたら、槍が突き出されたと同時に佐野先輩が大きく踏み込み、紙一重で躱し攻勢に転じた。佐野先輩が右ストレートを放ち、そこから次々に拳打の嵐を浴びせる。しかし、太刀川先輩が体術で応戦し、凌いで距離を離すことに成功した。
甘いな。でも悪くない。柔らかくて繊細だ。
やはり距離を詰められた時の対処法は身に着けているか。
互いに次の手を読みあって動こうとしない。力では太刀川先輩が上回るが、技量は佐野先輩の方が上だな。捌きや攻撃の腕が太刀川先輩よりも上手かった。柔よく剛を制す、そんな展開になるだろうか。
だが、僕の勘がそうならないと告げている。まだ、何かある。
「予想以上に強いわね。見た目によらず守りが巧いわ」
「そっちも随分強いな。今まで戦ってきた奴らならもっと攻めれたんだがな」
「貴方との戦いが楽しいからもっと続けたいけど、クレープが待っているから……」
そう言って、太刀川先輩が制服の内ポケットに手を入れる。出した手に持っていたのは千変武創だった。千変武創を槍にして構える。
「私はここからが全力なの。そのままのギアじゃ、すぐにやられるわよ」
二刀流ではなく二槍流。これが太刀川先輩の全力か。太刀川先輩が走る。先程よりも速く、鋭い。その勢いのまま佐野先輩を攻撃する。1本から2本に。攻撃の手数が増えたことで佐野先輩は防戦一方になり、攻撃に移れない。佐野先輩もギアを上げ、なんとか捌き続けているが、長くは持たないだろう。
「はぁぁぁ!」
太刀川先輩の槍が佐野先輩の防御をすり抜けて腹部に突き刺さる。佐野先輩は顔を歪めるが、刺さった槍を持つ手を握りしめ、太刀川先輩を掴まえる。太刀川先輩はすぐに距離を取ろうとしたが、それより早く佐野先輩が拳を鳩尾に打ち込む。直撃したな。太刀川先輩が吹き飛び決闘場の壁にぶつかる。
佐野先輩は刺さった槍を引き抜き、投げ捨てる。出血してはいるが量は少ない。自前の筋肉と天耀力で抑えているのだろう。佐野先輩が構え直したと同時に、太刀川先輩も起き上がる。小さくないダメージではあっただろうが、動きは鈍くなっていない。
「刺さったまま反撃するなんて、初めての経験だわ」
「奇遇だな、俺も初めてだ。かなり痛いが、クレープのためだ。これくらいするさ」
マジか、クレープって凄い。
「人はクレープの為なら出血しても良いらしい。また1つ勉強になった」
「いや、あの人たちだけじゃないか? あれを普通だと思うなよ、欠神」
「分かっている、冗談だ」
熱い展開になってきたが、そろそろ終わりだな。2人の雰囲気からそう感じた。
「次で終わらせましょう」
「あぁ、これで終わらせる」
天耀力を限界まで練っている。次の一撃でこの決闘に決着がつく、この場にいる全員がそう思った。
太刀川先輩が飛び出すが、佐野先輩は動かずに構えたままだ。太刀川先輩の攻撃を受け流してカウンターを狙っているのだろう。目を見開いて動きを見ている。少しの動きも見逃さず、どうやって攻撃してくるのかを予測しているようだ。
太刀川先輩の間合いに入った。シンプルに槍を突き出す。最速の槍が佐野先輩を襲うが、予測通りだったのか、最小限の動きで流れるように槍を受け流そうとする。
悪くない動きだ。でも読みが浅かったな。
受け流すつもりだったが、太刀川先輩が突然槍から手を離したことで動きが少し止まる。一瞬の動揺。すぐに動きを修正するが、それは確かな隙だった。
太刀川先輩は素早く踏み込み先ほど刺した左腹部に寸分違わず渾身の正拳突きを放つ。何とか意識を飛ばさずに立っていたが、後ろ蹴りをまた同じ箇所に決められたことで限界を迎えた。
佐野先輩が決闘場の壁に勢いよく吹き飛んだ。あの状況で槍を手放すとはな。佐野先輩は立ち上がろうとしているが、ふらついていて立ち上がれない。
《決闘終了。勝者、太刀川玲奈》
AIが決闘の終了を告げた。予想通り太刀川先輩が勝ったが、佐野先輩の守りの腕が予想以上だった。もう少し早く終わると思っていたんだが……クレープの為にあそこまで粘るとはな。
ただの食い意地と侮れないな。
しかし、ボリューム満点で高い満足感が得られるな。これがその辺にあったりするのか。
うまく立ち上がれないでいた佐野先輩に太刀川先輩が手を差し出した。佐野先輩はその手を取り立ち上がる。
「おめでとう。クレープはそっちの物だ。途中からクレープ抜きに普通に勝ちたかったんだがな」
「ありがとう。私も貴方と戦えて良かったわ」
2人が笑顔で握手をしている。決闘が始まるまで仲が悪かったのに、今はそんな雰囲気を感じさせない。昔の漫画で最初は仲が悪くても河川敷で殴り合えば友達になれる展開があったようだが、意外と本当のようだ。
「あぁぁぁぁ!?」
急に太刀川先輩が叫んだ。こっちを見ている。正確には、僕が持っている限定クレープをだが。先輩がこっちに詰め寄ってくる。
「な? ばれたら面倒くさいことになるぞって言ったろ」
比乃宮が呆れたように言う。
「ちょっと!? なんでそのクレープを貴方が食べてるのよ! 私たちそれを賭けて決闘してたんだけど! 見てなかったの!?」
「いや、見てましたよ。クレープ屋の前で言い争っている所から見てました」
「最初から見てるじゃない!? じゃあなんでそれを買ったのよ!?」
「2人は決闘でこのクレープを賭けの対象にしていましたが、店員に取り置きしておくよう頼んでいなかったので、誰でも買える状態でした。買う権利は平等にあり、僕はその権利を行使しただけです」
「うっ、確かに頼んでない。でもっ、遠慮くらいしなさいよ。決闘してるとこ見てたんでしょ? 怪我してるのよ? 1人はお腹に槍が刺さったのよ?」
「先輩方が勝手に決闘して勝手に怪我したんですよ。というか刺したのは先輩でしょう」
ぐぬぬと唸ってこちらを睨んでいるが、僕は自分に非があると思っていない。取り置きをしていない時点でこちらが負けることは無いだろう。
「じゃあ残りは頂戴。お金は払うから」
「あと一口ぐらいしかないですけどそれで良いなら構いません」
クレープ代の送金を確認し、僕から残りのクレープを受け取って食べる。満面の笑みになって機嫌が目に見えて良くなっているのが分かる。
「とりあえず帰ろうぜ、もういい時間だしさ」
「そうだな。学生寮に行こう」
途中で飲食店に寄り夕飯を済ませ、学生寮に着く。僕と比乃宮は自室のある階が違うようで、またなと言って別れた。1人一部屋で、才ある三十人以外の普通の部屋は八畳1ルームだ。この部屋がこれから暮らす家になるのか。初めての一人暮らしで緊張するが、すぐに慣れるだろう。
今日は疲れたし、すぐに休もう。こうして僕のアスカーディアでの1日目が終わった。
どうも、神座悠斗です。
新しいことを始めるとその分今までやってたことを削る必要が出てきますよね。僕は今まさにそれです。
小説を書く活動が新しく入ってきたことで時間の使い方を見直しています。
これからも書き続けるので良ければまた見てください。