ハウンド
久しぶりの投稿ですね。本当に久しぶり過ぎてもう記憶から消えてたと思います。
第18話出来ました、どうぞ!
とりあえず、生徒会か風紀委員会の幹部生徒を見つけたい。
もうどちらかの専用部屋に集まってるか? まずは生徒会室に行ってみるか。
生徒会室に向かう道中、才麗学園の惨状を見る。
校舎や道には痛々しい破壊痕が刻まれていて、精巧に造られた壁や地面が不細工な形になっている。
生徒も怪我と疲労を全身で表現しており、顔についた土と血を払うこともせずに、多くの生徒が地面に仰向けになって脱力していた。
正に満身創痍といった状態で、襲撃を乗り切った喜びと死ぬかもしれなかった恐怖が混在しているのが今の才麗学園だ。
周囲の状況を眺めながら歩き続け、生徒会室に着いた。風紀委員会室と違って扉に僕の情報を登録していないので、インターホンを鳴らす。
「欠神戒斗です。扉を開けてくれませんか」
すぐにロックが解除される音が聞こえた。扉を開けて入ると生徒会長と風紀委員会の幹部生徒、更に工藤さんがいた。
「この前と逆ですね。金鞍先輩がいたら完璧なんですけど」
「金鞍は襲撃の後処理でいない。こんな呑気なことを言えるくらいには無事みたいだな」
僕の無事に安堵しているが、会長の顔は険しいままだ。
榊委員長が口を開き、被害状況を伝達する。
「今回の襲撃の裏で連れ去られた生徒は23人。行方はまだ分かってないわ」
悔しさと怒りが全面に出た顔はその端正な容姿を歪め、身体から滲み出た天耀力は今にも爆発しそうな不安定さがある。
榊委員長に続いて、顔を下に向けて静かに座っていた工藤さんが話し始める。
「……警備隊は突きとめたデルポートスのアジトに奇襲を仕掛けようとしたが、あれは罠だった」
当時の状況を思い出しながら語る工藤さんは、掠れるような小さな声で紡ぐ。
「我々が見つけたアジトは、あちらが意図的に見つけさせたアジトだった。油断していた我々に、爆道が多くの構成員を率いて逆に奇襲を仕掛けて、返り討ちにあったよ……。ろくに態勢を整えることも出来ずに蹂躙され、多くの死傷者を出してしまった!」
机の上で固く握られた拳からは血が出ており、工藤さんの中で渦巻く激情を表出している。
敵の掌の上で踊らされて大切な部下を喪い、一矢報いることすら彼らによって許されなかった。これ程屈辱的なことはないだろう。
本当のアジトは分からず、どうすれば良いのか分からない。
皆の心は折れていないが表情は確かに陰っていて、暗い空気が覆っている。
そんな彼らに、慰めの言葉をかけるつもりはない。正直言って面倒くさいし、僕には向いていない。
なので、僕は必要な事だけ言う。
「あの、奴らのアジトなんですけど、分かりますよ」
僕の言葉を聞いて全員が見てくる。鬼気迫る表情だからかなり怖い。
「欠神くん、その、冗談じゃ……なくて? 本当なの?」
「勿論。流石にこの状況で冗談言う程の度胸無いですよ。追跡には、このカードを使います」
制服の内ポケットに入れていたカードを取り出す。取り出したカードを見た皆の反応から、驚きと疑問が見て取れた。
「えっと、欠神。それがカードか? 紙ナプキンじゃなく?」
「紙ナプキンではありますよ。ただ、紙ナプキンが追跡の為のカードになってるだけです」
困惑したままの彼らを納得させる為に、手っ取り早く証拠を見せることにしよう。
人差し指と中指の間に挟んだカードに天耀力を流し込む。すると、カードから紋様が浮かび上がってくる。
カードは発光し、青白い糸のような天耀力がどこかに向かって小さく伸び始め、1メートル程で止まった。
「これは一体?」
「このカードはハウンドと言って、僕が術式を編み込んだ二枚一対のカードです。狩人のカードとして設定したこれに天耀力を流せば、こうやって糸が伸びてもう片方の、獲物のカードが何処にあるかを教えてくれるんですよ。そして、獲物のカードは連れ去られた比乃宮が持っている」
先程まで胡乱げな目をしていたが、僕の説明を聞いてすぐに疑念は消えて火が灯った。
「それを使えば、奴らの居場所が……分かるんだな?」
「一応言うと、比乃宮がちゃんとカードを持ってたら、ですね。まぁ、何もしないよりはマシでしょう」
「そうだな。あぁ、そうだ」
工藤さんの顔から陰りは消え、やる気に満ち溢れている。
1番冷静な会長が希望に浮かされている皆に、次に決めるべきことについて話し始める。
「では、突入するメンバーを決めよう。最優先にするのは攫われた生徒の救出だ。敵に気づかれないように人数はなるべく少なくしたい。そして、生徒会は学園の後処理と再度襲撃される可能性に備えるために才麗学園を離れられない。だから風紀委員会の幹部生徒から選出したい」
「ウチは残るよ。ウチは護りが性に合ってるし」
「ぼ、僕も残ります。僕はちょっと目立ちやすいですから」
「じゃあ盾街と獅子宮に残ってもらう。突入メンバーは、工藤さん、榊、白井、彩辻、欠神で良いな?」
こくりと頷いて承諾する。迷いは無く、ただ覚悟がそこにはあった。
「よし、では頼んだぞ」
それじゃあ、反撃開始といくか。
1
目が覚める。
俺、何してた? てか頭痛ぇ……。
後頭部の痛みが引いていくのとすれ違いに、背中から硬い感覚が伝わってくる。
立ち上がって周りを見てみるが何も置いていない四角形の部屋で、強いて言えば静かな空気しかない。
部屋をぐるっと回って見ていると扉が開いて誰かが入って来た。
「おっ、目ぇ覚めてる、気分はどう? 具合悪くない?」
「……お前と会ったことで悪くなった」
「おーそれは失礼。ま、大丈夫ってことでいいか」
けらけらと笑いながら壁にもたれて話してくる。その何をされても問題無いという風な余裕さは、正直苛立たしい。
だが、ここで爆動と戦っても自分ではどうすることも出来ないことは理解しているので、大人しくする。
今は情報が欲しい。ここが何処で、どれだけの戦力がいるのか。
まだ冷静になりきれていない心を深呼吸で落ち着かせる。
「ふぅ。ここは何処だ? アスカーディアではあるんだよな?」
「勿論だよ。僕の目的は君の友達を釣るためだし、もしアスカーディアの外に連れ去るなら本部の力が必要になってくるからね」
アスカーディアから出てはいないのか。なら、各学園のエリアを除いて考えれば良い。と言っても、商業エリアとあと1つしかなく、十中八九後者だろう。
悪の楽園。アスカーディアの南部の外れに根付いた裏社会で、悪人共が蔓延る魔窟だ。
今までに何度も犯罪の楽園を排除しようと武力行使もしたが、結果は見ての通り。冷戦状態が続いているだけで、状況は変わっていない。
こうしている間にも、また新たな犯罪者が生まれているのだろう。
「相談なんだけどさ、彼を説得するのに協力してくれないかな?」
「説得って、何のだよ?」
「デルポートスの仲間になることだよ。彼強いし、足りなくなった戦力の補強にピッタリじゃん。で、仲間にしたいわけなんだけど、殺さずに捕まえる自信無くってさ。君が協力してくれたら平和にやれると思うんだよ。殺せないのが本当に残念だけど、背に腹は代えられないからね」
本当に残念そうに、ため息を吐きながら言う爆動。
爆動のことはただの戦闘狂だと思っていた。でも、違った。
爆動敷弥は殺人を何とも思っていないしむしろ望んでやる、血闘狂なんだ。
先天的か後天的かは分からない。
でも確実に言えるのは、爆動は一般人とは住んでいる世界が違う人格破綻者だということ。それを理解して、目の前にいる存在が同じ生物だと思えなくて身体が震えだす。
「あらら。大丈夫? 震えてるけど。まぁ良いや。それで、協力してくれる?」
恐怖はある。でも、
「……笑ってるけど、何か面白いこと言った?」
恐怖で震えている身体で、口角が上がっているのを感じ取る。
爆動の目を見て、心で負けないように口を大きく開けて話す。
「お前さ。随分自信あるみたいだけど、本当に大丈夫か?」
「ん? 何が?」
「あいつは、お前が思ってるよりずっとずーっと強い奴だ」
確証は無いけど確信はある。
欠神は他とは違う奴だ。いつも皆と違う視点で世界を映すその目を見る度に、そう思わされる。
「お前が強いのは分かってる。でも、あんまり舐めてると痛い目見るぜ?」
「ふーん。そっかー、それは楽しみにしなくちゃね」
からっとした口調で楽しげに笑いながら返される。
「とりあえず君の無事は確認出来たし、僕はもう行くね。大人しくしててよ」
思ったよりしつこく食い下がってこなかったので拍子抜けだ。こっちが乗ったタイミングで降りやがるがら気持ち悪りぃ気分になる。
無防備に背を向けて部屋から出ようとする爆動を襲うだなんてことはしない。
俺じゃすぐに制圧されて終わるのは理解してる。俺が今やるべきことは、自分の身を守ることだ。
絶対にここから生きて出るんだ。まだやりたいことが沢山ある。
ここで死んだら、もう終わりなんだ。
脱出の糸口を掴むために、苦手だが頭を使う。深く考えるのに慣れていない自分の頭脳だと驚くくらいに早く集中力が切れる。
くそっ、こんなんじゃ駄目だろ!
諦めずに続ける。自分に出来るのはこれくらいだから。
こうして俺は、希望を胸に思考の海に身を投じた。
2
うーん、比乃宮くんは中々意志が固いな。ああいう子は強くなりやすいから好きなんだよね。
「ただの人質感覚で連れてきたけど、彼も欲しいなぁ」
「本っ当に戦いのことしか考えてないですね……」
「だって楽しいじゃん。霧那ちゃんもさ、もっと気楽にやっていこうよ」
「そうですか。私には難しそうです」
襲撃から戻って来た霧那ちゃんと話すが、そこに温かさは無い。
僕たちはただのビジネスパートナーで仕事を成功させるために組んでるだけだ。会話の内容も仕事のことだけで、親交を深める類の話が飛び出てくることは無い。
僕はそんな空気が嫌でよくメンバーに絡んでいるのだが、今のところその成果は表れていない。
ま、別に良いんだけどね。正直言って彼女たちはそそられないから。
強さも在り方も、全部物足りない。
こんな僕にだって選ぶ権利はあるんだ。満足出来る相手と戦りたいと思うのは何も間違ってない。
やっぱり今は、一般モブよりも彼のことだ。確か名前は、欠神くんだったっけ?
彼なら僕たちのアジトを見つけれるだろう。あくまでも予想で、確信では無い。
でも、そう思わせるだけのオーラを彼から感じた。
比乃宮くんも彼のことを評価してるようだし、僕の予想は間違いじゃないかもしれない。
「いやー、楽しみだなぁ。早く来ないかなぁ。君もそう思わない? 天羽くん?」
「……」
「あー、そっか。ごめんごめん。ちょっと配慮足りてなかったね」
何も言わずに、俯いたままの天羽くんに謝罪する。
彼は大好きな友達を裏切って今ここにいるんだから、元気が無いのも仕方ない。
いやー、いけないいけない。こういう気遣いが僕には足りないんだよなぁ。
「そういえば、上から連絡が来てましたよ」
「え、ほんと? 何て言ってた?」
「最近、派手に動きすぎてるから少し控えろ。これ以上我儘を続けるようであれば、こちらも対応を考えざるを得ない。しばらく大人しくしろ。とのことです」
機械的な冷たい態度で上からの連絡を報告する霧那ちゃん。
彼女の氷の仮面を脱がせられる人なんているのかな? いなさそーう。
それにしても、ついに上からお叱りの言葉を貰っちゃったな。派手に動いている自覚はあるし、いつかは来るとは思ってたけど、このタイミングで来るかぁ。
盛り上がって来たタイミングで入って来た横槍に、思わず溜息が出てしまう。
欠神くんと戦いたいし、何なら才麗と戦争しちゃいたいくらいだけど、確実に怒られるよな。
そうなったら僕という処罰者を殺すために、本部から執罰葬隊が来るだろう。
彼らには勝てる自身が無いというか、絶対に殺されるので来て欲しくない。
「困ったなぁ、どうしたら上に怒られずに戦えるんだろう?」
「戦わないという選択肢は無いんですね……」
「そりゃ勿論。久しぶりに楽しいことが起こるかもしれないんだ。この機会を逃したくない」
悩みごとはあるけど、何とかなるの精神でやっていこう。
ソファで横になり、気楽に待つことを決めた。
霧那ちゃんの溜息が聞こえてきたけど、聞かなかったことにしよ。
どうも、神座悠斗です。
一か月とちょっとぶりの更新ですね。ガチすいません。
8月入って夏休み入ったら更新ペース爆上げするので許してください。
ではではー。ノシ