学園襲撃
第17話出来ました。
奴らが去った後に警備隊が到着して、何があったのか事情聴取された。
「なるほど。じゃあ2人とも怪我は無いんだね。しかし、あの爆動に狙われるだなんて災難だな」
「俺っていうか、あの夜に俺を守ってくれた奴を誘う目的だったと思うんで、俺自体はどうでも良いと思ってるんじゃないですかね。てか、結構有名なんすか?」
「暴れたがりでかなりの戦闘狂なんだ。こっちも手を焼いているよ」
比乃宮はさっきの戦闘で僕があの時の乱入者だと気づいているはずだが、どうやら隠してくれるようだ。
「いやそれにしても欠神くん、君は色んなことに巻き込まれるな。短期間にこうも事件に巻き込まれるのはある種の才能と言えるだろう」
「嬉しくない才能ではありますけどね」
「それもそうか。それじゃあ、気をつけて帰るんだよ」
警備隊の人たちに見送られて寮へ向かい始める。
並んで歩くが、いつもと違う。普段は積極的に話を振ってくる比乃宮が黙っているから、僕たちでは珍しい沈黙が存在している。
気まずさが故の沈黙ではないのは助かるな。
とりあえずこちらから話を始めよう。まずは、
「どうして警備隊に僕のことを言わなかったんだ。今も僕のことを聞いてこないけど」
「ん? 別に、気になってないわけじゃないぜ。正直色々質問したい。でも、欠神はあんまり突っ込まれたくないんだろ? じゃあ聞かない。そんだけ」
「……そうか」
何でもない風に言う比乃宮に、ありがたさと同時に罪悪感を感じてしまう。
僕は比乃宮を見くびっていた。比乃宮の思慮深さを見抜けず過小評価してしまった自分の早計を恥じる。
謝罪の言葉を口にしようと思ったが、比乃宮はそれを望まない性格なので止める。なので代わりに胸の中で謝罪する。
「それよりもだ、どうすんだよ。あいつに正体バレたのはヤバいんじゃないか? 才麗の生徒ってことも把握されちゃったし、気ぃ抜けないだろ」
「面倒になったとは思ってるけど、まぁ問題無いだろう」
爆動は好戦的な性格でまた急に襲ってくることがあるかもしれないが、しばらくは大人しくすると予想、というか期待している。
街中で人も警備隊も多くいた状況だったにも拘わらず、そんなことは関係無いと戦闘を始めたことで、警備隊は警戒レベルを引き上げて街を守るはず。
これは誰でも考える、というか考えずとも分かることだ。
だが、爆動は戦闘能力はあっても先のことを考える頭脳は無いタイプ。
典型的なその時の感情を優先する奴、つまり気分屋だ。
ああいう手合いは動きが読みづらいから苦手としている。ちゃんと頭を使う人が相手の方がまだやりやすい。
大人しくすると予想してはいるが、正直70%は外れると思っている。
明日また奇襲されてもおかしくはないと思っているが、そこはあの時の三叉槍の人が抑えてくれることを願う。
あの人はまだ話が通じる人で、恐らく爆動のストッパー役を担当しているんだろう。
「とりあえず、奴らが捕まるまでお互いに警戒はしておこう」
「賛成。警備隊が何とかしてくれるのを待ってようぜ」
面倒な問題が増えたことで思わずため息が出るが、起きてしまったことは仕方ないと諦めて処理する。
圧倒的な包容力がある布団なら解決出来るか?
そんな馬鹿なことを考えながら、目を閉じて今日を終わらせた。
1
意外にも平和な日々は続いており、ここ4日は天羽先輩が失踪したこと以外何も起こっていない。
彩辻先輩が顔色を悪くして1人でベンチに座っていた姿は記憶に新しい。
学校の無断欠席が重なり連絡をしたが繋がらず、寮の部屋を確認したがいなかったとのことだ。
監視カメラなどで行方を追跡したが、途中で煙に紛れて見失ってしまったらしい。あの時の女性の能力によるものだろう。
榊委員長から聞いた話をまとめるとこんな感じだ。
こうなることは分かってはいた。なので周囲と違って驚くようなことは無い。
ただ、予想と違う展開にならないかなと期待はしていた。
結果に出ることは無かったが。
幸いなのは、デルポートスの根城を突き止めてもうすぐ突入するらしく、事件の解決が見えてきたということだな。
これも榊委員長から聞いた話だが、それなりに関わっているとはいえ、ただの学生にここまで喋っても良いのか? まぁ何かあったら委員長のせいにしよう。
それより教室を移動して次の授業の準備をしないとな。比乃宮たちはもう行ってしまったし、急いで行―――
轟音。
学園全体に鋭く、叩きつけるような音が響いた。その後に混乱。
視力を強化して窓から外の状況を確認すると駅の方から黒煙が立ち昇っており、そこから武装した集団がぞろぞろと出てくる。手の込んだドッキリであってほしいものだが、現実はそうなってはくれないらしい。
黒煙の中から最後に出てきたのは、煙の女性だった。
良く見ると怪我をしている。女性の不満げな顔と雰囲気から考えるに、文字通りの力尽くで爆動の意見が通されたのだろう。
武闘派組織ならそういうことはよくあるのだろう。仲間割れの原因になりかねないし戦力を弱らせることにもなるから敵としては嬉しいことだが、随分と馬鹿なことをやっているなと思う。
それでも勝てるという自信からやっているのか、本当に考え無しでやっているのかは判断しかねるな。
思考していると下の方から次々と戦闘の音が聞こえてくる。立ち止まって呑気に考えている場合じゃないな。
戦況を俯瞰するために、窓から外に出て屋上に行こう。
パルクールとフリークライミングを合わせたイメージで動き、出っ張りなどを掴んだり足場にしたりして屋上に着く。
学園中から煙が上がっていて、生徒も教員も皆戦っている。1番危なそうなところは……あそこか。恐怖に支配されて動けなくなっていてまともに応戦出来ていない。
地面を蹴って風を追い抜く速度で助けに行き、武器を振り下ろそうとしている敵と蹲る生徒の間に入る。
突然現れた僕に敵は困惑しているが、こっちはそれに付き合う気は無い。手首を打つことで骨を折り、武器を落とさせて武装解除させる。
近くにいた仲間が僕に気付いて槍を持って突進してきた。なので武装解除した奴を間に入るように移動させて刺させる。驚いた表情で硬直している隙に背後に回り込んで絞め落とす。
残りの敵も一斉に襲い掛かってくるが、これ以上時間をかけたくないから一気に倒そう。生徒を巻き込まないように調整して、天耀力を放出する。
天耀力に押し出されるように吹き飛ばされ、そのまま全員気を失ったようだ。
これでここは大丈夫だろう。他の戦場にも行こうとしたら、声をかけられた。
「あ、あのっ。助けてくれてありがとうございます!」
「お礼はいりません。今は安全な場所に避難することを最優先に動いてください。それでは」
「あっ」
高く跳躍して次の戦場を探す。
まだ何か言いたそうだったが、それは今必要じゃない。また機会があった時にでも聞かせてもらおう。
2
跳んで行ってしまった男の子を見る。
耳を塞いでしまいたくなるくらいに胸がうるさい。今までの人生で、こんなにうるさくなったことなんて無いはずだ。
何かが爆発した音が聞こえたと思ったら、数分の時間を置いて武装した怖い人たちに襲われた。
逃げなきゃいけないのに、身体が言うことを聞かなくなって動けない。
ぺたんと尻餅をついて座り込む私に、敵は悠然と歩いて近づいてくる。周りに友達はいないし、頼れそうな人もいない。
汗が止まらず、涙も出てきた。
せっかくメイクしたのに、台無しになっちゃったなぁ。
やけに思考は落ち着いて、数秒後には死んでしまうというのにくだらないことを考えてしまう。容量を超えた情報量に脳が追い付かなくなったのかな。この分析も、今は何の役にも立たないっていうのに。
視界の片隅で今までの人生が上映されているのを背景に、敵が武器を振り上げる動きを何もせず見つめる。
あぁ、死ぬんだな。誰にも見られず、ここで終わるんだ。
終わりを受け入れようとしたその時、現れた。
彼は驚く程冷静に素早く敵を倒していき、全て倒したことを確認して別の場所に移動しようとしていた。だから声をかけて止めた。彼の力を必要とする人がいることを分かっていながら。
助けてくれた男の子をよく見てみる。
程良く伸ばした黒い髪に、光が無い黒い目。顔は良いけど、黄色い声があがる程ではない。でも私好みではある。
というかもの凄く無表情なんだけど。ミステリアス系なのかな?
とりあえずお礼を言って他にも何か話そうと思ったけど、すぐに何処かへ行ってしまった。無視されなかっただけ感謝しよう。
「名前聞きたかったなぁ」
もしかしたら、私は……。
思考が爆発音で中断される。早く避難しないといけないんだった。
また会いたい。
自分の中で新たに芽生えた感情を自覚しつつ、この場を立ち去った。
3
また1人、敵を無力化する。
学園襲撃から時間が経ち、徐々に混乱から脱して侵入者たちに応戦し始めたことで、事態は収束の一途を辿っている。
風紀委員会と生徒会、教員を中心とした人たちに反撃を任せても良いだろう。
僕はずっと考えていた。今回の襲撃の目的を。
数が多いだけで戦力は並程度、練られた作戦は無い。
ただ、学園中で戦闘が展開されるように動いていた。
まるで、こちらの戦力をなるべく分散させるように。まるで、探し物を手分けして探すように。
これに気づいて、ある結論染みた考えが生まれる。
今回の襲撃の目的は人質確保。爆動の性格を考えると、僕を誘う為の人質確保だ。
比乃宮がメインで、無関係な生徒もある程度攫われているだろう。そして、目的は達成されたようだ。
「一応聞くが、無事なんだよな?」
「えぇ、勿論。まったく……あの人の我儘には困ったものよ。雑兵とはいえ、それなりの戦力を投入することになったわ」
うんざりとした様子で答える。本当に嫌だって顔をしているな。
「苦労してるんだな。察するよ」
「……私に襲いかからないのね」
「万が一にも無いと思っているが、ここであんたを襲って比乃宮が死ぬことになるかもしれないからな」
「そう。ねぇ、貴方。うちに来ない? 歓迎するわよ」
犯罪組織の勧誘を受けてしまった。が、答えは決まっている。
「無理」
「随分簡潔に断るわね。まぁ良いけど」
予想通りだったのか食い下がることなく勧誘を終わらせる。その目は諦めた色をしていないのだが。すっと諦めて欲しいものだ。
「それじゃ、私はもう撤収するわ。また会いましょ」
煙が彼女を隠し、そのまま消えてしまった。さて、どうしたものかな。
忘れたころにやってくる男。どうも、神座悠斗です。
先に明言しておくのですが、これからも更新が遅くなることが多々あるので、その度に謝罪をしていたらきりがないので、あんまり謝らないようにします。
これからも楽しみにして待ってて下さると嬉しいです。ではではー。ノシ。