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ストレイシープ

久しぶりの更新ですね。

第15話、どうぞ!

 昨夜は散々だったな。レールの上を走って帰宅するなんて初めての経験だし、もう二度とやることは無いだろう。というかあって欲しくない。


 あんなことがあっても、いつも通り学校はある。


 目に入ってくる多くの学生にとっては何でも無い日で、僕にとっては重労働を終えた後の日だ。それも下手をすれば死人が出てもおかしくはなかったレベルの。

 

 目の前で昼食を食べている友人は、まさに死人になってもおかしくなかったのだが、表面上はいつも通りの雰囲気だ。


 そう、表面上は。それなりに比乃宮と接してきたから分かる。今の比乃宮はその振る舞い程の穏やかな心境ではない。


 比乃宮は殺されかけた身で、迫りくる死を感じながら必死に生にしがみつこうと足掻いていた。


 そんな人間が、一晩明かした程度でいつも通りに戻ることは難しい。きっと、逃げて寮に帰った後も追っ手が来ないか不安に思っていたはずだ。


 そんな比乃宮に昨夜のことを思い出させるようなことをするのは気が引けるが、何故あの場にいたのかを聞き出そう。


 薬物事件を解決することは比乃宮の身の安全に繋がるだろうし、ここは心を鬼にさせてもらうぞ。


 と意気込みはしたが、どうやって聞き出すべきか。


 こういう探りは得意じゃないので骨が折れるが、何もしなけば前進出来ない。まぁ、なるようになるか。


「比乃宮、大丈夫か?」

「え? 何が?」

「いつもと何か違う気がするんだ。昨日僕と別れた後に何かあったのか?」

「あー、まぁちょっとな」

「となると、部活か。大変で疲れたとか、そういう系か」

「そういうのでもないんだよなぁ」


 こちらの質問に煮え切らない答えばかり返ってくる。比乃宮からしたら、何も知らない友人に昨夜のことを話すのは躊躇う案件か。自分が死にかけたわけだしな。


 悩みに悩んでいた比乃宮だが、覚悟を決めたのかこちらを向いて曇りの無い目で見てきた。


「決めた、話す。えっと、昨日の部活で先輩の様子がおかしかったのが始まりだな」

「先輩、か」


 その先輩はきっとあの時いた人のことだろう。


「まぁその先輩以外も変だなぁ、って人はいるんだけどな。でも昨日は特に変っていうか、おかしかったんだ」

「特に、か。どんな感じだったんだ?」

「急にキレて他の部員に当たり散らかして、かと思えばまた急に冷静になって……マジで取扱注意の危険物って感じだったな。これで厄介なのがさ、その先輩めっちゃ強いんだよ。暴れてもすぐに抑えるのが難しくて、本当に大変だったんだ」


 昨日のことを思い出して、やれやれと肩を竦める比乃宮。


「なるほどな。それで、その先輩がどうしたんだ?」

「マジで大丈夫かよって思って、部活終わりに先輩の後を尾けてみたんだ。部活の時みたいに誰かに噛み付いたりしたら大変だろうし、何かあった時の対応役として。そしたら寮に真っすぐ帰らずに商業エリアに向かったんだ。で、怪しい雰囲気いっぱいの路地裏に入ったと思ったら、見るからにヤバい奴と取引みたいなことしてたんだ」


 それであの場にいたのか。お人好しが原因で薬物事件に巻き込まれるとは、災難だな。


「俺はヤバいと思って帰ろうとしたんだけど、ヘマしちゃってさ。それで大変な目に遭って、とりあえず無事に帰れたんだけど、流石に怖くてすぐに寝付けなかったんだ」


 後半は流石にぼかしたか。まぁ、問題無いので構わないが。


 それにしても、闘錬部か。天羽先輩のこともあるし、やはりそうなのか?


 考え込んでいると、ポケットに入れているスマホが振動して鳴った。画面を見てみると、榊委員長からのメッセージが来ていた。


 今日の放課後に薬物事件のことで話がしたい、という要件だった。


 放課後は何も予定が入っていないので承諾のメッセージを送る。


「比乃宮、これをやるよ」

「何だこれ?ナプキン?」

「僕特製の魔除けのカード。それを持ってたら危険から身を守ってくれるぞ」

「何だそれ、まぁありがたくもらっておくよ」


 カードを胸ポケットに入れたのを見て、食べかけの昼ご飯を完食し放課後まで時間が進むのを待った。





 放課後になり、風紀委員会室に向かう。認証装置にスマホをかざし中に入ると、榊委員長と幹部メンバー、そして生徒会長がいた。


 全員気の引き締まった顔をしており、穏やかな空気は一切無い。


「久しぶりね、欠神くん。来てくれてありがとう。メッセージでも伝えたけど、例の薬物事件に進展があって、関わりのある欠神くんにも知ってもらおうと思ったの」

「そうですか。それで、何かわかったんですか?」


 適当な椅子に座り、榊委員長からの情報を待つ。


「えぇ。実は昨日の夜に商業エリアで騒動があって、その近くに才麗学園の生徒が倒れていたのが発見されたの。最初は騒動に巻き込まれただけの生徒だと思ったんだけど、身体検査をした時に体内からブーステッドドラッグの成分が検出されて、その生徒の取り調べが始まったわ」

「取り調べによって、同じようにブーステッドドラッグに手を出した生徒の情報を吐き、そいつらも今は寮で謹慎処分を受けている。そしてこれが今回の1番の情報だ」


 星河会長が腕を組みながら言葉を口に出す。


「警備隊らと連携して情報を繋ぎ合わせ、薬物事件の黒幕の組織が分かった」

「へぇ、分かったんですね。ちなみにその組織は一体何なんですか?」

「組織の名前はデルポートス。世界屈指の犯罪シンジケート、ディザイアスの下部組織の1つだ」

「ディザイアス、ですか」


 ディザイアス。超巨大犯罪シンジケートであり、世界中で暗躍している組織だ。かなりの武闘派組織で、リーダーは超越者(オーバーロード)級の実力者だと言われている。


 異能使い(エクストリア)は実力が認められれば称号を得ることが出来て、下から挑戦者(アジュラ)到達者(マスター)英傑(グランド)、超越者となっており、超越者級は個人で戦略兵器に匹敵する脅威と認識され、国を壊滅させることが可能だとされている。


 下部組織とはいえ、そんな組織のメンバーが黒幕とはな。この事件はかなり慎重に取り組むべき案件のようだ。


 重い表情をしている生徒会長は、続けて言葉を発する。


「取り調べなどで当該事件の敵の正体が分かったが、それは学園外の敵だけではない。才麗学園にブーステッドドラッグを引き入れたきっかけとなった者も分かった。そいつは欠神も関係している奴だ」

「天羽先輩のことですか?」

「ほぉ……。知っていた、というよりは見当がついていたといったところか。何故天羽だと思ったんだ?」

「天羽先輩の天耀力(アルナ)に違和感を感じたのが材料ですね。天羽先輩から出た天耀力のはずなのに、借り物の天耀力のように感じて……それがブーステッドドラッグの効果に似ていると思ったんです。確証は無かったですけど、やっぱりそうなんですね」

「あぁ、残念なことにな」


 視線を下げて言う生徒会長は悲しげで、本当に残念に思っているようだった。前も思ったが、この人も生徒を大事に思っている人なんだな。


「天羽先輩も謹慎中ですか?」

「いや、謹慎はさせず普通に過ごさせている。天羽は才麗学園で最もデルポートスに近い生徒だから、自由に動かして黒幕に接近するのを待つ方が有用だと、警備隊との話し合いの結果で決まった。今も風紀委員に天羽をバレないように監視させて、動向を注視している」


 あえて泳がせて獲物が引っかかるのを待つ、か。大きく動いて目立ってしまえばデルポートス(向こう)にバレて逃げられる可能性があるので、現状での最善手と言えるだろう。


 だがしかし、こうなるとあの人たちも心配になるな。


 そう思い彩辻先輩と白井先輩を見てみると案の定、1、2を争うレベルで暗い顔をしていた。親友が事件の関係者として監視対象になってしまったのは、余程の心労を与えただろう。


「監視カメラで天羽の今までの動きを確認する中で欠神と会話をしていた場面を見つけたんだが、何か気になることを言っていたか?」


 生徒会長がこちらに質問してくる。天羽先輩との会話の中で気になったことか。そういえば……。


「……事件と関係があるのかは分かりませんけど、引っかかることは言ってました」

「本当? それは何て言ってたの?」

「彩辻先輩と決別した原因です」


 僕の言葉に、彩辻先輩と白井先輩が顔を勢い良く上げて僕を見る。


 他の人たちはいきなりでよく分からないといった表情で次の言葉を待っている。


「天羽先輩に聞いてみたんです。親友と決別することになるとしてでも自尊心を満たしたかったのか、と。それに天羽先輩は、それは正解ではなく奪われたことが原因だ、と言っていました」

「へぇ、それはちょっと気になるねぇ。ウチも欠神くんと同じ理由だと思ってたから」

「確かに気になるが、事件との繋がりは微妙だな。だがこれも貴重な情報だ。感謝する」


 座礼をして感謝されたが、大した情報ではなかったので過剰な気がする。


 生徒会長がただの一般生徒にそう簡単に頭を下げて良いのだろうか?


「では、俺はもう行く。風紀委員会は引き続き監視を頑張ってくれ」


 生徒会長が立ち上がり風紀委員会室を立ち去る。話が終わり場の空気が少し軽くなるが、立ち上がるのにしんどさを感じる重苦しさが残っている。


 そんな空気の中、ゆるりとした雰囲気の盾街先輩が話を切り出す。


「いやー、にしてもさっきの天羽くんの話は意外だったなー。奪われた、ねぇ。何か心当たりある?」

「それ、今します?」

「……」

「……いや、無いですね」


 盾街先輩の疑問にどんよりコンビの片割れの彩辻先輩がなんとか返すが、元気が全く感じられない。


 盾街先輩って結構容赦ないんだな。


「今日はこれで解散にしましょう。彩辻くんと魔衣ちゃんには辛いかもしれないけど、明日も頑張っていきましょう」


 榊委員長がそう締めて解散となったが、最後まで2人の顔は変わらなかった。


 天羽先輩のことは一旦置いておいて良いだろう。そうなると次に気になるのは比乃宮だな。


 最後に現れたあいつが比乃宮の顔を見ているとしたら、今才麗学園で危険な目に遭う可能性が最も高い生徒は比乃宮になるだろう。


 このまま天羽先輩の監視を続けて事件が解決してくれれば良いんだがな。


 茜を藍が蝕み始めた空を見ながらそう考えて寮に帰り、今日を終えた。





「よっ、欠神」

「……何か用ですか?」

「いやなに、ちょっと話したくってな」


 まさか天羽先輩から接触してくるとは思わなかったな。監視対象になっている間で会うのは避けたいと思っていたのだが、直接捕まえられてしまった以上もう無理か。


 しかし何を話すのだろう。心当たりがあるとしたら前の図書館のこと、あとは彩辻先輩と訓練室から出たのを見られたことぐらいだが。


 何も言わずに背を向けて歩き出す天羽先輩。ついてこい、ということなんだろうが、一応言い出しっぺ(ホスト)なのだからもっと丁重に接してほしいものだな。


 まぁ、それを言っても意味は無いか。


 監視の風紀委員の視線を感じながら天羽先輩の後についていき、校舎から少し離れた場所にあるベンチまで来た。


 天羽先輩が座り、少し距離を置いて僕も腰を下ろす。


「それで、何か話したいことがあるんですか?」

「それがだなぁ、特には決まってないんだよ」

「ノープランってことですか?」


 うなずいて答える天羽先輩に帰ろうかと思い始めてしまうが、僕は何も悪くないだろう。


「帰って良いですか?」

「いやいやちょい待ち、待ってくれ。自分でもあんま上手くまとめられないんだよ」

「お悩み相談なら僕以外にも出来るでしょう。貴方の話を聞くのは僕じゃなくても良い」

「相談って感じでもないんだよなぁ、これ。だからこそ、欠神が1番向いてるんだ」


 微妙な返答ばかりだが、とりあえず帰るのは止めにする。


 少し間が空いて、先輩が話し始める。


「最近さ、色んなことが分からなくなってきてるんだ。自分が何をやりたいのか、今やっていることが本当にやりたいことなのか、そういうのが分からない」

「迷走しているって感じですか」

「まぁそんなとこだな。正しいと思ってたのに、ふとした時にモヤっとした疑問を持ってさ。もうブレブレなんだよ」

「それって、彩辻先輩が関係してますか?」

「……そうだな。欠神の言う通り、賢人も関係してるよ」


 頭の後ろで手を組み空を見上げる先輩の顔に力は無く、遠い目をして常に肺の中の空気を吐き出しているかのような脱力感は、疲れ果てたサラリーマンに似ている。


「彩辻先輩と仲直りがしたいけど踏ん切りがつかなくて困っている、ということですか」

「それは出来るならしたい。でも、俺が1番に望むのはそれじゃない」

「違うんですね。じゃあ、何が1番なのか聞いても良いですか?」


 返事は無い。ここまで来てまだ教えてくれないか。


 それっぽい態度だけ出されても、やり過ぎればウザったいだけだ。


 話を聞いてほしいのなら、それなりに情報を渡してくれないと反応に困る。


 少し待って、上を見上げたままの先輩が閉ざしていた口を開いた。


「……自分の目にしっかり写ってるのに、相手の目に自分が写ってないのって、すげぇ虚しいんだよ」


 こちらを見ないまま語りだした言葉は、喋りではなく独白のように聞こえる。


「ずっと見てた。これから先の未来もそいつを見て、向こうも俺をずっと見てくれると思ってた。でも現実は違ったんだ。あいつの目に写っていたのは俺じゃなくて別の奴だった。だから、また俺を見てくれるように頑張ったよ。必死に、真剣に、懸命に、全てを捨てる覚悟で努力した。それでも叩きつけられるのは、俺の望む世界にならない現実だけ。もうさ、馬鹿みたいだなって思ったよ」


 俯いて自嘲しながら語る先輩は、先程よりも小さく見えた。


 先輩の言っていることは理解出来る。努力は必ずしも報われない。残酷で、いつかは受け入れなければならない現実だ。


 物語の主人公でもない現実(リアル)を生きる僕たちは、それが訪れないことを願い努力するしかない。


「だから、もう全部壊そうとしたんだ。この世界で生きるのはもう無理だって思ったから。でも、頭の片隅で自分が言うんだよ。そんなことしても意味無いぞって。分かってんだよ、そんなの。何も変わらない……もっとあいつを悲しませるだけだって。でもどうすれば良いんだよ!? 俺はどう納得して生きていけばいいんだよ!?」


 今まで蓋をしていた激情が、堰を切るように溢れ出す。何をやっても自分が望むものを手に入れることは出来ず、ただ悲しみを生むだけ。


 打つ手の無いストレイシープが、そこにいた。

どうも、神座悠斗です。

今回からハーメルン様の方でも連載することにしました。

大学が始まって約3週間経ったのですが、いまだに授業時間内に勝手に教室に入ってくる1年生がいて、しんどいです。授業取ってない人たちが急に入ってきて、先生が若干ピりつく時もあったりするのでマジでやめてほしい……。

話は変わって、最近上手い伏線の張り方を考えるようになりました。諌山先生などのような長期に渡る伏線ほどまではいかずとも、それなりに引っ張る伏線を僕も張りたいなぁ、と思っています。

次の話をなるべく早く投稿出来るように頑張りますので、是非読んでください。ではではー。ノシ

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