人知れず
第10話出来ました!
「とりあえず、欠神くんが無事で本当に良かったわ。でも、彩辻くんに勝てる人だから当然かしら」
「えっ?何それ、彩辻くんに勝ったって?」
「あっ」
早々にバレてしまったな。一応昨日の出来事なんだが……。
榊委員長は意外と抜けているところがあるんだな。
誤魔化しても意味が無いと判断して昨日のことを盾街先輩に話す。
「へぇ、彩辻くんに勝ったんだねぇ。しかも瞬殺じゃん」
「はい。千変武創の展開すら出来ずに負けてしまいました」
「しかもまだ全力を出してる感じがしなかったから、底が見えないわ」
「あれが全力ですよ。本当に、もう精一杯でした」
「あの無表情でよく言えますね……」
これがデフォルトだから仕方ないだろう。こっちだって望んで表情を変えていないわけじゃないんだ。
適当に受け流していたら、後ろでドアが開く音が聞こえた。
振り返って見てみると、生徒会長と女子生徒が風紀委員会室に入ってきていた。
「遅くなってすまない、仕事が長引いてしまった」
「良いわよ星河くん。皆でお喋りしてたから」
「そうか。では、例の件を聞かせてくれ」
生徒会長も昨日のことを知りたいのか。
榊委員長がブーステッドドラッグの件を星河会長たちに話す。
話を聴き終えた会長が榊委員長に礼を言い、こちらを向く。
「君が昨日事件に巻き込まれた生徒だな。確か……欠神戒斗だったな」
「合ってます。僕のことも知ってるんですね」
「我々も傍観の姿勢ではいられなくなってきているわけだし、事件の詳細を調べるのは当然だ」
「もし何か不安なことがあれば、いつでも相談してくださいね。あぁ、まだ名乗ってませんでしたね。私は金鞍藍李と言います。3年生です」
金鞍先輩か。星河会長と似てクールな人だな。
風紀委員会だけでなく生徒会も今回の一件を何とかしようとしているとは、他の学園も同じ態勢なのだろうか?
さて、僕が話せることはもう無いし、ここらで帰らせてもらうか。
「じゃあ、僕はもう帰りますね。お疲れさまでした」
「待て、1人で帰るのか?」
「はい、そのつもりですが……」
「もしかしたら昨日の連中の仲間が君を襲うかもしれない。そうなったら危険だ。誰かと一緒に帰る方が良いと思うが」
「大丈夫です。自分の身は自分で守れます」
「しかし……」
「本当に大丈夫だと思うわよ、星河くん。欠神くんは強い。私と、風紀委員会の幹部生徒が保証する」
星河会長は生徒思いな人だな。
冷淡でこちらのことなど気にかけないと思っていたのだが。
気持ちは嬉しいが、こちらに付き添いの生徒を回すくらいなら他のことに回してほしいので、榊委員長の言葉はありがたかった。
星河会長は榊委員長の言葉に嘘は無いと判断したようで、僕が1人で帰ることを認めてくれた。
最後に一礼をしてから風紀委員会室を出る。
現在時刻は15時前くらい。
このまま帰っても良いが、物足りなさがある。
昨日の濃さに影響されたのか、そんなことを考えてしまう。
商業エリアに行くか? でも昨日と同じになるな。
まぁ良いか。昨日は見つけれなかったものが見つかるかもしれないし、行ってみよう。
1
さて、商業エリアに着いたわけだが、何をしようか。
そうだ、本屋を探そう。
図書館以外でも本を手に入れられるところがあれば便利なはずだ。
昨日と違う方向で回っていたら、すぐに見つかった。
神崎にも伝えておこう。月曜日は図書館に行く予定だが、その後はここにも寄って行きたいな。
1冊小説を買って店を出たが、周りと違う気配が近づいてきているのを感じ、その気配の方を見る。
スーツの上にトレンチコートを纏い、中折れ帽を被った大人の男が、3つ程隣の廃ビルの中に入ろうとしていた。
ただの社会人。そう片付けるには天耀力が研ぎ澄まされ過ぎている。
その辺の異能使いであれば、天耀力を練っていると気づかれない程に静かな天耀力は、そのまま男の技量の高さを表している。
しかもポケットに手を入れてトレンチコートの袖を隠そうとしているが、ちらりと見えたあの鈍い赤は血の色だったな。
男が入る瞬間、こちらを見て目が合ったが、何もせず廃ビルの中に入っていく。が、安心は出来なかった。
ただ目が合った学生程度の認識で済ませてくれればありがたかったが、一瞬揺れたあの天耀力の動き的に、見逃してくれはしないようだ。
また榊委員長に連絡するか? いや、昨日の今日で頼るのは少し気が引ける。
はぁ、僕は普通に生きているだけなのに、どうして面倒事が僕の意に反して寄ってくるんだ。訴えるぞ。
とりあえず、こちらで対処しよう。
スーツ男の気配を感じるが、すぐに動く気は無いようなので準備をする。
と言っても、一応の顔バレ防止としてマスクを買うだけなのだが。
廃ビルの中にスーツ男の仲間がいて、もし逃してしまえば僕の顔がバレてしまう。
というわけで、近くのコンビニで黒色のマスクを買って着ける。
そういえば、このマスクを着けている男は下心がある奴が多いとネットで見たことがある。
これを思い出していれば白色のマスクを買っていたというのに、何をやっているんだ僕は。
まぁ良い。すぐに終わらせれば良いだけだ。
廃ビルに入る前に僕が映ったであろう周辺の防犯カメラを破壊しておこう。天耀力を弾丸の形に変形させて射出し破壊する。壊してしまって申し訳ないが、これも全部スーツ男が悪いのだ。
廃ビルの中に入り、上階で待っているスーツ男の元に向かう。
階段を上がる途中でスーツ男以外の気配を3人感じた。やはり仲間がいたか。
奴らがいる階まで上がり、待ち構えている部屋の中に入る。
部屋の中は椅子が4脚、机が1つ、そして机の上のパソコンと酒しか物がなかった。
全員男でスーツを着ており、スーツ男は壁に背中を預けて立っており、他も立ったまま僕を見ている。
「ようこそ、目が合った学生。俺が思った通り、やっぱ気づいてたか」
「周りの平穏さから浮いてたからな。仕事の後で気分が昂っていたからかもしれないが、もう少し溶け込んだ方が良いぞ」
「学生風情にぐちぐち言われたかねぇよ。ま、事実だから反論出来んが。で? 何でわざわざ来たんだよ? そっちから来なくてもこっちから殺しに行くってのに。分かってんだろ?」
「今対処する方が楽だと思ったからだな。後であんたらの相手をするより、今やってしまいたくてな」
「へぇ? お前1人で俺らを相手しようってのか?おいおい、最近の学生はギャグセン高いなぁ」
へらへらしていた男だったが急に雰囲気が変わり、
「だが残念だな。せっかく面白いのに、もう誰かを笑わせられない」
「残念なのはお前らだろ。もっと笑っておかなくて良いのか? もう笑えないぞ」
僕に一番近かった男Aが殴りかかってくる。
単純に突き出された右ストレートを左手で受け止め、そのまま拳を掴み離さずに腹部に膝蹴りを入れる。
くの字に曲がったAの身体から、BとCが千変武創をそれぞれナイフと手斧に形成して挟むように近づいてくるのを視認し、Bに向かってAを蹴り飛ばす。
これでBは遅れC1人になったので、丁寧に相手しよう。
手斧を振り下ろしてくるが、僕に当たる前に手首を掴んで止め、手斧を横から叩いて手放させる。体術に切り替えて攻撃しようとするが、それより早く僕が鼻っ柱に縦拳を叩きこんで鼻を折り、落下途中の手斧を掴んでこちらに詰め寄るBに下投げでCの脇腹から投げつける。
急に手斧が投げられてBは驚いた顔をしながらナイフで弾くが、休む暇無く背負い投げされて自分に向かって振り下ろされるCの対処には間に合わなかったようだ。
それなりに力を入れたので、叩きつけた衝撃で床が崩れてしまい、BとCとともに下の階に落ちる。
上から音が聞こえたので見てみると、Aが復帰したようで上の階から飛び降りて大剣を振るってくるのが見えた。
大剣を回転しながら躱してその勢いのまま、まだ空中にいるAの側頭部を蹴り抜き、曲がってはいけない角度まで頭を動かした。言葉に出来ない痛みを感じながら痙攣しており、口から白い液体のようなものが出てきた。
汚いな、遠くにやっておこう。
Aを壁際まで殴り飛ばして安心するが、後ろから天耀力の高ぶる気配を感じたので、すぐに振り返る。
Bが懐から出したペットボトルから、水が勝手に口から浮き出てきて形を作っている。一定範囲内の自身の天耀力を通した液体を操る天耀術式、といったとこか。
スライムのような水が襲い掛かってくる。ギリギリで避けて床にぶつけて威力を確かめてみるか。
高速で動かすことで破壊力を手にした水は、どこか気持ちいい重低音を奏でながら床に穴を開け、糸で縫うように下から床を突き破ってこちらを攻撃してくる。
「はぁはぁ……、殺す……殺してやるよ、この糞餓鬼ィ!」
頭から血を流しながら呪詛を吐く姿に少し引いてしまう。
お茶の間の良い子に見せたら号泣不可避だろ。
視覚的衛生上悪いので、さっさと倒そう。
また水で攻撃してくるが、天耀力で刃を形作り射出して水の槍とBを切り裂く。Bの上半身と下半身がお別れする前に刃を消したからまだ繋がっているはずだ。
さて、AもBもCも倒したが、あのスーツ男は何をしているんだ?
まさか逃げ―――
「マジかっ!?」
「そんなに驚くことか? お前の天耀力の小さな違和感に気付いた僕が、お前を見失うわけないだろ」
なんてな。こいつが最初から今までずっと姿を隠していたことには気づいていた。
透明化する天耀術式で見えないようにしていたようだが、天耀術式を発動するには天耀力を消費する必要があり、それを感じ取ることが出来ればこいつの天耀術式は無価値になる。
しかし、こいつには天耀力の操作を気取られないようにする技術があり、仲間3人との戦闘で意識を薄れさせる作戦もあって強力な能力になっている。
良い作戦だと思う。並の相手ならテンプレになるはずだ。ただ僕相手では通用しなかった、それだけだ。
突き出したまま無防備な奴の手からエストックを奪い取り、鎖骨と肝臓、両膝を貫く。
「ッ!? ガァァ?!」
「裏の人間のくせにこの程度で悲鳴を出すなよ」
天耀力で糸を作り壁に縫い付けて拘束し、大人しくさせてる内に奴らの所有物などを漁り情報を集める。
漁っていると、スーツ男が着ているトレンチコートから例の薬物、ブーステッドドラッグが出てきた。
こいつらも関係者か。何か知っているかもしれないし聞いてみよう。
「おい、この薬はどこで手に入れた? お前らは何かの組織に所属しているのか?」
「し……知らない。俺らはただ雇われただけだ……。その薬も、裏にどんな組織がいるのかも知らない。今日匿名のメールで売人として指定した場所で、はぁはぁ……薬を売れって言われたんだ。買いに来た餓鬼が生意気でムカついて殺したから売れなかったけどよ」
どうやらこいつらは本当に何も知らないようだ。少しは情報を掴めると思ったんだがな……。
この場所もこいつらも、もう役に立ちそうな情報は無いようだな。
「まぁ良いか、じゃあもう用済みだ」
「待ってくれ、まだ―――」
消した。
周りの男たちも消しておいたので、これで寂しくないだろう。
後処理を終わらせたので帰宅する。
こういう場所は早めに立ち去るのが1番だ。
それにしても、ブーステッドドラッグを扱っている組織はああいう奴らを雇って薬物の取引をしているのか。
昨日僕が制圧した売人も奴らと同じなのだろう。
切り捨てても良い手足を量産して自分たちの尻尾は掴ませない。面倒なやり方だな。
進展は無かったが、良い運動にはなったし良しとしよう。
2
深夜、廃ビルに誰かが入る。
依頼した仕事を達成出来なかったことの罰として奴らを始末しに来たが、誰もいない。
ここを奴らは拠点として使っているとのことだが、使っていた痕跡は無く、戦闘の跡だけが残っている。
罰を恐れて逃げた? いや、だとしたらこの戦いの跡は何だ?
恐らく今日出来たものだろう。逃げる前に喧嘩でもして出来たにしては激しすぎる。身内相手でここまでやるのは不自然だ。
こちらが知らない第三者と戦って消されたということか?
警備隊? いや、奴らは今日この付近には来ていないのは把握している。
雇った奴らはそれなりの実力はある連中なのだが、まさか学生相手に負けたのか? いや、上澄みの実力者であればあの程度は倒せるだろう。
少し慎重になる方が良いな。
ここに用は無いと判断し、入った者が立ち去る。
月が明るく夜道を照らすが、その光は路地裏に入った者までは届かなかった。
どうも、神座悠斗です!
最近は自分が書いている話が面白いのかどうか悩みながら書いています。しんどい……。
話は変わって、もうすぐでバイトでお世話になった先輩が就職の関係で辞めることになって凄く寂しいです。
もう先輩とにじさんじの話が出来ないと思うと悲しいなぁ(泣)
出会いがあれば別れもあるというのはこういうことを言うんだなと思いました。
かなり関係ない話をしましたが、次回も気合を入れて書くので是非読んでいたただけると嬉しいです。
ではではー。ノシ