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05 狼であって猟犬に在らず

今回は3人称です。

 ロス・アラクラネスのボス、ザインとその右腕ホセが住む屋敷には多数の奴隷が在住している。

 ホセの助手として、身の回りの世話をする役割を担っているカイルという青年もまた、そんな奴隷の1人であった。


 カイルはロス・アラクラネスの奴隷になる前は、大きな商家で召使いをしていたが、主が商売に失敗し破産。

 再び奴隷市場に戻るハメになった所、商家での従事経験を買われてロス・アラクラネスに買われて今に至っている。


「飯の時間だぞ」


「そこに置いておいてくれ」


 屋敷の地下の一画。

 こしらえられた鉄格子の牢屋の隙間から、カイルはロス・アラクラネスの有する殺し屋(シカリオ)――ロボの夕食を入れる。

 本日の食事はパンと蒸した鶏肉とスープ。

 決して豪華とは言えないが、奴隷身分であることを考慮すればむしろ上出来なくらいである。


 しかしロボは食事には目も暮れず、万能塗り薬――聖灰を手に取って、胴部の切り傷に塗っている最中であった。


「(相変わらず、気味の悪いやつだ)」


 カインは地下牢を後にすると、次いでバケツ一杯の鶏肉を用意して、ホセのいるラボの一画へと向かった。


「魔物のエサを用意してきました」


「ご苦労――早速与えてやってくれたまえヨ」


 ホセが飼っている魔獣と、ロボの食事を用意するのが、カインの仕事の1つであった。

 カインは鉄牢の前にバケツを置き、火ばさみで掴んだ鶏肉の塊を、格子の中へと差し出す。

 すると犬型の魔獣は「グルル」と唸り声を鳴らしながら、火ばさみごと食いちぎろうする勢いで、鶏肉を咀嚼した。


「所でホセ様、なぜロボはあのような場所で寝起きしているのですか?」


 新入りのカインは、ずっと気になっていたことを尋ねる。

 この屋敷には自分を含め多数の奴隷エスクラボが召使いとして従事しているが――相部屋とはいえ、奴隷エスクラボの身分であることを加味すれば十分過ぎる贅沢な部屋を与えられている。


 しかしホセだけは、まるで今給餌している魔獣のように、冷たい石壁に囲まれた地下牢で寝起きしている。


「そうさネ――逆に尋ねるが、なぜロボがボクやザインに対し、あのような舐めた口の利き方をして許されているのだと思う?」


「ええと……彼が優れた殺し屋(シカリオ)だからでしょうか?」


「外れだヨ――正解は、許されていないからだヨ」


 ホセは懐古するように天井を見上げながら続ける。


「ザインは何度も矯正しようとしていたがね、ロボが奴隷エスクラボとしての言葉遣いを覚えることは一向になかった――ボクはもう諦めている」


 ザインが未だ、てきとうな難癖をつけロボの首輪を締めているのは、ロボが恐ろしいからだ。

 自分が主であることを、他でもない自分自身に言い聞かせないと、ロボの放つ毒気に気が触れてしまいそうになるのだ。

 ――ホセはそう考察している。


「それで、罰としてあのような環境で生活している、という訳ですか?」


「どちらかと言うと、戒めだよ」


「戒め……とは……?」


「アレは優れた猟犬などではない。今キミがエサを与えている魔物と同じ――決して家畜化することの出来ない一匹狼ロボ・ソリタリオだよ。アレを理解した気になってはいけない。アレに愛着を抱いてはいけない。アレに同情してはいけない――面従腹背めんじゅうふくはいを胸に秘め、少しでも首輪が緩めば、その毒牙は即座に我々に剥くことになるのだからネ」


『ガウガウガウッッ!!』


「うわっ!?!?」


 ホセの話に耳を傾けるのに夢中になっていたカインは、格子の中に突っ込んだままになっている火ばさみを、いきなり魔物に引っ張られたことで驚嘆する。

 引っ張られ、腕が格子の中に引きこまれるギリギリの所で火ばさみを手放したが――あと少し遅れていたら、己の指がバケツの中の鶏肉と同じ運命を辿ることになっていただろう。


「飼い犬に手を噛まれないよう、ゆめゆめ気を付けないといけないネ…………ボクも」


 心臓をバクバクさせながら、息を撫でおろすカインを見ながら、ホセはクツクツと笑うのであった。

今回のAIイラストは自室で休むロボです。

お尻痛そう……。

挿絵(By みてみん)

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