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第41話


「ある日……俺が外で遊んでいると、知らない男に声を掛けられた。それを母さんに言った時、明らかに母さんの顔色が変わった事を覚えている。母さんは直にまた引っ越したが……仕事は変えられなくてね。ある日仕事に出てからそのまま家に帰って来なかったんだ。

その後は……お前も知っている通りだが、俺も成長するに従って母さんについて調べて分かってきた事がある」


「それが……私の父親について……って事?」


「そうだ。正直お前に本当のことを言わなかったのは……相手が貴族で下手に関わるとお前も危なくなるかもと思ったからだ」


「どうして私の父親が貴族かもって?」


私の疑問に横から口を挟んだのは、ノアだった。


「お前のあのブローチだ」


あれ?私、ノアにブローチを見せた事があったかしら?

不思議に思っていると、アダンが続けた。


「あのブローチは母さんから『何かあったらこれを売ってね』と言われていたが、正直どれぐらい価値があるのか分からない俺が売っても、足元をみられて安く買い叩かれるかもって不安だったんだ。それにお前の瞳と同じ色だったしな。

で、良くあのブローチを眺めていたんだけど、何か刻まれている事に気づいて……」


「それが、レインズ侯爵家の家紋だったってわけだ。アダンもそれに気づいたんだろ?」


ノアの言葉にアダンは頷いた。


「ノアは何であのブローチの事を……?」


「お前、あれを陛下に見せた事があっただろう?」


そう言われて私は思い出していた。陛下に『お前の事を知りたい』と言われてから色々と陛下と話をする中で、あのブローチの話をして、陛下に見せた事を。


「ええ。私の宝物だって言って。そう言えば陛下はあのブローチを、穴が空くほど見つめていたけど……」


「陛下はあれがレインズ侯爵家の家紋だと直に気付いた。レインズ侯爵について、秘密裏に調べていたよ。やっと色々な事が分かって……レインズ侯爵は捕まった」


「では……陛下が?」


「そうだ。それを……俺がアダンに話した。どうする?お前が俺との身分差を気にするなら……陛下はレインズ侯爵の実子として君を貴族籍に入れる事も出来ると言ってる」


……やっと、この話の意味する所が分かった。けれど、私の答えは既に決まっている。


「いいえ……私にそれは必要ないわ」


「お前ならそう言うと思ったよ」


ノアはほんの少しだけ寂しそうに微笑んだ。



「なら、俺も貴族なんて辞めちまうかな!」


ノアはそう言って大きく伸びをした。その拍子に怪我をした腕に痛みが走ったのか『イテテ』と顔を顰めた。


「どうして貴方が貴族を辞めるって話になるのよ!」


「身分、身分と口うるさく言う奴らが未だに居るからな。それに公爵なんて柄じゃない」


「貴方は陛下の命をたった一人で救ったのよ?だからその事を称えられるのは当然……」


「お前がいないなら、そんなもの必要ないよ。お前に褒められれば十分だ」


私の言葉を遮って、ノアは笑って私の頭を撫でた。


「ンッウン!」

アダンの咳払いに私は赤面した。ノアも私の頭から手を離す。


「ノアったら。……無理しないで。貴方は元々貴族。平民として暮らすなんて無理よ」


私はノアの先程の寂しそうな笑顔を思い出す。きっと彼は貴族でありたいはずだ。


「確かに……簡単じゃないかもな。まず仕事を探さなきゃならないだろうし。だけど、俺にとってはお前と離れる方が難しそうだ」


ノアの言葉に、アダンが一言言った。


「母親を殺した男の籍に入るなんて……ニコには無理だ」


その通りだ。レインズ公爵の籍に入るなんて真っ平御免だ。。メリッサ様と顔が似ていた事の理由はよく分かったが、彼女と姉妹になるのも御免だった。


そしてアダンは続けた。


「それより、まず……お前はニコルに誠心誠意自分の気持ちを伝えて結婚の意志を確認する方が先じゃないか?まだニコはお前と結婚する事を承知してないように思うが?」


アダンは至極最もな事をノアにサラリと告げた。



アダンは複雑そうな表情を浮かべながらも部屋を出て行った。『二人きりでゆっくり話せ』と言い『俺はちょっと散歩してくる。もう反乱軍も居ないし……妹が口説かれている所を薄い壁越しに聞くのも気まずいからな』と付け加えた。



ノアと二人きりになる。ノアは徐ろに椅子から立ち上がり、改めて床に片膝を付いた。



「ニコル。俺と結婚してくれ。お前が側に居てくれるなら、俺は何処に居ても生きていける」


「ノア……どうして私なの?貴方にはもっと相応しい人が……」


私は跪いたノアに片手を取られたまま困惑していた。


「相応しいかどうかは俺が決める。お前を王宮で見た瞬間……メリッサとは違う雰囲気を感じた。俺とメリッサとの間が険悪な事もあったのだろうが、そうだな……お前には人間としての『温かみ』みたいなものを感じたんだ。お前が身代わりだと分かって……不安で仕方ないだろうに気丈に振る舞う様や、周りを気遣う言動に心惹かれた。陛下との仲を疑う程度には嫉妬もしていたしな」


「……私にとっても王宮で貴方の存在は心の拠り所だったわ。陛下に言われたの『私はお前の父親ではない』って。私は無意識に陛下の中に父親を求めていたのかもしれない。貴方が疑う様な気持ちは無かったわ」


「……それって、俺に好意を持ってるって話?じゃなきゃ陛下の事をわざわざ言わないだろ?」


図星だった。ノアに勘違いされるのは嫌だったからだ。

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