第39話
洋服を整えたノアが思い出した様に口を開く。
「王妃に罰を。という声がますます大きくなってきた」
メリッサ様はあれから宰相の別宅で見つかった。
裏切り者の宰相と共に居たことと、いずれメドレスに渡ろうとしていた事がバレて、今、窮地に立たされている。ベイカー公爵がメリッサ様を助けようと動こうとした様だが、風向きは悪い。
今回の件……たくさんの命も犠牲になっている。宰相一人だけを裁くのでは、皆の心が収まらないようだ。その上、この国の国庫が乏しくなったのは、王妃が原因だと国民全員が理解している。……見せしめの為にも王妃を処刑しろ!という声がある事は私の耳にも届いていた。
「ベイカー公爵はどうしてるの?」
メリッサ様が宰相の別宅で捕らえられた時、ベイカー公爵は公爵領に居た。元居た領民を他の゙領地へと移し、メドレスの兵達をベイカー公爵領に招き入れていた事が明るみになったらしい。
「彼が捕らえられるのも時間の問題だ。まぁ……彼はメリッサを助けられないのなら、自分の命などとうでも良さそうだがな」
ベイカー公爵のメリッサ様への執着にほんの少し恐怖を覚えた。
「じゃ、行ってくる」
ノアの背中を見送る。彼の腕の傷はかなり酷く、もしかすると騎士を続けられないかもしれない。
『そん時はこの店で雇って貰うかな』なんてノアは戯けていたが、悔しそうな表情を私は見逃さなかった。
「あいつは出かけたのか?」
「うん。王宮に呼ばれてるからね」
「……もう深入りすんな。お前とあいつは住む世界が違う。手を切れ」
アダンがノアを良く思っていない事は理解している。此処に居る事は私の命を守った事で何となく許されているが、実はアダンはまだ怒っているのだ。自分に内緒で私が王妃の身代わりをしていた事を……それを助けられなかった自分の事を。
「……分かってるよ。ケガが治ったら……ね」
そう言いながら、私は自分の気持ちに気づいていた。
ノアは近衛になれる程、高い地位にある貴族だ。平民の私とは住む世界が違う。
私が王妃の身代わりにならなければ、出会う筈のなかった人物。……陛下とノア。
どっちも、本当ならもう私には関係のない人物なのだ。
「さぁ!お昼だ!店を開けるよ!」
私は自分の頭の中をスッキリさせるように頭を振って大きな声を出した。
「メリッサの処刑が決まった」
王宮から戻って来たノアの言葉に衝撃を受けた。
「処刑……?そんな……」
「ロウ元宰相とメリッサ。この二人が処刑される。それと……ベイカー公爵は最果ての鉱山で一生強制労働だ」
「メリッサ様が処刑なんて……今回の反乱軍の件には……実質無関係じゃない」
「結局、宰相と繋がって陛下を陥れたのではないか……との見方が広がって、収集がつかなくなった。もう覆すことは無理だろうな。ベイカー公爵が下手なことをしないように、彼を鉱山に送った後、刑が執行される」
「公爵はそれを知ってるの?」
「いや、知らせない。あいつがそれを知ったら何をするか分からないからな。ベイカー公爵……いや、もう公爵ではなくなるのだが、にはメリッサは幽閉されると伝えてある。それでさえもベイカー公爵は未だどうにかしようと足掻いてるからな」
「たとえ幽閉だったとしても、公爵は耐えられないでしょうね……」
「あのまま……メリッサを陛下の側に置いていれば……諦めがついていたかもしれないのにな。また手に入れてしまった者を手放すのは……正直辛いだろう。だが自業自得だ。お前を犠牲にしようと思っていたんだから、あいつこそ処刑で良い」
「…………」
黙り込んだ私を気遣ってか、ノアは少し明るい口調で、
「陛下は王宮を離れるが、療養の為だ。王位を退く。それが陛下に下された罰だよ」
「なら、陛下が処刑されるような事はないのね?」
「ああ」
ノアはそう言って微笑んだ。
「ノアは……これからどうするの?」
このままここで暮らしていく事は現実的ではない。彼は所詮貴族だ。
「実は………」
ノアが言い淀む。何となく不安になって私の表情が曇った。
「お前がそんな顔をする必要はないんだが……。俺はフランクリン侯爵家の次男だ。継ぐ家もないし、近衛として手柄でも立てて騎士爵でも……なんて思ってたんだが」
そう言ってノアは怪我をした腕にそっと触れた。
「この腕では近衛を続ける事も難しくなった。それに……もう近衛を続ける意味も見出せなくてな。何だかんだ俺は陛下に忠誠を誓っていた様だ」
命がけで陛下を守ったノアに、新国王への忠誠を求めるのは難しかった様だ。
「そこで……だ。実はベイカー公爵が没落する事になったんでな……俺がそこを譲り受ける事になった。まぁ、今回の俺の働きによる褒美って所だ。だから……ニコル、結婚しないか?」
何でもない事の様にノアはさらりと言ったけど……今のって……まさか、プロポーズ?




