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第34話

「マギーは?」


朝になり、マギーとは違う侍女が部屋へ現れた。


「それが……突然居なくなりました」



「居なくなった?!」



毎日私を見張る様に引っ付いていたマギーが居なくなった?

私が偽物とバレない為に……大切なメリッサ様を捜索されない為に、私の側に居たのに?


考えられる理由は……メリッサ様が安全な場所へ逃げ出した……という事か?


私が黙り込んでいると、


「あの……妃陛下にとっては不本意だと思いますが、マギーに代わり私が。侍女長のサラと申します」

とそのサラと名乗った侍女長が頭を下げる。


「あ……ええ。これからよろしくね」

思考の海から帰ってきた私が微笑むと、サラは


「本当に……妃陛下はお変わりになられたのですね」

と私に言った。


「そう?」


「はい。皆、別人の様だと」


別人だもん……とは言えないけど、私はもうどうにでもなれの精神だ。


「心を入れ替えたの。だって私、ここで孤立してたでしょう?」


流石に『嫌われてたでしょう?』には侍女長も答え難いだろう。


「妃陛下が……お望みになったので」


これにも答え難そうに小さな声でそうサラは言った。


「そうね」


メリッサ様の気持ちが分からない私にはこれしか答えられる言葉はなかった。


まぁ、マギーも居なくなったし、ノアも休みというし……私はもう自由に過ごす事を決めた。


これから、使用人とも仲良くしていこう。そう思っていたのだが、陛下が議会の途中で倒れたという話を聞いて、それどころではなくなってしまった。


「陛下!大丈夫ですか?」


「あ……あぁ。大丈夫だ」


寝台に休んでいる陛下に駆け寄る。陛下は私を目だけで追ってそう震える小さな声で答えた。


大丈夫……ではない事は見てわかる。


陛下は小さな声で


「二人にしてくれ……」

と周りの者達へ言うと、皆は部屋を出て行った。


私は寝台の横へ腰掛け、陛下の手を握る。


「顔色が悪いです……」

その私の言葉には答えず、陛下は少しだけ私の方へと顔を向けると、真面目な顔で言った。


「ニコル、今直ぐ逃げなさい」


陛下に名前を呼ばれたのは……初めてかもしれない。


「どうして?」


「今日の議会で……貴族でさえ食べる物が足りなくなってきたと……すると、宰相はこう言った『他国へと攻め入れば良い』と。略奪すれば良いと言っているのだ」


「そんな!!酷い」


「そんな事はしたくない。それに、我が王国軍はもう内乱で疲弊している。逆に負けて終わる」


「敗戦が分かっているのに戦うのですか?そんなのおかしいです」


「近衛まで戦に使えと言い出した……分かっているんだ、実際戦争は起こらない。近衛を私から遠ざける、そのどさくさに紛れて私を殺す気なのだ。それが狙いだ」


「……!それは……誰の?」


「宰相だ。あいつが反乱軍の……黒幕だ」


私は驚いて声を出しそうになるのを必死に堪えた。


「反乱軍の黒幕が……宰相?彼も反乱軍の敵なのでは?」


「あいつの狙いは王の座だ。反乱軍を使い、王国軍を…、近衛を私から離し、暗殺する。あいつの後ろにいるのは……メドレスだろう。この国はメドレスの属国となり、その上であの宰相が王の座に就く。そういう筋書きだ」


「では……反乱軍も真の目的は知らない……と?」


「あぁ……反乱軍は純粋に王政の廃止を訴えている。上級貴族の権力を剥奪し、平等な世を目指す。民衆の選んだ者がこの国を指導する……そのつもりだろう」


「反乱軍も騙されてる?」


「そうだ」


「どうして……どうしてそれを知りながら放っておいたのですか?」


「……どうせ私はもうすぐ死ぬ。……病気なんだ」


私はその言葉に目の前が暗くなる感覚を覚えた。


「医者は?医者には診せたのですか?!」


「当たり前だ。体調がどうにも優れない時があってな。その時に言われた。現段階では完治する見込みはないと。何とか進行を遅らせる薬を飲んでいたが……そろそろ限界の様だ」


「そんな!!そんな事……!諦めず治療法を……!」


「ニコル……もう良いんだ。この国を混乱に陥れ、メリッサの散財を許し、上級貴族からなる議会の言いなりの私など……居ない方が良い」


「どうしてそんな投げやりなんですか!!」


そんな私の言葉を無視する様に陛下は静かに私から視線を外した。


「メリッサと結婚する時、彼女は言った『生涯私に尽くすと誓って下さい』と。若い彼女を縛り付けるのだから当然だと思った。彼女の欲しいという物は全て買い与え、全て自由にさせた。宰相や議会は私の子どもを産んでくれる女性だからと、メリッサを大切にするよう私に言っていた」


「陛下……平民の中でメリッサ様がどう言われているか知っていますか?」


大切なメリッサ様を悪く言うのは憚られるが、私には今しか陛下とゆっくり話すことが出来ないのではないかと言う不安の様な予感があった。


「あぁ……一応知っている。全て私の責任だ。……特に……跡継ぎに関してはな」


「メリッサ様が跡継ぎを作らないと言った話ですか?」


「そうだ。……病気のせいで私は……不能になってしまった。メリッサには病気の事を言えずズルズルと誤魔化していたが、彼女は我慢の限界だった様だ。『君とは出来なくなった』と言ったら……彼女はあんな事を言い出した。プライドを傷つけてしまった事は間違いない」


私は何も言えなかった。メリッサ様が傷ついたのは間違いない。だから、あんな風にマギーは私と陛下との関係を警戒していたのだろうか?そんな事は起こり得なかった訳だ……陛下はご病気なのだから。


「だが……私が不能になったと言えば、メリッサが王妃で居る事も必要なくなる。どんなに頑張ったって私達の間に子を出来ない。正直……メリッサの贅沢で王族としての財産が目に見えて減った事は間違いない。彼女が王妃で居る為には、周りに正直に言う事は出来なかった」


「それは……一応メリッサ様を守った……という事ですか?」


「結果的に……間違いだったのかもしれないと今は後悔している。彼女をさっさと自由にしていれば……」


だが……メリッサ様はそれを望んだのだろうか?メリッサ様は私に言った『あくまでも貴女は身代わりだ』と。それは『公爵にとっても陛下にとっても』と。

メリッサ様は陛下をどう思っていたのだろうか?


「メリッサ様が傷ついたのは間違いないかもしれませんが……メリッサ様と陛下の仲は?」


「彼女は跡継ぎを欲しがっていた。何度も何度も私を誘ってきたが、私には無理だ。そうして過ごす内どんどんと体も心も離れていった」


「それは……陛下も?」


「そうだな……。メリッサは……私の手には負えなかったよ」


寂しそうにフッと口元を緩めた陛下に私は何にも言えなかった。

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