表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/42

第27話

「ええ」


心臓がドキドキと音を立てる。あっさりと見破られるのではないかと不安になるが、ノアが私と宰相の間に入る様にして私を隠した。


「ロウ宰相。ここは王族専用の庭です。ここで何を?」

ノアの余所行きの声が聞こえる。


「陛下が体調を崩して急遽休まれたのでね。会議が一つ飛んだんで時間が出来たんですよ。たまには花でも愛でようかと思いましてね。もちろん陛下に許可は取ってますよ」


私はノアの陰からそっと宰相を見た。白髪交じりの髪をきっちりと撫でつけ、眼鏡をかけたその男は陛下より少し歳上に見えた。何となくノアを小馬鹿にした話し方にカチンとくる。


「……ところで、妃陛下。最近は何かと陛下と仲良くされてるとお聞きしました。国王夫妻が仲睦まじく過ごされるのは一国民としても大変喜ばしい……どういった風の吹き回しで?」


探る様な宰相の物言いに、ドキッとする。


「妃陛下は……」

ノアが答えようとするのを、宰相は遮る。


「お前に訊いているんじゃないよ、フランクリン」


「…………」

宰相の方が立場が上だ。こう言われてはノアは黙るしかない。私はどう答えるのが正解?


「…………ただの気まぐれよ」

メリッサ様を私はよく知らない。食堂で噂を聞いた限りでは、嫌な女の様だし、ノアも嫌っている。……私が口に出来るのはこんな言葉だけだという結論に至った。


「ほう……。では孤児院への寄付も『気まぐれ』ですかな?」


「そうよ。それ以外何があるの?」

怯むな。……私は王妃。宰相より上の立場だ。出来るだけ尊大な態度で。私が敬うべきは国王ただ一人の筈なのだから。


「いえ。珍しい事もあるものだと驚いただけです。国民の為に王妃が動くのは素晴らしい事ですね」

ニッコリと笑う宰相の目の奥は全く笑ってはいなかった。


「……疲れたわ。戻りましょう」

これ以上、此処に居ては危険だ。私はノアへと声を掛け、答えを待たずにさっさと宰相に背を向けて、来た道を戻り始める。


「畏まりました」

ノアは私の直ぐ後を追いかけて来た。


「妃陛下!ご機嫌よう!!」

背後から大きな声でそう声をかけてきた宰相に振り返る事なく、私はその場を去った。


「大丈夫だったかしら?」

宰相から十分離れた所でノアに尋ねる。


「上出来だ」

ノアの声は私を安心させるのに十分な程優しかった。



部屋へ戻る前に図書室で本を数冊選んだ。

ノアはそれを見て驚いた様に言う。


「歴史?珍しいな」


「この国に暮らしているのに、何も知らないな……と思って」

そう答えながら、私はカサンドラ様の母国、メドレスとの関係性について少し学びたいと思っていた。


「平民は毎日を暮らすのに必死だ。むかしむかしの出来事より、明日何を食べるか……それが大事だ」


「そうね……王国軍と反乱軍の戦いで、流通する物自体が少なくなった。本当に貧しい人々は食べる物にも困ってるわ。……ねぇ、この戦いって誰が得をするの?」

私はそう言って俯いた。上級貴族の権限を全て剥奪すれば、平民の暮らしは楽になるのだろうか?……陛下が死んだら誰がこの国の行く道を決めていくのだろう。


「一部の貴族は腐敗しきっている。領主として暴利を貪り、領民の苦しみなど理解しない者がいる事は確かだ」


「でも、今、まさに生活に困窮している人が増えてる。本当にこれは国民の為の戦いなの?」


私がノアにそう言うと、ノアはとても苦しそうな顔をした。


「多くの人が亡くなった。どちらも疲弊している。早く終わらせなければ……」

ノアの呟きはとても小さくて、


「ノア?何か言った?」

と私は聞き返した。


「いや……。何でもない。さぁ、部屋へ戻ろう。随分とゆっくりしてしまったな」

私の持っている本をサッと受け取ると、ノアは図書室の扉に向かって歩き出した。


その夜。湯浴み後に私はふと気になってマギーに尋ねた。


「陛下の体調は大丈夫なのかしら?」

マギーは私の髪を乾かしながら、


「熱がある様で……明日も大事を取って公務はお休みになるそうです」

と面白くなさそうに告げた。


マギーが陛下を嫌っているのは十分に理解している。

そうだ、もう一つ疑問があったんだ。


「ねぇ、王妃様は宰相と仲良くしていたの?」

マギーの眉がピクリと動いたのが、鏡越しに確認出来た。


「………ロウ宰相様は無理矢理陛下と結婚させられたメリッサ様を何かと気遣って下さっていました。メリッサ様が王宮で暮らしやすい様にと」


「ふーん。具体的に何をしてくれたの?」


「具体的に……と言われても。メリッサ様の思う通りにと。正直、メリッサ様に苦言を呈する者達も居ましたから、その者達を遠ざけて下さったり……」


「でも『好きにして良い』って条件で結婚したんでしょう?それを分かってて王妃様を悪く言う人なんて居るの?」

私の言葉はマギーの気に障った様だ。


「あの者たちは……跡継ぎが欲しかっただけです!王族の血を何よりも尊ぶ者たちに、メリッサ様の気持ちなんて……」

マギーは気持ちを吐き出す様にそこまで一気に言って、ハッとした様に口を噤んだ。


『世継ぎ』この前もこの話題にマギーは激しく反応した。巷の噂では『体型が崩れる事を理由に子どもを産まないと言った』とされているけれど、本当の理由は別の所にあるのかもしれない。


「……子どもは授かりものだから」

私がそう言うとマギーは私をキッと睨んだ。


「メリッサ様に責任はありません!全て……陛下が原因です!!」


「ご、ごめんなさい」

マギーの剣幕に私は思わず謝罪を口にした。

マギーは大きく息を吐き出すと、


「こちらこそ、大声で失礼いたしました」

と謝ると、櫛を置いて出て行った。


『世継ぎ』ここに陛下とメリッサ様の関係の悪化の原因があるのかもしれない。私は漠然とそう思った。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ