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第25話

「手紙……ありがとう」


ひとしきり泣いた後、私はそっとノアの胸から顔を離した。


「いや……今のお前に出来る事は少ない。これぐらいなら」


「アダン……兄は元気だった?」


「心配してた『妹は勝気だけど根は優しくて良い子なんだ。だが、少し口が悪くてね。公爵家みたいなお偉い場所で上手く働いていけるのか……』ってね。兄にとって妹とはいつまで経っても幼い子どもなんだな。俺には弟しかいないが、そんな風に思った事はない」

ノアがクスクスと笑う。


「アダンったら……。自分の方こそ短気で……勝てっこないのに喧嘩を吹っ掛けるくせに」

私は口を尖らせた。


「兄とお前は……あまり似ていないな。あいつは結構華奢だったし、顔も髪も……」


「アダンは幼い頃、私に食べ物を譲ってくれていたの。それが原因かどうかは分からないけど、細っこい身体になっちゃって。私は女にしては少し背が高いし、身体も……」


「確かに……出る所は出て引っ込むべき所は引っ込んだ……理想の体型だな」

とデコルテが大きめに開いた夜着の胸元をノアがチラリと見た。

私は急いでガウンの前を掻き合わせた。


「いやらしい目で見ないでよ!」


「仕方ないだろ?男なんてそんなもんだ。っていうか、あんな店で働いていたら、男達にいやらしい目を向けられてたんじゃないか?」


「二ヶ月……いや三ヶ月前までは私は殆ど裏方で働いてたの。さっき……兄も言っていた様に私は少し口が悪くて気が強いから。女将さんにも給仕は向いてないって言われて、給仕は他の女の子が。

彼女はとっても可愛らしくてお客の人気者だったんだけど、三ヶ月前に結婚して……私達と共に暮らしていた家を出た。

食堂は夜は飲み屋になるから、遅い時間に帰宅するのが心配で、昼間だけ働く様になったの。殆どの客がレイラ……その女の子のファンだったから、給仕が私になってブーブー言われる事の方が多かったし」


「男ってのは……少し隙のある女を好む傾向にある。お前みたいな奴は意外と敬遠されるからな」


ノアの言っている意味が良く分からないが、


「私にはつけ込む隙がないって事?」


「美人でスタイルの良い女ってのは、お高くとまってる事が多い。そういうのが苦手って奴もいる。……俺は逆だ。そういう女こそ俺に相応しい」

そう言ってノアは私の髪を撫でた。


「美人でスタイルが良いって……私の事を言ってるの?……そんな事言われたの初めて」


「お前の周りは臆病者ばかりの様だ。お前を褒める勇気もない」


「ノア……貴方って自分を過大評価してない?」


「おいおい。俺は結構モテるんだ。女に不自由した事はない」


「貴方みたいな傲慢で粗野な男が良いって女も居るには居るけど……全ての女がそうと思わない方が良いわ」


「ふーん。お前はどんな男が好みだ?」


『男の好み』……考えた事もなかった。恥ずかしながら、私は男性を知らない。もう二十歳になるというのに、恋人の一人も出来たことはない。

周りは皆、恋人の愚痴や身体の相性などの話で盛り上がっていたが、その輪の中に入る事すら出来なかった。

しかし、それをノアに言うのは癪だ。

私はこの尊大な男に恥をかかせたくなった。


「そうね……少し気が弱くて優美で……」

私がノアと真逆のタイプを口にしたら、


「……陛下みたいな?」

とノアは少し不機嫌そうに言った。



「どうしてそこに陛下が出てくるのよ」


「陛下と話すのは楽しいか?」


ノアの声に少し棘を感じる。『陛下とあまり仲良くしない方が良い』と言ったノアの言葉を思い出した。


「……どうして『陛下と仲良くしない方が良い』って言ったの?」


「王妃は……最近陛下に疎まれていた」


……どういう事?陛下はメリッサ様を愛していたのでは?カサンドラ様に重ねていたかもしれないけれど、メリッサ様を公爵から奪ってでも王妃にしたのは、彼女を愛していたからなのでは?実際……公爵とメリッサ様が抱き合うのを、悲しそうな瞳で見ていたのを私はこの目で見た。


「そんな……」


「何故かは分からない。あんなわがままで自己中心的な女に好き勝手させていた陛下が、急に態度を変えた。いや……好き勝手させているのは変わらなかったが、無関心というのか……。

陛下と王妃が結婚したのは今から三年前。婚約が整ってから四年が経っていたが、陛下はあの女に夢中だったよ。四年間……あの女の思い通りにさせ、結婚した当初も片時も離れなかった。しかし……結婚して一年ほどが経つと、段々と様子が変わってきたんだ」


「二年前から?……反乱軍が目立ってきた頃だからかしら?陛下も余裕がなくなったんじゃないの?」


愛だの恋だのは自分に余裕がなければ出来やしない。流石に陛下の頭の中がお花畑では王族を守る王国軍の兵士が可哀想だ。


「そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない。だが、最近は二人が一緒に居る所を見たことがなかった。だから、お前と陛下が仲良くしているのを不思議がってる奴が増えた」


だから此処に来た初日、陛下に呼ばれていると聞いてノアは変な顔をしたのかと納得がいった。


「私の正体がバレるから……って事?」


「そうだ。今バレると大問題になる。あの女を見つけるまでは気をつけた方が良い」


「でも……いや……分かった。気をつけるわ」


「まぁ……陛下の気持ちがまた変わった……と勝手に納得している奴もいるが、用心に越したことはない」


少し重たい空気になる。私はそれを吹っ切る様に、


「心配してくれて、ありがとう。でも、てっきりヤキモチやいてるのかと思ったわ」

とノアを茶化す。私はノアが『冗談だろ、そんなわけあるか』と言うのかと思ったが、


「…………」

と無言で顔を逸らすだけだった。


……まさか……図星?そんな訳ない……よね?


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