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第20話

陛下は私を先に扉へと向かわせて、サッと扉を開いてくれた。


「あ……すみません……」

国王にこんな事をさせて、バチが当たるかもしれないと思わず首を亀の様に竦める。



部屋を出た途端、目の前にマギーが居た。

彼女は私に何か言いたげに口を開きかけたが、私の背後に居る陛下の姿を認めると、ハッとして頭を下げ、横へと道を開けた。


マギーに代わりノアが私の前に現れ、


「では妃陛下、お部屋へ戻りましょう」

と声を掛けるのを、マギーは不思議そうな顔で眺めている。

……ノアはメリッサ様の事を嫌っているように見えたから、マギーは積極的に声を掛けたノアに違和感を覚えたのかもしれない。


私はノアとマギーを従え、部屋へと戻る。振り返ると陛下は側近の方と護衛を従えて、私と反対の方へと歩いて行くのが見えた。



「どうして勝手に部屋を出たのです?」

自分の部屋でマギーと二人きりになった途端、私は彼女にそう責められた。


「バレないければ良いんでしょう?」

ノアにはバレた。けれど彼は私を切り捨てなかったし、助けると言ってくれた。

今でも彼を信用している訳ではないけれど、陛下にとっても、メリッサ様を守るためなら、私がここに居座る方が都合が良いに決まってる。

私はそう腹を括ると、このマギーの言う通りにしておく事が馬鹿馬鹿しく思えてきた。


「貴女に貴族の振る舞いが出来るのですか?ウロウロしない方が身のためです」

呆れた様に言うマギーの目の前に歩いて行く。彼女の方が私より小さい。少し見下ろす形になった。


「王妃だって何にもしなかったんでしょう?じゃあ、彼女がちゃんと振る舞えていたかなんて、王宮の皆、分からないじゃない」


「メリッサ様は侯爵令嬢です。生まれながらの貴族。貴女とは格が違う。一緒にしないでいただけますか?」

静かな口調ながら、ほんの少し怒りが混じる。大切なお嬢様を馬鹿にされてムカついた様だ。


「貴女にとっても、私がここに偽物として暮らす方が都合が良いのでしょう?なら、貴女が私をフォローすれば良いじゃない。……私は、私。いつどうなるのか分からないけど、それまでは自分の思うように過ごすわ。私が殺されて困るなら、せいぜい私を守ったら?」


マギーや、メリッサ様、公爵様に良いように使われるだけで、死んでいきたくない。

自由に……とはいかないけれど、この部屋に閉じ籠もっているなんて、真っ平御免だ。


私は宣言通り、自由に過ごす事にした。

もちろん目立つ事はしたくないし、食事のマナーは全く分からないから、部屋で食事を摂るのも変わらないが……


「散歩ですか?」


「ええ。部屋に閉じ籠もってばかりでは体が鈍るし。それに陽の光を浴びないと、骨が弱るのよ?」

私の要望にマギーが嫌な顔をする。しかし、そんな事は無視だ。


「マギーは別に付いてこなくて良いわ。どうせ護衛が付いて来るのでしょう?」


「いいえ。貴女を一人にするわけには参りません」


「だから。護衛が居るのだから、一人ではないわ」

私はそう言い捨てると、扉の方へとツカツカ歩いて行く。

マギーはその前に立ちはだかる様に、私と扉の間に急いで入った。


「勝手は許しません」


「どうして?」


「貴女が偽物だと分かれば、メリッサ様を捜索されるかもしれません。今はまだバレる訳にはいかないのです」


『今はまだ』ね。じゃあいつならいいのかしら?


「王妃って散歩すらしなかったの?」

私か尋ねると、マギーは下唇を噛み締めて俯いた。


「顔に『散歩はしてた』って書いてあるわ。じゃあ、問題ないわね」


私がマギーにそう言うと、彼女は悔しそうな顔で扉の前を譲った。



私は少し勝ち誇った気分で扉を開ける。そこにはノアともう一人の護衛がいた。


「妃陛下、どちらへ?」


「庭を散歩したいの。せっかくのお天気だし」


「畏まりました」

ノアはニヤッと笑うと先に歩き始めた私の後を付いてくる。そして、もう一人の護衛には聞こえない程の小声で、


「庭の場所、分かってるのかよ」

と私の耳元で囁いた。私も同じぐらいの小声で、


「わかるわけないでしょ。先導しなさいよ」

と答えた。ノアは少し笑いを堪える様に肩を震わせながら、黙って私の前を歩き始めた。



「凄い!」

思わず見事な花を咲かせる庭に感嘆の声を漏らす。


花屋の店先よりも立派な花が咲き乱れる庭は、たっぷりの日差しを浴びてキラキラと輝いてみえた。


「ねぇ、これは何て言うお花?」

私は水やりをしていた庭師へと声を掛ける。

私に声を掛けられた庭師はギョッとした表情で私を見ると、急いで被っていた帽子を脱いで、頭を深々と下げた。


「ひ、妃陛下……そ、そちらはダリアでございます」

庭師の声が震えている。緊張しているのかしら?


「へぇ~可愛い花ね。色も鮮やか」


食堂で働いている時は花を愛でるような心の余裕なんて無かった。花を贈ってくれるような男性も居なかったし。


「は、はい!その通りでございます」

庭師は頭を下げたまま、まだ声を震わせていた。


すると、ノアがまた私の耳元で


「顔を上げる許可を。じゃなきゃ、庭師はこのままだ」

と囁いた。


なるほど。顔を上げるにも許可が必要とは。なんとも面倒くさい仕来りだ。





マギーは少し顔を赤くして怒りを抑えていた。こんな小娘……しかも平民にこんな口をきかれるた事は彼女にとっても屈辱な様だった。

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