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第16話

「なるほどね。私は袋のネズミ。どこにも逃げ場がないって事は良く分かった。ところで、貴女って何者なの?」


「王妃の専属侍女です」


「それは知ってる。でもさっきの陛下への態度……貴女って陛下に雇われてるんじゃないの?」


何となく陛下との雰囲気が険悪というかピリッとしたものに感じたのは気の所為だろうか?


マギーが少し眉を潜めるように眉間に皺を寄せたが、小さくため息を吐くと、


「私は……王妃のご実家ムーア侯爵でメリッサ様がご幼少の頃からお世話をしていた者です。陛下に輿入れする際に同行する事を許されました」

と淡々と問いに答えた。


「どうして……ついて行かなかったの?」


彼女がここに残る理由は?単純な疑問だった。


「私は常にメリッサ様に仕えておりましたから、私がお側を離れるなど傍から見ればあり得ないのです」


「確かに……ね。貴女が居なくなれば私が偽物だってバレちゃう可能性が高くなるものね」


「メリッサ様は、他の侍女と上手くいかず……私しか仕えておりませんでしたから。急に私が辞める事も、他の侍女が専属になる事もあり得ないのです。それに……」


「それに?」


「あ……いえ、何でもありません。……お茶を淹れましょう」


マギーはそれ以上話す事を拒否するように私に背を向けた。何を言いかけたのか気になるが、きっと彼女はこの事についてもう話さないだろう。


「そうね……。ねぇ、私が気をつける事はある?」


「何もしないで下さい。何も。メリッサ様は王宮で孤立していました。だから誰にも心を許さない。……陛下にもです」


私は最後の言葉に少しだけ違和感を覚えた。やはりマギーは陛下の事を嫌っているのだろうか?それとも何か違う意味が?


「何もしないっていうか……どうせ何も出来ないわよ。私はただ食堂で働いていた普通の女。ダンスを踊れって言われたって出来やしないし、貴族としての振る舞いをしろって言われても無理な話。大人しくしてるしかないのよ」


この時の私はそう言った。そう言ったのだが……。





「もう我慢出来ない!」


マギーは今、部屋を出ている。今しかない。


私はそっと部屋の扉を開けた。


「どこへ?」

そう私に声を掛けて来たのは、廊下に控えていた護衛だ。

……この護衛は王妃を良く思っていない事がよく分かるので、私も少し身構えてしまう。

黒髪に少しつり上がった黒い瞳。いつもムスッとしていて気難しそうな男だ。


「厨房へ」


「厨房?何のために?」


「私の食事の量を減らして欲しいの」


「どうしてです?」


「どうしてって……食べきれないからよ」

私の答えに護衛は首を捻る。


「だから?」


「だからって……とにかく厨房へ行きます!」


マギーからは部屋を出るなと言われていたが、王宮に来て二日。毎日、毎日食べ過ぎて、お腹がはち切れそうだ。残すのは勿体ない。でも食べきれない。このジレンマとストレスで私は限界にきていた。

マギーが側を離れている今がチャンスだ。ここでグズグズしていられない。


すると……その護衛はため息を吐きながら、


「なら、私が言ってきましょう。流石に王妃が厨房へ行くのは不味いです」


「そう?なら、量はそうねぇ……三分の一にしてって言って。あと……私が食べなくなった分、食材が余るなら働いている人達の食事をその分多くしてあげて欲しい」


私の言葉に黒髪の騎士は目を丸くした。……あ……ダメだったかな。これって王妃っぽくない?


しかし、黒髪の騎士はまた仏頂面に戻ると、


「わかりました。妃陛下はお部屋でお待ち下さい」

そう言ってもう一人の護衛に『少し外す』と声を掛けた。去っていく背中に私は、


「あ!陛下にも『会いたい』って伝えて貰って良い?」

と叫ぶ。振り返った黒髪の騎士は目がこぼれ落ちんばかりに目を見開いた。


「陛下……に、ですか?」


「そう。お話があるの」


「……そうですか。わかりました」


黒髪の護衛の目が少し細められる。さっきは真ん丸な猫の瞳の様だったのに、今は狐の様だ。


仏頂面のわりに表情豊かなのね……と私は思いながら部屋へと引っ込んだ。


少し経つと、


「陛下は今ならお時間が取れるそうです」

と黒髪の騎士が廊下から声を掛けてくれた。


マギーはまだ帰って来ない。最近私が食事の後にゴロゴロしているから、気を使ってくれているのかもしれない。


「まぁ……いっか」

私は『はーい』と返事をして、扉を開けた。


私が扉を開けたのと同時に、黒髪の騎士がその扉をグイッと開けた。

私はその勢いで前に体が倒れそうになる。黒髪の騎士はそんな私を片手で支えたかと思うとそのまま片手で私を抱え部屋へと押し戻し、自分もスルリと部屋に入った。


そして……後ろ手で『カチャリ』と鍵を閉めた。

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