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宇宙人の皆さん、ごきげんよう

作者: 豪陽

 「この星々のどこかに、知的な意識が存在するんだろうな。僕はそう信じてるんだ。」


 恵一は言った。

 

 悠子は恵一の横顔を見つめるが、満天の星空の下、シルエットしか見えない。


 「そういう知的な意識も、私たちみたいに星空を見ながら語り合ってるのかしら?」


 悠子は少し勇気を出して言った。


 「うーん、そうだね。・・・きっと、僕らみたいな生き物が向こうにいるんだと思う。多分。」


 恵一は、答える。


 星空の下、悠子は恵一と並んで歩いていた。学校は郊外の丘の上にあるから、街への道はだらだらした下り坂である。


 今日は高校の文化祭の準備で下校が遅れてしまったのだ。


 恵一と悠子の家の方角が同じだったが、恵一が家まで送ると言った。普段は同じ女生徒とつるんで帰る悠子は文化祭準備の高揚感の中で自然に承諾したのだった。恵一は自転車で通学しているのだが、家が比較的近い悠子は歩きだ。恵一は自転車を押しながら悠子に合わせて歩いてくれた。


 何でこんな話になったのだろう?恵一は宇宙と知的生命体について、ぽつぽつと話し続ける。 


 SETIとは地球外知的生命探査のことであり、その英語の頭文字を取ってSETI[セチ]と称される。宇宙に地球以外の文明がいないか探査するもので、例えば電波望遠鏡で捉えた宇宙からの電波を解析して人工的な通信がないか精査したり、逆に電波望遠鏡から通信を発信したりするものである。太陽系外への飛行を続けている惑星探査機パイオニアに積まれた金属板、同じくボイジャーに積まれた金属製レコードは有名である。


 残念ながらこれまでの探査で地球外文明の存在は確認されていない。1977年のWow信号は特徴的な強い電波パターンだったが再観測されず議論が続いている。


 なぜ地球外文明の通信を受信できないのか。生命が発生し進化し無線通信レベルの文明を持つようになるのは極めて低い確率であって、文明は極めて稀にしか存在しないというレアアース仮説がある。地球外文明は存在しているが宇宙は広大で技術文明の寿命は短いという説もある。


 技術文明の寿命の問題は、地球文明が生き残り続けることにより地球外文明を発見できる可能性は年々高まると言うことでもある。文明を維持することは、祖先に対する礼儀であり子孫に対する義務であるけれども、地球外の友人たちの便りを受け取る可能性が増えるというボーナスもある。


 生命と文明について我々は地球しか例を知らない。広大な宇宙の中でサンプルは1つだけ。地球は平均的な星なのだろうか。あるいは人類は極めて特異で稀な存在なんだろうか。


「それにもうひとつ問題があってね。」


「宇宙人が侵略してくるとか?」


「うーん、それも問題だけど、地球まで遠征するのに労力がかかりすぎるし、そんなに積極的な宇宙人ならもっと宇宙は騒々しいはずだ。」


「何か人工的な痕跡とか見つかりやすいと言うこと?」


「うん。例えば恒星間飛行の推進剤の跡や核融合プラントからのニュートリノは観測できるんじゃないかと思うんだよ。」


「へー、すごいね。」


安易な答だったか。少し頭の悪い子に思われたろうか。


「えーとね、僕の言いたい事は、静かな宇宙人が多すぎるのではないかという事さ。冒険をせず異星の知性にも興味を示さないという。」


「ははは、自己紹介みたいですね」


「え、何のこと?」


「わからないならいいや。」


 悠子は恵一の横顔のシルエットを見ながら思う。星々のかなたを思いながら、どうして隣で歩いている私のことをわかってくれないのだろう、と。もっと女の子の気持ちを察してくれないものだろうか。二人の距離がもどかしい。


 悠子の家の近くの角の街灯が見えた。いつもならほっとする風景も今日はつまらない。


 「じゃね。また明日。」


 「バイバイ」


 悠子は、恵一が自転車に乗って走り去っていくのを見送った。


 空を仰ぐと満天の星空。清らな水をたたえているかのように見える天の川を眺め、悠子はつぶやいた。


 「宇宙人の皆さん、ごきげんよう」


 分かり合えない魂の孤独が星雲を構成する重力である。少年少女の心の距離はこんなに近く遠かった。

異星人と異性の人は似ています。地球外知性について警戒しておく方が賢いやり方なのかも知れないけれど、広く寛容な心を持ち続けるのもひとつの品格でありましょう。

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