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いさかいをながめる

「いつまで()いつくばっているつもりだ。さっさとどけよ。この平民の小娘が」


 オーサンがミシガ大橋の半ばにできた人だかりについたとき、そう大声で金切声をあげる同年代とおもわしき貴族の姿と膝をついて倒れている女性の姿がみえた。

 「そもそもが、だ。歴史ある貴族家の人間であるこの僕と、こんな貧相などこの馬ともしれない下等な平民風情がおなじパアルコ魔学術校に通うなど虫唾が走っていたんだ。さっさと立ち上がって消えろ。この身の程知らずな下民めが」

 いわゆる選民思想であった。

 少女はそんなつよい侮辱ぶべつの言葉に思わずキッと見返すも相手はお貴族様なんだと言い聞かせてみじめな悔しさを胸にしまい込み唇を噛みしめたまま視線をさげた。

 しかし、その小さな反抗心をみてとった貴族家の男は癇癪(かんしゃく)をおこした幼子のように捲し立てた。

「なんだその態度は。下民は下民らしく僕の言うことをきいて動けばいいんだ。言うことすら聞けないおまえには、これで体に教えてやるしかないようだな」

 と男は手慣れた所作(しょさ)で腰に差してあった枝鞭(えだむち)を手に取り徐に振り上げた。

 オーサンは男の挙動に気付いて「それはやりすぎじゃないか」と人をかき分けて躍り出ていったのと同時に、別の場所から声が掛かった。

「おやめなさい」

 それは、しっとりとしながらも芯のある凛とした女性の声であった。突然のことに男は怯む。

「貴族家のものが抵抗できない女性に向けて武器を振るうなど、恥を知りなさい」

 しかし、男は言葉が自分に向けられていることを知って逆上した。 

「うるさいうるさいうるさい。女のくせに、女のくせに僕の邪魔をするなァああ。 フゥっ フゥっ フゥ」

 顔を紅潮させるほど頭に血をのぼらせた男は、標的を自分を(いさ)めた女性に切り替えて襲い掛かった。

 そんな突然な男の凶行に諫めた女性は虚をつかれたのか「きゃっ!」と目をつぶって立ち尽くしてしまうことに。

 そこに男の枝鞭が勢いよく振り下ろされる。 「っ!?」と女性は枝鞭の肌のうえを走るような痛みにそなえて躰をこわばらせた。が、いつまでたっても枝鞭が女性を襲うことはなかった。

「危ないなァ。もうやめとけって」

 とオーサンがふたりの間に体を滑り込ませて枝鞭を持っている男の腕を掴み上げていたからだ。枝鞭男はふいな邪魔者を睨みつけて叫ぶ。

「なっ、なんだお前は。お前も僕の邪魔するっーーぃ痛っ」

 けれど、いましがた腕にはしった痛みで声をあげられなくなる。オーサンは強くめに掴んでいた枝鞭男の腕をはなしてから言葉を続けた。

「ほらァすこし強く掴まれただけでもう痛いだろう。ちょっとは冷静になったか」

「な、なんだお、おまえ。おまえもこの僕の邪魔をするのかァっ。どこの馬の骨なんだ。答えろっ」

「まじかよ……。お前は周りを良くみたほうがいいぞ」

 オーサンの頭を抱える仕草と呆れたような声色に枝鞭男は視線を右に左にと這わしてからなにかに気付いたようで表情をひきつらせた。

「いまオレが名乗ることになるとそっちも名乗らざるを得なくなると思うけど、いいのか。いまならまだ、ぎり、間に合うんじゃない」

「……っう。こ、これくらいにしといてやる。そこの平民、僕を不快にさせたこと覚えておくからな」

 そうして、男はバツが悪そうにこの場から離れていった。オーサンは枝鞭男を見送りながら「まあ、手遅れだろうなァ」とは口にはしなかった。

 

 いやだってなあ、と考えながらオレはさきほど声をあげたご令嬢に向き直った。女性は尻もちをつきそうなところを支えられたのか、すこし心持ちが定かではなさそうであった。


 うん。この完璧なまでに整えられた容姿とみるからに品の良さそうな女性の従者が横で心配そうにあわあわしている姿はどうみても高位の貴族家ご令嬢ですわ。これは枝鞭君の未来に幸あらんことを願うしかないな。


「怪我はなさそうですね……って、お前が支えていたのかよ。マサン」


 オーサンの視線のさきには知己(ちき)のある男が女性の背中をやさしく支える姿があった。



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