ハッピーエンドは永遠に
私には三分以内にやらなければならないことがあった。愛する彼女へのメッセージを残すのだ。何だか照れくさいね、こういうの。
三分間でメッセージを残す、か。いいや、考える時間もないし始めちゃえ。私は愛する彼女に言葉を伝え始めた。
「ねぇ。このくらいの声で聴こえる? 今、ちょっと大きな声を出せなくてね……」
確認してみる。どうやら大丈夫みたいだ。私は安心して、少しずつ言葉を紡いでいった。
「私たちの関係ってさ……社会の中で、認められなかったよね。住んでる場所が悪かったのかな……でも私たちには住む場所、暮らす国の選択肢も無かった……ああ、話が暗くなっちゃうなぁ。そういうことをグチりたいんじゃないの……」
私の喋り方が、たどたどしくて要点を得ていない。しっかりしないと。傍で私の手を握っている彼女に愛を伝えるのだ。彼女の泣き顔に、私は努めて笑顔を見せた。
「私の命は、もう終わり……空爆に貴女が巻き込まれなくて本当に良かった……状況は明るくないかもしれないけど、どうか貴女は生き延びて……愛してるわ。生まれ変わって、いつかまた、貴女と愛し合えますように……」
もう私には、痛みも苦しみも無い。彼女の掌から伝わる温もりに包まれて、私の魂は肉体を離れていった。
「ありがとう、女神さま。死に際の私に、束の間の猶予を与えてくれて」
光の中で、私は美しい女性に礼を言った。状況から見れば死神さんなのかなぁとも思うけれど、どちらでも構わない。『三分間、待ってあげる。その間に愛を伝えなさい』と、枕元から声を掛けてくれた存在だ。感謝しても仕切れないくらいだった。
「どういたしまして。さぁ、行きましょうか。きっと次は、幸せな人生が待っているわ」
「幸せでしたよ、私。だって彼女と出会って、愛し合えたんですから。ねぇ、また私は彼女と会えますかね?」
「そうね。きっと会えるわ、運命の相手は特別だもの」
私と彼女は再会する。ハッピーエンドは永遠だ。