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ずっと続く

作者: 紗 織

 「ただいま。」


 「おかえりなさい。」


 ごく当たり前な毎日の言葉のやり取り。


 そう思えるのは、貴方が幸せな毎日を過ごしているから・・・。




 

 家に帰りたくない・・・


 どうして私は、あの家に帰らないといけないのだろう・・・



 こんな気持ちになったのは、いつから・・・?




 あの人は、いつも優しい。

 ご飯を作って、掃除をして、洗濯をして、子供の世話をして、買い物に行って、家族の駅までの車の送迎をして、犬の世話をして、庭の水やりをして、それから・・・・


 

 そう、私が家の事をちゃんとやっていれば、あの人は、笑顔で私に話しかけて来てくれる。


 あの人は、言う。


 お家の事は、お母さんがちゃんとやってくれるから大丈夫。

 僕らは、お母さんのお手伝い。



 そう言って、どんな時も自主的に家事に参加する事は無い。




 何か手伝って欲しいことはある?


 


 そう言ってくれた後に、何かを頼むと、



 それって、僕がやるよりも、お母さんがやった方が上手だよね。

 と笑顔で言い返してくる。



 それでもお願いと頼むと、結局しぶしぶ始めるが、作業が終わるまで不機嫌な様子になってしまう。


 僕がやらないと、お母さんが不機嫌になるからしょうがない・・・


 あの人は、そう言いながら、しぶしぶやっている。




 どうして?


 私は、いつから家事をやる人


 になったのだろう?




 二人の間に子供が出来た。

 子供の近くに母親がいて、ちゃんといつも近くで子供を育てる方が良い子が育つ。


 そんな両親やあの人の考えに押し切られて、大好きだった仕事を辞めた。



 子供が大きくなってきたから、また外に働きに出たいと言った。


 今まで通りに家事をちゃんと出来る範囲なら構わない。


 あの人は、言った。



 子供が帰ってくる前に家に戻ってくるように言われると、パートや定時で帰れる近くの駅の会社の派遣社員になる事しか出来なかった。


 

 そして、今まで通りの家事は、外で働き、仕事を任される事が増えれば増える程、当然やることが難しくなってしまった。


 結局体調を崩し、仕事を続ける事が難しくなってきてしまった。



 あの人は、笑顔で言った。


 君は、もう働かない方がいい。

今更外で働く必要なんか無いんだよ。


 だって、僕が働いてきて、ちゃんと給料をもらってきているんだからね。

 それなのにどうして、君が外に出る必要があるんだい。


 そんな事をする時間があるなら、ちゃんと家事をやってくれないと困るよ。


 君が働きはじめてから、家の中が雑然としていて、とても雰囲気が悪くなっているのが分からないのかい?




 私と言う個人が消えたと思った瞬間だった。




 あの人は、自分の『お手伝い』という家事の意識を変える気は全く無い人だった。



 結局、仕事を続ける(外の世界に、私が存在する)必要はないと言われた。





 私は、ただ家であの人が望む家事を笑顔でやるだけの存在。



 この考え方が頭に染み付いてしまってから、世界が明るく見えなくなってしまった。



 今までと同じ景色、家族との会話。


 当たり前に感じていた毎日の全てが、空しくなってしまった。



 私は、今どこに居るのだろう?

 私は、なぜここに居るのだろう?


 どうしてあの人は、私と一緒に居るのだろう?


 頭の中に、拭えないドロドロとした感情が湧き上がってくる。


 



 今の世の中、専業主婦として家でのんびり過ごしている奥さんなんて、少ないと思うよ。君は、幸せだね。


 あの人は、そう笑顔で言う。


 


 「ただいま。」


 「おかえりなさい。」


 この会話は、私がこの家を飛び出す事を決める日までずっと続く・・・


 いいえ。もしかしたら、あの人がこの世から突然消える日が来るまで・・・

 


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― 新着の感想 ―
短いけれども読みやすくて情景も思い浮かぶ素晴らしい作品だと思います。
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