第八話 休眠期
俺が休眠期に入っていた時のこと。
ジョウをかついで、彼女はジョウの治癒の居場所を探していた。
別の件もあって、ヴァンパイア狩りが流行り始めた世の中。
ヴァンパイアが密かに住まう街を目指している途中、協会側に拘束保護。
ユリエルは協会が嫌いらしく、その場から逃亡。
協会側は聖女の血を継いでいるクレアを、次の聖女にしたかったらしい。
なんせ、ひとりで街の治安を任せていた隠蔽かなにかをしたかったのだろう。
ジョウの延命処置をして、名実人質。
彼女は協会側にほどこされ、街を火の海と化した何者かに加担した女のきょうだい。
つまり体裁上、双子の姉として協会員関係者に紹介された。
そしてひとりの女性が言った。
「じゃあなんで、あのヴィリアンとかって言う男の子供をはらんでいるの?」
協会側は特殊能力者の集まり。
そして共存を目的と、している、筈、である。
しかし、弾かなければならない者も、当然いる、と言う都合。
聖女として公にされた彼女は懐妊していて、それが知れた。
芽吹いてから四ヶ月目。
堕胎はむずかしい。
そして父親は、堕天使。
協会側には、堕天使の血筋もいるが・・・
宿したのは、堕天使王の息子のヴィリアンの子供・・・
協会側としては、生まれつきあまりにも価値観が危ない思考回路なら・・・
いっそう、それを産んだ女ごと一掃を。
・・・その時期の協会は内部が荒れていた。
本来の協会ではなかった、と、のちに謝罪があったと聞く。
つまりは体裁がつくろえないなら、ヴァンパイアに居場所はないと言われたらしい。
あまりにも清いジョウの血に慣れたクレアは、血に困っていた。
清蓮潔白症の拒絶反応により貧血が続いた。
『彩路:さいろ』と呼ばれる街には、吸血抑制の錠剤がある。
少なからずヴァンパイアのために血液提供をしてくれる人間たちがいる。
世の中の一端はそれに気づいて、ヴァンパイア狩りを本格的に公然にする手前だった。
ハーフであったので叶ったことだが、抑制ブレスレットをした男がひとり。
金髪に、健康的な美形。
白いドレスに伏し目がちなクレアの前に、その少年はかしずいて、にっと笑った。
少しして、衰弱していた彼女の憂い顔がはっと息をのむ。
「ユリエルっ」
ハグをしあって、そしてすぐに冷静に戻る。
クレアの政略結婚、当日、協会の控え室で起った、奇跡。
「クレアっ・・・」
一陣の風が吹いた気がした。
彼女はその時、自分でも「驚いた」と言う顔をした気がすると言った。
目の前には、親友のユリエルと意識不明のはずのジョウ。
ユリエルの血を飲んでヴァンパイアになったジョウは、後悔しないと言った。
そして結婚式当日、三人で、協会から、逃亡。
ヴァンパイアを公認している街『彩路』へ向かった。