第七話 汝、目をそらすことなかれ
「やっと見つけたよ、兄さん」
まるで耳元で言われたかのような錯覚。
その声の持ち主は、出現と共に異空間から炎を放った。
女にみまがうほどに可憐な面立ちをした弟のリーオ。
「ヴィリアン、ジョウっ」
そこに聞こえたのは彼女の声で、そして俺は次の攻撃を遮るために翼を広げた。
漆黒の背中の翼が出現して「長くはもたない」と俺に伝えた。
弟はどうやら、母にだまされてこちらを憎んでいるようだった。
リーオも妻を母に寝取られて、その犯人が俺だと思い込まされていた。
いくらリーオに知れたくないからって懇願されても、リーオの妻まで殺したのは事実。
リーオが火の玉を飛ばしてきて、俺はバリアを張って対抗する。
話をしたいが、むずかしい。
ジョウが死ぬかもしれない。
殺しても気が済まないあの「人間」。
街中が炎に飲まれはじめてクレアに罵声を浴びせる「人間」たち。
母の愛をいまだ誤解している義理の弟、リーオ。
憤りでおかしくなりそうだ。
いや、もう、おかしくなっていたのかもしれない。
元来そんな力は出ないはずなのに、接近戦に弱いリーオを殴り飛ばした。
そしてリーオに、こぶしに母に騙されているぞ、と本能的に含めたらしい。
「母さんが・・・僕を裏切った・・・?」
起き上がったリーオは、ショックを隠せないようだった。
「住処に帰れ」
リーオは苦々しそうにして、移動手段である亜空間の軌道を開いた。
「兄さんはどこに行くの?」
それには答えずに、さきほどの地点に振り向く。
真っ赤な炎の中にある街並みに、ジョウをかついだクレアを見つける。
彼女はもしかしたら俺の存在で、居場所をなくした。
ジョウも助かるか分からない。
・・・もう、俺は彼女たちに関わったらいけないのかもしれない。
「兄さんが人間に惚れてる・・・?ははは。面白いことになってるっ」
そう言ってリーオは姿を消した。
亜空間を開くほどの力は少し残っていて、バリアの中で眠ることにした。
リーオはおそらく、俺の執着した者たちに興味を持った。
いずれ何かあれば、俺は眠りから覚めるんだろう。
場合によっては、何者も殺す。
今は、休眠の時。
俺は目を閉じて、眠りについた。