第六話 堕天使の天秤
緋い葉のリンゴの木が出てくる話の本を、クレアと一緒に読む予定だった。
よくは分からないが、新しくできた写真現像に興味があってユリエルと外出。
ジョウは食器洗いを自発的にしていて、鼻歌をくちずさんでいる。
熱に浮かされている時に、看病をしてくれた彼女もその歌をくちづさんでいた。
「今日は、近所のひとが親戚連れて来るって。同い年だから挨拶したいって」
「誰に?」
「なぜか僕でもいいって。ちょっと出てくるね」
ジョウも一応、この界隈の治安を守っているひとりだ。
なので挨拶をしたいと申し出があっても不思議ではない。
ただ、イヤな予感がした。
「あれ?この時計止まってるっ。ヤバい。走るっ」
そう言って裏口の金属階段から駆け下りて行ったジョウの足音を聞いていた。
ソファに腰掛けて、膝の上に本を広げていたけれどちっとも読書は進まない。
しまいには眉間にシワが寄って、イヤな予感が濃くなっていく。
なので幾分もせず、ジョウのあとを追うために家から出た。
「お前、ヴァンパイアに血を提供してるって?」
「それが何?」
「気持ち悪りぃのっ。死ねっ」
「・・・はぁ?」
現場に着く頃、そんな会話が聞こえた。
目の前には親からくすねたのであろう、銃をズボンの後ろ腰から取り出している場面。
「やぁ」
「げっ」
次の瞬間、少年は弐発の発砲を俺にした。
そして俺はその弐発分を、素手で受け止めて握りしめたそれを地面に捨てた。
金属が陽の光に反射して煌めく。
注意をうながそうとしている時に、イヤな予感は的中した。
暗雲が垂れ込めるかのような気配に、母の派閥である弟のリーオの匂いがしてきた。
それに気を取られた時、発砲音。
ジョウは近距離から撃たれて、倒れた。
「やーいやーい、異端児ぃ~。俺の親は警察の知り合い様ですよ~?」
気づくと俺は高速移動をしていて、その片手で少年の首元を掴み足元を浮かせた。
何か言おうとしていたようだが、許すつもりはない。
堕天使には堕天使の思考回路がある。
次の行動に、理解がない者もいるだんだろう。
俺はジョウを撃った少年の首を、へし折った。
可哀想だったのは、近所に住んでいる協会員の子供。
落ちた銃が地面に転がり、足元に来たそれを拾って、自害。
そしてこめかみを撃ったその子供にかまっている場合ではなかった。
我を失いそうなほど怒りに満ちたその本能。
理性かもしれない部分が言っている。
――・・・来るぞ。




