第五話 安穏としていた日々
服と靴を買ってもらった。
Tシャツにズボン、チェック柄の長い羽織りに、ショートブーツ。
それから、丸眼鏡。
これは自分からの要望で、ファッション雑誌を見た時に実際に見てみたいと思った。
なので要望してみた。
度は入ってない。
その眼鏡をかけて、カウチソファーに座って、そこらにある本を読んでみる。
リンゴの木の話の本に、しおりがはさんであった。
そのしおりは誰かが折った折り鶴。
読書は好きにしてもいい、と言われた。
料理を手伝ったらジョウが怖がったから。
その日はクレアの親友を紹介された。
ユリと呼んでいたので、その親友は女性なのだと思っていた。
家を訪ねてきたのはユリエルと言う名前の、金髪美男子だ。
俺が大人びた美でしかないのなら、
ユリエルは少年美を持っている感じの美形だ。
少し胸がチリついた。
今思えば、生まれて初めてのヤキモチだったのかもしれない。
それを無意識に隠して対応すると、なかなか好印象なやつ。
「三人で撮ったことがない?オーケー。俺っちが撮るよ。並んで~」
ユリエルがカメラマンで、クレアとジョウと一緒に撮影。
「早く出来上がり見たいな」
「僕、まばたきしたかも」
苦笑。
「ああ、最後の一枚だったんだ?すぐに現像に出そうぜ?近くに壱時間でできる店ある」
「本当にっ?一緒についでに買い物しようよ?」
「ほ~、彼氏さんも来るの?」
ユリエルが俺を見る。
ジョウが「え?」と少し、動揺している。
「俺はただ、世話になってるだけ」
ああもう、なんだぁ、びっくりしたぁ、とジョウが本気で安堵している。
”ジョウのクレアへの淡い気持ち、気づいてる”。
ジョウは血液提供者、俺は何もできていない。
まさか一晩で宿るとは意外だった。
俺は身体のなぐさめ役もできない。
俺の体質上、妊婦とはできない。
そろそろこの居場所から出ていかなきゃいけない気がしてる。
ただ、それまで・・・
安穏としているかもしれないこの不思議な心地を、味わっていたい。
そう思ったのは、『罪』だったのだろうか。
堕天使と堕天使の息子。
世の中では、ヴィラン。




