第十壱話 「俺がいるから」
ジョウはバリアを張って、彼女とサラの分の護りをつけた。
それも嗅ぎつけられれば、すぐに解かれてしまうだろう。
決着をつけねばならないのか。
少し、迷う。
そしてその油断にリーオは光線のような光槍魔法を放った。
気合いで吹き飛ばし、相殺させる。
少し唖然としたリーオは、嬉しそうにして笑った。
「それでこそ兄さんだっ・・・」
「共に生きる道はないのか?」
「兄さんは、僕の妻を殺めた」
「お前の妻は、母上と密通していた」
「・・・うそだっ、そんな筈ないっ」
「うそじゃない」
「うそだっ」
拒絶反応から、リーオから火の属性の衝撃波が放たれた。
それを、おもむろに片手をかかげたクレアが、静かに冷ました。
神がかり。
「無益な争いを止めなさい」
「うるさいっ。お前に何が分かるって言うんだっ」
リーオは本気で叫んでいた。
その口調は、情報をある程度限られた者特有の風味がした。
俺はお気に入りのダテ眼鏡を指で上げ直し、ため息を吐いた。
「クレア・・・」
彼女がこちらを見た。
まだ神がかりが続いている中、彼女の意思を感じる。
だから、自然と言えた。
「俺がいるから」
彼女は気絶して、ジョウが身体を支えた。
そして混乱を極めているリーオからの攻撃が、再度始まった。
「あぁ~・・・やっべぇ。黒いスーツの協会員、来ちゃってるじゃん?」
ユリエルが言う。
そこには八方からの刺客。
「なにげに・・・ぶち切れてるんだよなぁ、俺」
そう言ってユリエルが指を鳴らすと、そのまま彼の怒りに刺客たちが倒れた。
気絶したのか絶命したのか分からない。
「俺、ちょっとそこの階段で休んでるから」
眼帯をしているのでユリエルなのだろう。
意外な面を見た気がした。
予告通りそこらの階段に座ると、もたれて目をつぶった。
リーオからの光槍の攻撃、それを相殺。
「どうやら炎を吐くには回復に至っていないようだな・・・」
「兄さんこそ、なに?その服?あやしいよ」
「今はファッションチェックの時間ではない」
「僕の可愛い妻を殺したのは事実なのっ?」
「ああ・・・そうだ・・・それは、事実だ」
「じゃあ、兄さんを殺すっ」
細いため息を吐いた。
ふ、っと息を意識して吐くと、リーオのバリアが解けた。
「どういうっ・・・」
リーオの言葉を待たず、気を練って定着させた手刀で、胴体を貫いた。
信じがたいとでも言いたげなリーオは血を吐く。
穴の開いた身体が虚脱し、膝から崩れ落ちるのように倒れる。
「に、兄さん・・・」
「共に生きるにしても、お前はまだまだ見聞不足だ」
「・・・どういう、い、み・・・?」
リーオは気を失い、それを宙に浮かせるバリアを丸く張った。
その中に、少しずつ回復をする回復魔法を混ぜておいた。
治療のたびに、彼にすりこまれた誤解を解く代わりに。
そしてそれは、案外と時間がかかるらしいことをバリアに言われた。
とんでもないやつだが、リーオは可愛い弟。
殺めたくなかった。
それが今後、どう作用するのかは分からない。
数年か、数十年、かかるかもしれない。
その時まで俺が生きているかも分からない。
ただその施しをしてすぐに思い立ったのは、亜空間にリーオを送ること。
そして俺の子供を気を失っても抱きしめている『彼女』の存在。
赤子が泣いた。
その声に、少し唸って、彼女が目をさました。
「・・・戦いは終わったの・・・?」
歩み寄った俺に、体勢を持ち直そうとするクレア。
「きっとだ」
「きっと?」
「そう、きっと・・・戦いはいつか、終わる」




