第十話 ミロクの護り
この章の冒頭から言っておこう。
ジョウを一時的に捕まえ、スーツの男たちを率いたのはユリエルでは、ない。
ユリエルの姿に術で変化した、俺の弟リーオだ。
ちょうどその日、ユリエルは「ハンターを束ねている者」に会いに行っていた。
自分の息子たちがヴァンパイアに血を吸われて、特殊な体質になったひとのところ。
つまりは今後の生活の相談に。
・・・そんな頃、俺は亜空間のバリアを解き、下界に降りた。
気だるげな気分で、気を練って服を生成する。
黒いスーツに白いワイシャツ、黒いネクタイに、ブーツ、黒いコート。
おそらく『彼女』は彩路にいるのだろう。
そう思ったから、そちらに向かった。
途中、気分が優れずにふらつく。
・・・栄養不足と、まだ残る不具合。
戦闘には向いていない日和だ。
建物のみぞに、吐血。
その俺の後ろに、人型の気配。
俺ははっと息を呑んだ。
「血の匂い・・・」
そこにいたのは、ユリエル。
ユリエルはその日、眼帯をしていた。
ユリエルの郷は『彩路』であって、彩路で「ミロク」は守り神。
信仰している者もいると言う。
ユリエルがそうなのかはっきりとは聞かなかったが、眼帯には3と6のプリント文字。
彩路で有名な「三」を「み」、「六」を「ろく」、と読む「ミロク」眼帯だ。
その眼帯には、「ミロク」の護りがついている、と謳われている。
その日ユリエルが眼帯をしていることを、クレアは知っていた。
なので赤子を抱きしめながら彩路を彷徨う彼女を、特殊な声で呼んだのは運命か。
導かれるようにそちらに向かってみた彼女の前にいたのは、ユリエルの姿。
ただ、眼帯はしていない。
アパートのベランダの手すりにしゃがみ座り、不敵な笑みを浮かべた。
「クーレア」
クレアはユリエルの姿をしているリーオを見上げ、睨んだ。
「君は、誰っ?何の用なの?」
気づくとリーオの姿に戻っていた人物は、くすんだ色の壁に彼女を追い込んだ。
あまりの移動の早さに動揺した彼女の靴が、みぞのへりにひかかる。
体勢を崩した彼女に、更に近づこうとするリーオ、彼女は思わず目を閉じた。
リーオはまさに、彼女を舐めてかかろうと舌をちろちろさせている。
「クレアっ」
不発だったが、突然の跳び蹴りをしたのはジョウ。
「おっと・・・」
「ジョウっ」
体勢を整えようとしたリーオに、衝撃派を浴びせた。
当たったと認識する時には、すでに壁にぶちあたっている早さだ。
ジョウが言う。
「帰って来たよ」
「え?」
「ヴィリアン」
「ヴィリアン、連れてきたよ~」
ミロク眼帯をしているユリエルを見て、顔を明るくする彼女。
「ユリエルっ・・・ヴィリアンっ」
「「積もる話はあとだ」」
戦闘要員ではないジョウは、「何かあったらクレアを連れて逃げる」と言い切った。
「「それでいい」」




