がるら
がるら
イタチコーポレーション
見ながらも
その月は僅かに動きを続け
その観測は、非常に、飽満ながらも
どこまでも平等線を続けていた
誰が観測しても
その規律正しい機械による行動は、
どうしようもなく刻むような一律を要し
誰一人居ない
その部屋においても
同じような同刻をひたすらに続ける
何もないようなその部屋は、飽和にして完璧
されど、その繰り返しに意味するは
無意味を要した反復作用に、思われる
長い黒髪は、呪いの日本人形のように延び
畳張りの長方形の和室に、延びきっていた
私は、その黒い床の部屋にお食事を持って
毎日のように、訪れていた、その部屋は
冷房完備、しているおかげで、非常に涼しく
いや、冷たく、どうしようもない、厚着をしなければ
その他の部屋から、その部屋に
ほんの数歩入るだけとはいえ
それだけで、屋敷の温度差により、風邪を引いて
もしくは、体調が、悪くなりそうである
私は、お膳に乗せられた、エビフライ 茶碗蒸し 雑炊 プリンにサクランボ 牛乳 などの
お子さまランチのような外観をしたお盆を
そのまま、彼女の部屋の中央
この時間帯だけ
モウゼか、引き潮か、畳中を、遊ぶ髪の一列
線のように
時計の秒針のように
私が入ることの出来る、襖から延びた青い畳が、髪の中から、浮かんで見えた
そこに、数歩 襖の縁を踏まないように
足の先に出す順番 足袋の足裁きを考えながら
進み、しゃがんだ先でお盆を、彼女の前に置き
一礼すると、部屋を出た
彼女の肌は、白く
まるで、おしろいでも塗っているようだが
其れは、地であり
青さではなく、ただただ白い
まるで、深海をのぞき込んだかのようで
其れは、黒ではなく白いのだ
他の部分は、畳一杯黒く
されど、着物の裾から見える手足は、恐ろしく
髪に隠され消えて見えにくいが
それ以上に、そのせいか浮かぶように白い
口は、白く、目は、まるで、一度見ただけで、二度と出てこれないような黒目を有している
だから、部屋に入る際に、返事を聞き
そして、出来るだけ、目を合わせず
伏せたまま
私は、配膳を終わらすように、前の仕事をしていた方にも、そう教わって居いる
部屋の広さは一二畳は、あるだろうか
部屋の外には、綺麗な中庭に通じる裏庭の
日本庭園が
作られ
紅葉や松が、整備された中に
小さな道があり
その横に小川も流れ
外の用水路へと山から落ちて行く
灯籠が、数個角に立つ中に
石が引かれ岩の類がその中から顔を出し
下草が、その周り
家の縁の下の際を飾り
その中央には、幾重にも重なり続けたこけが
絨毯のように、広がり緑を、さらに深く沈み込ませている
私は其れを、白い障子でしめ、一度たりと
其れが、空いているのを、見たことはない
ただ、部屋の中央にある
大きな、蛍光灯の長方形のカバーが、爛々と
現代的な明かりを、部屋に反射させた
何か、白々しく
そして、青い部屋を、毎日三度目にするのみである
この家に、奉公に、上がったのは、私が、まだ物心をしっかりしてから、二三年立ったくらい
今で言うところの七歳くらいであっただろうか
私は、着物を着せられて
電車で揺られ
母に、つれられるままに、手をひられた
「しっかりしなさい」
そんなことを言われ
黒く大きな門を見たとき
一体何をされるのかと思ったが
其れを通り
玄関の綺麗さ
そして、通されてでされた
食べたこともない美味しく美しく上品な和菓子を
口に入れた頃には、惚けたように
出された抹茶を、すするまでに、落ちていた
母は、何か、ものすごく緊張したようで
何も食べず
ただしせいを、ただして、机の前で
私の横 座っていた
30分も経ったのだろうか
私が、飽きたように部屋をきょろきょろと見回した頃
母が、それをたしなめるように、膝をぴしりと叩き
驚いたように、目線を、上面に戻したとき
ゆっくりと障子が空き
前の奥様が、いらっしゃった
非常に上品であり
きっと一度も野良作業に、出たことはないのだろうと
白い化粧を見て思う
着物も濃い紫が、薄く乗り
茶色にも黒にも縁どりされた
大人しめであるが
しかし、私は、このような物は、一度も見たことがないように、思われた
「あなたが、サチコさんね、オカミさんを宜しくお願いしますよ」
私たちの前に、座った奥様は、そう言って、から
母に何か話し
それから、私は、この場所で働くこととなった
そのあと、私が奥様と、話すことはなく
だいたい指導したのは、この家を、仕切っている
4、50代の女の人で
後は、私を入れて四人の女中に、より回っていた
その他にも運転主兼庭や雑用をしている老人も居たが
残るカミさんと呼ばれた
小さい女の人以外に
この屋敷に、人間は居ない
奥様が居るのだから
旦那さんや、そのお子さんもいるのかと、思ったが
一度も私は見たことが無く
他の者に聞いても、どうでも良いという
奥様がお亡くなりになったのは、それから三年後
そして、代わりの奥様がやってこられた
年齢は、以前と同じほどであり
背は高く細身であったが
やはり上品であり
私は、これは、普通ではないとは、分かっていたが
だからといって、仕事を辞めるようなこともなかった
仕事は、いつも同じであり
屋敷の管理 カミさんのお世話
その他 あまり来客はないが
それでも、屋敷の管理に関して
年何回かは、来訪者が居た
私は、周りの使用人の人に
色々と話を聞きながら仕事を続けていた
時代は、戦争に突入しても
この場所は、変わらず
同じような毎日が繰り返され
さすがに、世間に疎い私でも
それは、非常に異常なこととして、脳裏にある
しかし、だからといって、何かを起こすわけでもなく
私は、毎日のように繰り返した
私は、最近調子が悪い
さすがに、七十年も
同じ事を繰り返して居れば
それは、どんなに、それに対しての最善を尽くしても
体の方のガタは、いかんせんともしがたく
私は、少し豪華な食事を
カミさんの前に、持って行くと
頭を下げた
彼女としゃべったことは、一度もないと言うわけではないが
しかし、それでも、返事もなく
ただ彼女は、彼女のままであった
それは人形のように、そして、無機質のように
されどそれは動くし
そして、お風呂もありトイレもある
その部屋には、最近本が増えている
何でも漫画という物らしいが
私の頃は、もう少しわかりやすかったが
最近の物は、色々と難しい
私の代わりも、もう居る
と言っても、世ほどのことをしない限り
そんな妙な物ではないだろうが
私は、最後に、私が、この仕事を、終わりになり
次の物が来ますと、言うと
彼女は長い髪を、こくりとうなずき
答えてくれた
私は、部屋を出でると
今まで過ごしていた部屋を、最後に、改めて、掃除をして、外に出た
私は、そのとき、はじめて、改めて、今まで過ごしていた場所を去るのだと実感する
あたりは、民家が建ち並び
遠くの方には、コンクリートのビルが、城のように
尽きだしている
私は、見送られるまま
一軒の家を出た
標識はなく
ただただ立派だった
周りの家からは、なんと呼ばれていたかは、分からない
しかし、私は、かみさまと考えていた
夜の暗闇は、どこまでもとおく
現代社会だというのに
この屋敷の外の外套はなく
周りの家も
まるで人などいないように暗かった
私は、自分の部屋を抜け出し
色々と歩いてみる
この時間帯 皆寝ており
私は、このときを、少し暇に思っていた
やることと言えば、掃除 洗濯 草むしり
あと、当番であれば、料理もしていた
この家で、やという主となるのは、奥さんであり
現代では珍しく
比較的多く着物を着て
たまには、洋服もあったが
着物の割合が九割と言ったところか
現代人のはずだが
その顔つきや仕草は、まるで、浮世絵から抜け出してきたような、現代離れしたような、存在である
未亡人なのか
夫は居らず、子供の来訪もなく
また、そのような、部屋の痕跡も見あたらない
ただ、それに比例するように
この家には、一つ
あまりにも立派な木造造り以外に
一つ 女の子が一人居る
それは、知恵遅れとか
危ないとかではないのは
鍵がかけられていない
襖を見れば、一目瞭然だが
しかし、現代病と言うべきか
それとも、昔からあるのかは分からないが
彼女は、引きこもりのようで、一回も部屋から出ている姿を見たことはない
それはもちろん、あの髪の量を考えれば、さも当然だが、もしかしたら、
あれは、ウイッグか作り物かも知れない
もしそうだとしても、そうする理由がない
彼女にあう人間などせいぜい、食前を担当する私くらいの物だ、その他にも洗濯や買い出しなども別の人がやっているが
来客はおろか
奥さんが、彼女に会っている姿さえ見たことはない
今現代、黒髪なんて言うのは、かなり珍しい存在だろうが
彼女は、れっきとした、黒であり
そこに、青や赤紫黄色ピンク透明なんて物が、
毛先さえも、いや、見たことはないが
見たこともない
部屋には、さして、目新しい物はなく
壁には小さな本棚に、最新刊の漫画が並び
部屋の隅は、テレビゲームが
いく世代前の物が、ブラウン管テレビのしたに収納されて台に置かれている
私は以前
彼女に聞いてみた
皆が、彼女のことを
「かみさん」と呼ぶなさいと言ったが
いや、はじめてあった、あの前任の老婆だけが
一度だけ
そう言った以外に、あまり聞いたことはない
まあ、禁句というわけではないが
それを話の話題に上ったことを
私は、この二、三年聞いたことがない
この屋敷が、何なのか
何のためにあるのか
ただの、金持ちのすごしかたなのか
それとも、そう言う風習が残っているだけなのか
はたまた、何か重大な秘密があるのか
私は、かいちゅうでんとうを、片手に、廊下を歩く
黒い磨かれた廊下は、まるで、密でも塗ってあるように黒く光っている
これも、箒掛け雑巾掛けのあとの
クルミをくるんだ絞った布による磨きも関係していることなのだろう
きしみが、古いはずなのにあまりなく
私は、電気が丸く切り取られたように明るい
かいちゅうでんとうを廊下で、揺らし
天井や床をさまよわせるが
蜘蛛も埃も何もない
綺麗なものである
私は、そのまま、ゆっくりと
廊下の一室
私は、その部屋の前にたった
中から、何も・・
いや、何か音がする
「シュルシュル」
何かが、するような、細く、細かい物が、這うように動く音が
それは、毛虫のように
何かが、合わさるような気がした
私は、懐中電灯を、置き
ゆっくりと少し
襖を開く
中は暗いが、何か明かりがあるのか
ぼんやりと見える
しかし、曇ったように
視界が、悪い
何なのだろうか
夜中に、カミさんの部屋には、入ってはいけません
そんな話を、私は、聞いていた
あける程度なら
暇なのだから
私は・・・・・・
「すいません、何度も、お訪ねして」
目の前の男は、スーツ姿であり灰色である
ぴしっとしているようには、お世辞にもいえないが
それでも、それは、着こなしているとは少々違うが
それでも、体に合っている違和感はある
年齢は、四五十代もしかしたら、もしかすると30後半と言うこともあるかも知れない
髭は一応は剃っているのだろうが
僅かに跳び出し始めている
彼が言うには、彼女は、夜中に死んだという
全身、細かい物に砕かれ
葬式は、彼女の居た孤児院で、行われるという
私は、彼に言われる
「もう一度、仕事してもらえませんか」
私はこういう言い方はあれであるが
それでも、月二十万ほど
住み込みでありましたから
それに対しての差し引きが無く暮らしていた
他に使う物もなく
また結婚もしていなかったため
私はそろそろ老人ホームにでもと
考えていた
しかし、今更私に何が出来るのだろうか
彼女は少々 冒険心があるところがあり
大丈夫かと何度も言ったが
何か、粗相をしたのだろう
しかし、あれ程までに
大事にされていたから
何かあるのだろうかと考えたが
しかし、それは、変死という奴だろうか
あの屋敷でいざこざになり
殺されたとは考えにくい
無くはないとは思うが
そんな殺され方をする理由がない
そうなると彼女なのだろうが
私は、結局 次の人の指導をすると言う事で
あの屋敷に戻ることになる
そうは言ってもやることなど余り無いだろう
奥様は、私が居る間に五人変わられ
庭師の老人も
その後、二人変わっている
みな、口数が多い方ではなく
給仕の仕切であっても、仕事に対して、始めは多く言うが
そのどれもが、仕事に関することで、私情を聞いた試しが無く、また、皆、家族のことを、話した覚えがない
もしかすると、私は違ったが
いやどうなのだろうか
母親は、私がどうなるのか知っていたのだろうか
彼女の葬式に行ったのは、私の家族が、戦争で、色々あって皆死んでしまった事で、墓参りと言う形であったし
村がなくなってしまえば
私は、それ以上分からず
お墓は、身寄りがないため
私は、寺に、無縁仏として、私の代で
すべて、任せるようにお願いしてある
其れにしても、あの家は、何なのだろうか
私はもう少し関心を持った方が、いいのだろうか
良かったのかも知れない
もし、あの子が、死んだのも
私が皆そうしていたように
其れをひた隠すように、何もない
普通のことと考えたのではなく
何か、あるのではと、調べていれば
しかし、あの屋敷が見えるに従い
私の意識は、ここにきた当日のように
すべてに「はい」と言う言葉こそが、見合うように思えて仕方がなくなったのである
奥様に、対面した後
私は、給仕長に、またすこしの間だけ、ここにご厄介になるという旨を伝え
何また戻ってきているのだと、三ヶ月で戻ってきてしまった私であったが
他の見知っただけであるが
仕事場の二人にも挨拶をする
その日の午後
最低限の荷物が、同じ部屋に運ばれ
私は、少しお茶を飲んでいると
玄関で声がする
この家には、昔からチャイムがないし
新しく作ろうという声も聞いたことはない
私は、そういうものだと思ったし
さして困ったことも無かった
だいたいにおいて、この家に、来客する
人の方が圧倒的に珍しく
郵便物さえ
新聞が、そのほとんどだと言っても良い
その一部は、台所の共同のテーブルがあり
そこで、お茶や食事が、同じ時間で行われることが多く
そこに、置かれていた
その他にも、毎月 クロスワードの雑誌が
私の提案で置かれたが
其れを知る人は今現在居ない
かみさんはここにはこないので知るよしもないだろうと思う
私は、湯飲みをおくと
はいはいと声だしなが
玄関へと言う
私がと言う人も居たが
余りにも長く
其れは、囚人の方が、その場所の方が長く
そっちの方が、良いと思うように
私としては、この家こそが、普通であり
其れ以外がある意味異常だともいえた
私は、玄関にでる
今日何もしていないと言うのもあったが
ある意味反射行動だったのかも知れない
そういって、出た先には
小さい女の子とあのよれよれのスーツの男が、光を背後に立っていた
古い家は、比較的、暗いと言っても良い
私は、電気をつけると
挨拶もそこそこに
上がることを、進めたが
男は、いえここで、と其れをさいぎり
そそくさと出て行く
少女は、其れを見ていたが
それでも、私を見ると
どうしたらいいとでも言いたげに、玄関に、立っている
私は、「まあまあ、いらっしゃい、おあがりなさいませ」
と、言うと、彼女は綺麗に、靴をそろえて
一歩家の縁そして廊下へと足を踏み出していた
奥様の部屋は、かみさんの部屋の反対側であり
彼女の部屋よりも少し ほんの少し一回りほど小さく
同じような畳張りであった
日差しも良いが
窓を開けても、そこには、人一人歩くほどの道があり
その向こうには、庭はなく塀があるだけである
さしてそういうことを、気にするような人間とも
また、すべての奥様に言えたような気がしたが
それでも、どうせ、いつも締め切っているのだから
窓を開けている奥様と、交換しても良さそうな物だとも思うが、しかし、だからといって、其れを口に出すことを考えることもないし
もしかすると、そういうことが、昔言われたのかも知れない
であれば、私は何もいうものではないだろう
私は、奥様に新しい給仕の子が来ました
と言うと
彼女は、ほほえんで そう
と、言って、立ち上がった
新しい給仕が、くるとは言っていたし
私が其れを手伝えとも言われた
あの男の名前は黒崎 一郎と言ったが
その名刺には、その他に何もかかれて居らず
いったい何者かも分からない
一応
「何をなさっているのですか」
と聞いたが、笑ってごまかすように、色々と
雑用だと言われたが、色々分からない
試しに
あの屋敷がなんなのか、知っていますか
とどちらにでも取れるような
ある意味、上からともまたは・・
私は、そう聞いたが
男は、首をかしげて、給仕を、つれてきてほしいとだけしか言われていませんのでと
余り、白々としない不透明な事を言って首を軽くひねって掻いていた
私は、正直なところ
教育に関しては、週に一度
土曜日に、教わり
後は、夜の二時間ほど
自分で、勉強していたため
そこまで、現代の学校で教わる
物とズレては居ないはずである
しかし、そうは言っても
現代社会において、ご奉仕によるお勤めを
見たところ幼稚園児ような子供に
法律的にも危ないのではと考えてしまう
私的には、自分の理由として、そこにつれて来られたので
余り疑問視は無いが
彼女は、其れを、許容しているのだろうか
座敷に来客用の和室に彼女を、通したが
出された和菓子に手を付けることなく
手をぎゅっと、膝の上に置いていた
しばらくして、彼女の正座が限界に来たような時になり
奥様が、襖を開けて現れた
わたしはその前に、彼女に、
大丈夫 仕事は出来る
と、聞いたが
彼女は、こくりと首を下げ
なにやら真剣な目で私を見た
前のこともあるし
色々 しっかり教えなければいけない
私は、強くそう感じた
この屋敷で、人が死んだという事は
たびたびある
そうは言っても、七十年で四人
一人は、奥様が、持病により
後の一人は、最初にここに来たときにいた
運転手さんが、外で、何者かに、物取りなのだろうと
殺された以外
あのおとこに聞いたような
全身、何か、針金のような物に
体をつかれ
まるで、肉をたたいた後のような
状態で、見つかった
私が其れをみたのは二十歳後半だっただろうか
少々 気性の荒い給仕さんが来たのであるが
それから二ヶ月ほどして
何か騒がしく
廊下にでると
あの部屋の前
毛布が掛けられていたが
その突き出た腕は、そんな状態であり
血が、廊下に、流れていた
其れは、飴のように黒い廊下と一体となっていたようで
足で汚してはいけないと足袋で出た
足を、ゆっくりとぬらしていた
その後、不思議だと今なら分かるが
警察がくることもなく
彼女の葬式が、行われた
その日、二人を残し
入れ替わるように、葬儀が行われ
結局、火葬場に行ったのは
奥様と、運転手の老人だった
あの後、それに対して、何か話に登るようなこともなく
一度給仕長に、あれは何だったのかと聞いたことはあったが
そんなことは聞かなくて良い
どうせ、かみさんに、そそうをしたのだろうと言われてしまった
彼女にしてはいけないこと
其れはそんなには、多くない
それこそ、余りに失礼なことは、それは人として行ってはいけないだろうし
それに、使える身としては、相手
主人を、立てることは、絶対であろう
どこの世界に、主人よりも偉ぶる従者がいるのだろうか
ただ、それ以外に、一つだけ、私がきつく話された事があった
それは「ヨナカニハゼッタイ アノヘヤニハハイッテハイケナイ」
それはもちろん、かみさんの部屋であり
それ以外に、あの部屋の内容を聞いたことはない
それは、私が、給仕長になったときも
彼女からは、あの事は、しっかり伝えるように
と言う以外に、後は、今までやってきたことを
次の世代にしっかりと教える事が、多く
やはり、あの 彼女について、何かそれ以上知ることはない
ただ一つだけ
この屋敷が、万が一駄目になっても
何があっても、彼女を部屋の外にお連れするようなことは駄目だと言われただけだった
避難訓練の類は、年に五回ほどあるが
毎回 彼女はやらなくて良いのだろうかと
聞いてみたが
それは大丈夫だと言われていたし
聞かされていた
その理由を聞いても
「かみさんは大丈夫だ」の一言に尽き
彼女は、注意事項を言い
お疲れさまと言って、屋敷から出ていった
その後、私の代になり
色々と
されど繰り返していった
ただ、同じ事以外に
大きく変わることは、無く
それが、三十年も続き
私は、歳のことも考え
次の方へとお願いを要望した
それから十五年ばかり
この屋敷に、おやっかいになった
色々な物が変わっていく中で
この屋敷には、ルールに置いても
何もかも
庭も部屋も
一部 備品は違えど
あまりにも、同じようなものだ
私は一人、田舎の部屋で、毎日 狂ったような
時間を過ごしていた
朝起きても、やることは同じであり
仕方なく、掃除を済ませ
旅にに出てみた事もあったが
結局直ぐに言えに帰り
同じ事を繰り返していた
これなら、別の仕事も考えたが
そんな折りに、電話がかかってきた
「使用人を、つれてくるので教育して欲しい」と
何でも、死んでしまったという
そんなことを聞いて、私は、認識不足の甘さと
果たして出来るのだろうかと
老人ホームのチラシを、まとめた後
荷造りを考えていた
今目の前に居る小さな人は
私はまるで、ここに来たときの自分にも似て考えていた
一度も誰も泊まったことも見たことのない
客室が、三つある
しかし、それにとめさせるのも
少々考え
布団部屋と化してる
もう一つの使用人室を、彼女の部屋とした
本来であれば、そこは、教育とでも言うか
先生がいらしたときに、教えていただく部屋であったが
ここ最近、年の若い物は、居らず
皆 二十歳を越えた者が多かった
本来であれば、それがどう言った部屋かは、私には分からないが、しかし、ここに来た当初
この部屋には、大きな木のテーブル以外
余り物はなく
それ以降、使われることがなくなってからは
干した布団の予備を置く部屋として使われていた
彼女に、この部屋で大丈夫かと聞くと
彼女は、こくりと頷く
時期は、春を少し過ぎた
桜の散った時期である
まだ暖かくも寒くもない
比較的、安定した渦とも言える
私は早速、彼女に
布団を、片づけ客室に入れた後
机を挟んで真剣に言う
今まで、二階に置かれていた
机は、埃もなく比較的綺麗な状況に
雑巾で拭いたのだ
二階は、吹き抜けになっており
主に、洗濯物を、干すようになっている
実に変わった場所であり
屋根の三角の場所が、壁が無く、両方風が吹き抜ける状態であった
彼女を前にいの一番
私は、言う
今から、入る部屋には、夜には絶対
入ってはいけません
今までに、何人も事故により、お亡くなりになっています
これは、そう言うものです
病人に近づけば、
風邪も移りますし
薬を飲まなければ、直らないこともあります
良いですか、崖から飛び降りれば、死ぬのです
絶対、入ってはいけませんよ」
彼女は、こくこくと二度頷いた
しかし
「では、なぜ、入ってはいけないのですか」
その言葉に、私は、答えられずにいた
その日、非常に、強い雨が屋根を打っていた
瓦屋根が、多い中
この屋敷は、茅葺屋根で、あった
そのせいかどうかは、分からないが、比較的
夏も涼しく
冷たいくらいである
しかし、カミさんの部屋は、さらに涼しく
とても冷たいくらいである
それが、彼女の生態に関係しているとは
冬の暑さを考えるに、余り関係なさそうである
あのあと、彼女つまりは、速はなさんは、頷いてくれ
何とか納得したようだ
夜中、しっかりと分かるように
あの部屋には、一つ
雪囲いのように
木の板が張られ
その部屋だと分かるようになっている
つまり、あの部屋に入ろうとする者は
それを無視して、もしくは、分からないとは思えないが
そのおくの襖を開けたことになる
私は、心配になり部屋を出て
廊下に出た
廊下には、誰も居らず
明かりもない
私は、覚えている電気をつけるが
誰の姿も確認できない
静かなものである
直ぐに、隣の部屋に、声をかけたが寝ているのか気かないのか声がしない私は部屋を空けると
そこには、布団が一式 引かれて居るだけで
どうも、膨らみがない
私は急いで、部屋に入り
部屋の電気をつけた
少しゆっくり電気が通ると
現代的な明かりが部屋を照らしたが、
布団は明らかに誰もいない
トイレかも知れない
が、私は急いで、部屋を出た
廊下が、足袋で滑る
しっかりと踏ん張りながら
私は、トイレの方をみたが
明かりがない
私は一応
向かいの扉を開けたが
やはり明かりはなく
すべての扉が、空いている
一応
再度明かりを付け
一つ一つ確認したが
同じである
昔は、くみ取り式であったが
最近
そうは言っても
三十年ほど前に
水洗へと変化した
私は、急いで、外にでると辺りを探した
他の給仕にも手伝ってもらおうとしたとき
玄関に、見慣れぬ者をみた
それは、黒い姿をしており
まるで、時代劇の忍者の忍び装束のように思えた
その人たちは、なにかを、構えている
「静かにしろ」
それは、日本語であった
少なくとも海外ではない
布が顔に、あるせいで、曇っていたが
そうはっきりと聞こえた
よく見ると
その腕で、小さな少女をつかんでおり
まるで人質のようである
「この屋敷に、あれが居るだろう
案内してもらおう」
私はあれについて、考えた
しかし、もしあれが、そうだったとして
カミさんに案内すれば、彼女自体どうなるかも分からないし
しかし速さんも、助けたい
不思議なことに、こんな事に関して
何にも教えられていない
それ程までに大事なら、なにかあっても良いはずなのに
それに、第一
今は夜である
あの部屋に案内して、大丈夫なのだろうか
万が一 それが、相手にとって不利になる状況があったり
その逆だって十分あるのだ
それに、私たちだって、その両方において、
特に速さんは、危ない
「早くしろ、この子を殺したくはないだろ」
男たちは、二人居た
一人は私に、黒い拳銃のような筒をこちらに向け
片方は、背後にいて、彼女の首に、なにか銀色の細く小さい物を当てていた
苦しそうに、首が引っ張られている
私は考える
「こちらです」
男たちは頷いている
私は、考えていた
災害にあっても
彼女を外には出してはいけない
果たして、そこまで、彼女は強いのか
それとも、見殺しにしなければいけない理由があるのか
私は、いくら考えても分からず
かみさん本人に聞いてみたが
彼女は、ゲーム機の前に居るのみだった
私は、木の長方形
一体何度触ったのだろうか
寝る前に、奥様が、それを、立てかけるのが
通例となっており
それを、渡すのも私の役目となっていた
それは古く
何代も数え切れないほど
置かれてきたことだろう
木肌は、白くなり
されど、人の手により
何度も触られたことにより
一種の油染みた効能か
つるりとした蝋でも塗ったようなさわり心地に
木肌がなっている
二人が、連れ添って、歩く中
私は、後ろ手に占められている
速さんが、歩くとき足袋をはいていないことに対して
あれほど言ったのにとも思ったが
仕方がない
私は、あの襖の前に立つと
ゆっくりと板をおろした
男は、襖の前に立つ
私は、おそれると言うよりも
ルールを、破ってしまった罪悪感
そして、カミさんに何もないこと
祈りながら
離された速さんを
一瞬抱き
後ろに逃げてうずくまる
その様子を、見たのかは、どうか分からない
しかし、私が目を開けたのは、なにかの音がした
それは、早さんのちいさな「あ」と言う声だったのかも知れない
私は、静かに顔を上げると
そこには、襖を閉める奥様の姿
そして、その床には、倒れた二つの男から
ゆっくりとこちらに、あのときと同じ
黒い汁が流れている光景でした
奥様は、木の板を、元のように、戻すと
私たちの方へと近づき
速さんに向けて
目を合わせると
「こら、
いけませんよ、夜中に、うろついては」
と、そう言い
後は、部屋にいなさいと言われ
私は、早さんを連れて
戸締まりをし
彼女の部屋に戻った
奥様は、部屋で、どこかに電話をかけている様子である
翌朝、いつものように、それは、運び出され
以前と違うことは、葬式がなかった
事だけだろう
いや、その保管方法も少々雑であった気もする
速さんは、どうして、夜中に出歩いていたかと聞くと
悲しくなり、外に出ようとしていたところ誰かが玄関にいたので、開けてしまったからだという
その日は、布団を並べ二人で、睡眠をとり
翌日、いつもと変わらない、日常へと帰って行った
いや、少し変わったことはと言えば
その日、始めて、私は、着替えを、お持ちしたのであるが
その際、彼女の部屋の
始めてみた大浴場は、ありそうな風呂で
奥様が、その長い髪を、まるで、着物でも川で染料を流すように、洗っている姿を、昼の日中に目撃した事だろうか。
いつも老人が、外にでると石炭でも被ったように汚れていたのは、きっとこのためだったのであろうと思う