104 コントロール
引き抜かれた魔剣『フレスベルク』の魔圧は相当なものであった。そして特筆すべきは、それが大気へ放っている実際の魔力が感じる魔圧よりも少ないということ。
(コントロールを獲得してきたってわけか)
ウィズはそれを見て顎を引く。昨夜の魔力コントロールといえ、フィリアは悪性の魔粒子も使いこなせてきている。その根源は魔剣『フレスベルグ』に限ると思っていたが、ここまでくると彼女の体に蝕んだ負の魔粒子が――。
(……いや)
そこまで考えて、思考するのを辞めた。フィリアの状態など、悪ければ悪い方が良いに決まっている。
それはフィリアの性格を知っているからこそ、だ。ウィズが『ジャコブ・ブレイブ』並びに『ブレイブ家』を狙うとして、それは『セリドア聖騎士団』の選定式か、その後の結成式になる。その場には『剣聖御三家』が一堂に会するはずだ。
そこでウィズが『ブレイブ家』の首を獲ろうと動けば、フィリアは必ず阻止しようとしてくる。今の段階で『アーク家』を襲っている集団に『ブレイブ家』の影を匂わせているのだが、それが正常に進んでウィズの行動にちょっとの正当性ができようとも、彼女は必ず止めてくるだろう。
(オレたちの邪魔をするのなら……。例え、決死の秘密をオレに明かすような奴であろうと……オレは)
思考の外では『東棟』の一室でフィリアと見合っている状態であった。その状況下でウィズはギリッとフィリアを睨んだ。
(――いざとなれば殺せるはずだ。そしてこれは、予行練習だ)
そのままの勢いでウィズは手をかざす。その指先から朱色の魔法陣がベールをかいて現れ、『緋閃』の熱戦を繰り出した。
「!」
突然の先制攻撃にフィリアは瞬時に剣を使って防御する。その衝撃に剣が拮抗し、対抗するフィリアの足がズルズルと後ろに滑っていった。
「っ」
しかしそれも不意打ちに近い先制攻撃だったからの結果。フィリアと『フレスベルク』を前に小手調べの『緋閃』などは決定打になりえない。
数秒も経たずしてフィリアは『緋閃』を押し返した。『緋閃』は剣の中腹に弾き飛ばされる。大気を切る音と共に、その熱線は空が浮いた壁へと吸い込まれていった。
ウィズはそれを視界の端で捉えながら考察する。
(この壁……魔術を吸収するのか……?)
その思考が生んだコンマ一秒以下の隙間。ウィズが気づいたころにはすでにフィリアはウィズの懐に入り込んでいた。――魔剣『フレスベルク』を振り上げる直前なのが、一見して見て取れた。
「――」
ウィズは瞬時に『緋閃』で小手を作って迎え撃った。否、そうするしかできなかった。
一応『緋閃零式』は起動済みだ。ヴェルナス戦でも使用した『虚空跳躍』を使用すれば回避は可能だっただろう。
けれども、その手をフィリアに見せるのは危険だ。ヴェルナス相手ならば、彼も彼でそこそこできるが、フィリアほどではない。『虚空跳躍』を見せたところで原理は分からないはずだ。
しかしフィリアはそうはいかない。彼女には才能がある。アルトも同類だ。何か悟られる可能性がある。彼女らに対して、『虚空跳躍』といった高位技術を見せるのは危険だった。
だからこうして『緋閃』で作った小手で『フレスベルク』の振り上げを防御したのだ。ここで斬撃を相殺して距離を取れば――。
「は……?」
距離を、取れると思っていた。距離を取る準備時間を『緋閃』の小手で作れると思っていた。
だが、認識が完全に甘かった。
「っ……!」
全身に衝撃が巡った。それはフィリアの『フレスベルク』による斬撃の衝撃であった。
ウィズの視界にかろうじて映るのはバラバラになって空中に散る光の粒子。――砕かれた『緋閃』のカケラ。
「がぁっ……!」
『緋閃』の小手を破壊されたウィズは勢いよく吹っ飛び、壁へと叩きつけられた挙句に壁すらえぐってめり込んだ。壁の空はちぎれて体が青を破壊する。
パラパラと壁のガレキが落ちてくる中で、歪なへこみの中からウィズは部屋の中のフィリアを見た。
彼女は――再び『フレスベルク』を構えていた。
(ふざけんな……!)
どう見たってウィズに追撃するつもりであろう。ウィズは舌打ちをして『緋閃零式』を稼働させては両手に『緋閃遡光』の魔法術式を顕現させる。
(『遡光』はすでに見せている……! こいつで斬撃を押し返して――)
――ピキィ。
そう思考するのも束の間、ウィズが顕現させたばかりの『緋閃遡光』の魔法陣に亀裂がはしった。
ウィズは目を見開くもすでに遅い。ヒビの入った魔法陣はそこから魔力が抜け出て、魔力の循環が途切れる。魔法が消滅していく。
(こいつの能力は……)
ウィズが悟ろうとするが、すでにフィリアは地面を蹴っており、目の前まで迫っていた。そして姿勢を低くし、剣を振り上げようとせんとするその姿に、ウィズは思わず口元を緩める。
(これが……『フィリア・アーク』……)
彼女を前にして、ウィズが感じたには単純な尊敬であった。『怒りの森』で彼女の力を疑っていた頃が妙に懐かしい。
(これなら――)
――フィリアの一閃が放たれた。




