ああ、今帰った! 私がご主人様だ!!
ここは秋葉原。
週末になると、日頃の仕事で溜め込んだストレスを発散させるためにやってくる場所だ。
何故この街なのかと言うと、それは勿論大好きなメイド喫茶へ行くためだ。
メイドさんは良い。とにかく良いのだ。
初めて行った時は、本当に衝撃を受けたのを覚えている。
可愛いメイドさんが、『お帰りなさいませ、ご主人様』って言って出迎えてくれるんだぜ?
もうその時点で最高。異空間。花マル100点満点。
だから俺は、それ以降メイド喫茶へ通うようになっていた。
平日は仕事を頑張り、そして週末はメイド喫茶で癒しと幸せを貰う。
それが俺のライフサイクルになっていた。
まぁそりゃ? お金はかかるさ。
どれも割だ……じゃなくて、ちょっぴり安くはないかな? と思えるかもしれないメニュー。
でもな、それはメイドさんのサービス料も込みなのだ。
だから、実質タダ! ……とまでは言わないが、全然払える金額設定なのである。
それは客観的な話では無く、自分がそう思えるかどうかの主観的な話だ。
それこそ、ソシャゲのガチャだってそうだ。
あんなもの、興味ない人からしたら金をド……じゃなくて、きっと勿体ないと感じるだろう。
しかし、そのゲームを楽しんでいるユーザーからしてみれば、そうやって課金をする事で一日何時間も楽しんでいるそのゲームを優位に進め事が出来るのだ。
だから、その一日何時間も楽しむ事が出来る娯楽に対してお金を使っているだけで、別にその人にとってはプラスな場合だってある。
そういう意味で言えば、メイド喫茶も課金と……いや、それは違うな。申し訳ない。
まぁ結局何が言いたいのかというと、自分で稼いだ金をどう使おうと自分の自由だろって話だ。
そんなわけで、今日も俺はお馴染みのメイド喫茶へとやってきたのであった。
『めいどいんありす』
それが、俺の行きつけのメイド喫茶の名前だ。
何故ここかと言うと、色々なメイド喫茶をハシゴした結果ここが一番気に入ったからである。
それにもう、今ではここ以外のメイド喫茶には行けない事情もあるのだが、まぁそれは今はいいだろう。
そんなわけで、俺はメイド喫茶の扉を開ける。
「「お帰りなさいませ! ご主人様!」」
「ああ、今帰った! 私がご主人様だ!!」
ああ……いつ来ても最高な瞬間である。
ここでは、自分がご主人様なのである。
残業代込み手取り20万ちょっとの俺でも、ここではご主人様ったらご主人様なのである。
そうしてご主人様――いや、これはもう大ご主人様と言っても過言ではない俺は、いつもの席へと案内される。
そう、こここそが大ご主人様専用の席なのだ。
この席は良い。何故なら、フロアが一望できるからだ。
俺の他にもやってきている主人達の楽しんでいる姿を見ているだけで、俺も楽しい気持ちになれるのだ。
この空間は最高だ。本当に素晴らしい――。
そう今日も満足しながら、俺は席へとやってきた一人のメイドさんへ声をかける。
ちなみにやってきたのは、ここで一番人気のメイドさんだ。
黒髪のロングヘア―に、ぱっちりクリクリとした目、それからとにかくメイド服がお似合いな色白の可愛いらしい女の子。
俺みたいな大ご主人様にもなると、もう何も言わずともこうして一番人気がつけられるのである。
「ああ、君。このラブラブドリンクを一つ頼むよ」
「――ぷっ、あ、失礼しましたご主人様! ラブラブドリンクですね、すぐにお持ち致します!」
「あ、ああ、頼む」
ん? 今笑わなかったか?
まぁいい、ここでは俺が大ご主人様である事には変わらないからなっ! ガッハッハ!!
こうして届けられたドリンクを飲みながら、それからもその一番人気のメイドさんとゲームをしてチェキを撮り、いつものルーティーンで一頻り楽しんだ。
その間、メイドさんは何度か笑ったような気がするが、まぁそれだけ俺との時間を楽しんでくれたという事だろう。
全くもって、罪な男だな俺ってやつは! ガッハッハ!!
こうして十分楽しんだ俺は、そろそろ良い時間だし帰る事にした。
「「行ってらっしゃいませ、ご主人様」」
「ああ! また来る!!」
こうして俺は、颯爽と店を去った。
おかげ様で今週も溜め込んだストレスを、綺麗サッパリ発散する事が出来たのであった。
それから家に帰った俺は、今日のご主人様タイムに大満足しながら夜ご飯を作る事にした。
今日はメイド喫茶でオムライスを食べてきたから、夜はサッパリしているものが食べたくなった俺は冷やし中華を作る事にした。
そうして出来上がった冷やし中華をテーブルに並べていると、玄関の方から扉が開けられる音が聞こえてくる。
「ただいまー」
「ああ、おかえり。丁度晩御飯できたところだぞ」
「お腹空いてたから助かるぅ! 今日は何ー?」
「冷やし中華だ」
「マジ? やっほー! 私大好きー!」
丁度、一緒に同棲している彼女の彩佳が仕事を終えて帰ってきた。
まぁ大体帰ってくる時間は分かっていたから、それに合わせてご飯を作っていたのだが。
こうして俺は彩佳と一緒に、冷やし中華を食べる。
「にしても、今日のあれ何? 笑い堪えるの必死だったんだけど」
「ああ、今日の俺は大ご主人様だったんだよ」
「なにそれ! ほんっとう幸太郎くん謎過ぎて面白いよね!」
そう言って、お腹を抱えて笑い出す彩佳。
そんな彩佳に若干照れつつも、俺は言い訳をする。
「いや、毎回テーマがあるって言ってるだろ? メイド喫茶は俺にとって、癒しであり自由な空間なんだよ」
「いや、今日のあれは自由というか、もう完全にコントの領域だよ」
「コントじゃねーし!」
「はいはい、じゃあ肩をお揉み致しましょうか? 大ご主人様」
「ん? ああ、助かる」
「そうじゃないでしょ?」
「いや、ここは家だっての」
「いいから! やって!」
「ったく――ああ、私の肩を揉む事を許可しよう! さぁ! 全身全霊でこの肩を揉むがよい!」
「あははははは! は、はひぃ、ご主人様ぁ!」
大爆笑しながら、俺の肩を揉む彩佳。
そう、彼女の彩佳はあの『めいどいんありす』でメイドさんをしていて、それから現在一番人気を誇っている看板娘なのだ。
ただ、メイド喫茶の中では付き合っている事は秘密にしている。
メイド喫茶にいる間だけは、あくまでメイドとご主人様だというのが俺達の約束なのであった。
ちなみに付き合うようになったキッカケは、別に特別な何かがあったわけでもない。
俺がこんな風に毎回テーマを決めてメイド喫茶を楽しんでいると、当時接客してくれていた彩佳はそれが随分ツボに入ってしまったらしい。
それで街でたまたま俺を見かけた彩佳の方から俺に声をかけてきて、それから連絡先を交換して遊ぶようになりそのまま現在に至るという感じだ。
「ねぇ幸太郎くん。連絡先交換したあの日さ、私たまたま会ったって言ったじゃん」
「ああ、そうだな」
「あれ、実は嘘なんだよね。幸太郎くん大体週末の決まった時間に遊びに来てくれてたから、その時間に合わせてあの日は仕事休みにしてたんだ」
「え、そうだったのか……いや、マジで?」
「ふふ、だって私、もうあの頃から幸太郎くんに夢中だったんだもん!」
そう言って、肩を揉むのを止めた彩佳は、そのまま後ろからぎゅっと抱きついてくる。
もう付き合って一年ちょっと経つだろうか。
そんな今更語られた彩佳からの告白に、俺は柄にも無く照れてしまう――。
「……じゃあ、俺からも一つ」
「なぁに? 大ご主人様?」
「……俺もその、彩佳がいたからあそこに通ってたんだよ。今だって、そうだ」
そう、彩佳が思ってくれてたのと同じ――いや、多分俺の方が前からずっと彩佳に惚れてしまっていたのだ。
だから、あの頃は彩佳――あやぴよちゃんを笑わせようと、頑張ってアピールしてたのだ。
その結果、こうして今では一緒になれている事が俺は幸せで仕方ないのだ。
「そっか、じゃあやっぱりわたし達、両想いってやつだったんだね」
「ああ、そうだな」
すると彩佳は、後ろから俺の頬にそっとキスをしてきた。
「ふふ、大好きだよ、大ご主人様」
まぁそんなわけで、俺は家でも大好きなメイドさんと一緒に生活している、名実ともに大ご主人様なのであった。
という事で、タイトルから思い付きのまま書きました。
(書いている連載作品が、伸び悩んできたのでつい……)
良ければ評価やブックマーク頂けると、とても嬉しいです!
良ければ現在連載中の、
『隣の席の有栖川さんは、今日も人知れず一生懸命生きている』
もどうか宜しくお願いいたします!!(現在、日間ランキングに乗っております)
それから、
『クラスのアイドル美少女が、とにかく挙動不審なんです』
という作品も書籍化決定して現在書籍化作業を進めているところですので、こちらもよろしくお願いします!