表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/1

プロローグ

レン・アックスフォードの父親は魔神であった。そして母親はその魔神に助けられた人間だった。二人はこっそり恋に堕ちそれでも幸せだった。レンが十七の成人の儀を行った時の話だ、レンが酔いを冷ます為に自室へ戻っていた。

「ふぅ……」

思いの外楽しそうにしている両親を見ると嬉しくなり心が温かくこの時間が永遠ならどんなに素晴らしいんだろうと思った。勿論剣や魔術の稽古は厳しいが最近は父親と五回戦えば二勝は出来る様になっていた。もっともっと強くなってもっと人と魔族が一緒に暮らせる世界を作りたいと思っていた。父親の様に堅実に、母親の様に聡明(そうめい)に優しく在りたいと……。暫く部屋で休んで先程撮った家族写真を見る。

「そう言えば家族写真なんて撮ったの初めてだな、これは大事にしておこう」

とても暮らしは裕福とは遠かった。父親は魔神の中でも異端児(いたんじ)で王族なのだが家族とは結婚を期に縁を切っていたし、母親は迷い子だ。魔界では間違いなく父親は最強だった。幼い時から父親は厳しく龍谷でも「龍と対話し従わせることが出来る様になるまで帰るな」……と言われたのが七つの時だ因みに魔術を使い出したのは三つらしい、剣術は二つの時には訓練を始めていたと言っていた(聞いた話で直接の記憶は曖昧なのだが)考えてみればなんつー親だ……と思った。母親からは知識と言う知識を植え付けられた。

「そろそろ認めてくれないかな、、、」

「レーン」

「レン降りて来なさい」

リビングから両親が自分を呼ぶ穏やかな声がする。

「はい」

レンは階段を降りて声がしたリビングに行くがそこに両親の姿は無かった。家の外から気配がしたので玄関を開けると父親は剣を二本持ちそこへ立っていた。

「レンこれから成人に相応しいか俺に勝ったら成人と認めよう、負けたら修行し直せ」

父親は先刻の声色とは裏腹に穏やかな表情の侭だが声と言っている事だけはサラリと厳しい事を言っていた。そして剣を渡される。

「分かりました……父さん、」

「構えよ」



シン……と静寂だけがが周りを包み込む。レンの頬にはこめかみから汗が滲み時折汗が目に入り若干沁みて痛い。汗を振り払い剣を握り締める。

()くぞ」

「では!始め!」

母親が開戦の音頭を取る。その声が聞こえた瞬間父親の声が消える神速これは神になり行使できるが魔神の子であるレンは既に使えた為神速で同じ早さで移動し父親の速度を捉える。だが捉えて剣を振り下ろすといきなり胸ぐらを掴まれ森へ投げられる。


ベキッベキベキッ!


背中に何十本と木々が当たり、当たる度にベキベキと音を立てて轟音と共に倒れて行くもう数え切れない程木を()ぎ倒し岩に当たりズシン!と音を立てて止まる。

「カハッ!父さん本気(マジ)だな」

身体強化をしていたお陰で痛みは無いが立ち上がり、翠玉の様な()を見開いて魔眼を使う、奥からゆっくり大きな魔力の塊が近付いてくる。レンの魔眼は魔力や生命の温度や息遣い魔力の総量、そして魔力の持たない草木の生命(いのち)の量も見ることが出来る。


魔術・流水の(ながれ)


水の印を作り森を水浸しにする。緩やかな流れは激流に代わりゴォオー!と木々を薙ぎ倒し父親への元へまるで生きているかの様に向かう。

「ほう……これ程の水を手足の様に……」

そう父親が褒めたのは父親が浮いていて、炎の魔術で森を焼いてレンを(あぶ)り出そうとしていたが地上からうねる様な水の渦が登り……


キィン!


炎術と水術同士がぶつかり同時に剣もぶつかり合うレンの水は炎を飲み込みそのまま地上へ叩き付ける。

「クッ!」

父親は地上へと叩き付けられると身体強化をしていた筈だが余りの威力で口から血を吐き出す。背骨に(ひび)でも入ったのだろうか?だが魔力と時間は使うが回復出来ない訳ではない。

「悪いね、父さん俺はここが大好きなんだ」


魔術・雷神の一閃


するとカッと雷が一撃父親の心臓を(死なない程度に)穿(うが)つ。レンはそのまま死なない程度とはいえこれほど大きな術を出すことはそう無いためもう一度魔眼を使うと(外が夜の為)そこに父親は倒れておらず姿もない。

「!後ろか!!」


ギィン!


瞬神。一気に別の場所へと移動する余程気配を研ぎ澄まさなければ分からない

「ほう?」

「父さん、俺だって父さんが働きに行ってる日中修行を怠ったこと無いんだよ?」

「なら、殺す気で来るんだな」

ぶつかり合いが休まず続く。



どれ位時間が経っただろう?二人の剣の交わる音。魔術で穴だらけになり、森だった場所は地面が剥き出しになっている。

「ハーッーハーッーッ!」

「はぁ、はぁ」

二人共肩で息をしている。体力も限界に近い……。

「(まだもう少しは行けるか……?)」

レンはそう思いながら剣を握る手を見るカクカクと少し震えはあるもののまだ大丈夫そうだし魔術の発動も出来そうだ。

「レン……私は、、、いや来い」

「?行くよ」

レンは足元と自分の真上に円を書きその後天に剣を掲げると当たりがシン……っと静まり円を中心に足元と真上に陣が出現すると


ゴゴゴゴゴ……


大気が揺れ上下の陣からニュッと手が出てくる。


魔術・(ドラゴン)召喚術!レッド、ブルードラゴン!!


『久方ぶりにお目にかかりますレン様』

『ウラヌス!我が先に話そうと思ったことを言うでない!』

『ガイアは素行が粗い為、私からお話ししたまでよ』

「良く来てくれた、息災で何よりだ」

父親は目を丸くした。現在金眼のレッドドラゴンは炎龍の始祖と呼ばれていた、同じく銀眼のブルードラゴンは水龍の始祖と呼ばれ(おそ)れられていた。まともに戦えば父親もドラゴンもどちらも無傷では済まされないだろう。それを二体も使役している、それにこの二体は自分の知識の中でしか会った事の無いドラゴン……一撃位なら受けられるだろうか?

「ガイア、ウラヌス頼む父さんなんだ……でも勝たないとここに居られなくなる……殺さないで欲しい」

『『は!』』


地獄の炎咆哮&天上の氷河流星


ガイアと呼ばれた龍が口を開けると熱量で汗がじわりと吹き出る……真っ白な炎の塊が口で轟き閃光の様に父親へ向かい、次にウラヌスの作り出した水は一気に氷の塊に変わり先程の汗が皆氷の粒へ変化する。氷の塊はレンの家より大きな(ひょう)となり父親に降り注ぐ。

「くっ!」



後はどうなったか分からないがガイアの攻撃で父親の持っている剣が溶けて柄から弾かれ、恐らくそのまま……

『ではレン様またいつでもお喚び下さい』

『我も主にならいつ何時喚ばれても構いませぬ』

ヴンッと音を立てて消えて行った。その後レンは広野と化してしまった森の辺りを探す。すると東の空が白み係り夜明けが近いのを知らせ気温が少しずつ上がるのを教えてくれる。散らばっていた氷も少しずつ水へと姿を変えて行った。

「ゴポッ……ぐはっ、げほげほっ!」

遠くで水を吐きながら気絶から息を吹き返す音を強化していた聴力で父親の息遣いを聞き分ける。山の裾野のレンと戦った辺りから二キロメートルも離れたところまで飛ばされた様でレンも軋む体で立ち上がりよろよろと走る、すると今まで見ていた母親が隣に来て一緒に父親のところへ向かってくれた。

「レン……良く頑張ったわね、貴方は自慢の息子よ」

その目にはうっすらと涙が浮かんでいた。母親的には合意の上とはいえ自分の愛する夫と息子が死闘していたのだ様々な理由があるが辛かっただろうし、目を背けたくなるだろうし、止めたくもなるだろう。

「父さん!」

「アナタ!」

「あ、ぁあ……レン、ご……格だ……ミリ、アも良く……見届けて、くれた」

「うっ……うぅ……」

レンは心の底から嬉しかった。しかし父親は起き上がる事をしない母親も泣き崩れてしまう。

「父さん?母さん?ど、どうしたんだ?」

「ミ……リア……私はもうダメだ、説……めいして、やってくれ」

「分かりました、レン……私達はもうすぐ死にます」

「え?」

急な事に目を見開いて交互に二人を見てしまう。

理由(わけ)を言うと私が貴方を妊娠した時王城より、貴方が生まれたら王城で働かせると言うものでした……私達は勿論拒みました、そしたら代わりに貴方が成人の儀を終えたら私と父さんの寿命を国王に捧げると言う無茶なものでした……私達は貴方が成人してもこの山で暮らし、時折山を降りて好きな人を見つけて……いずれと思っていましたが……時が経つのは早いですね、貴方を悲しませない様に記憶に残さない様に写真は撮りませんでしたが成人の記録はどうしても地獄まで持って行きたくて撮ってしまいました、こんな愚かな判断しか出来なかった私たちを恨んでも、この世界を恨んではダメよ?」

ツーッと翡翠色の()から一筋涙が零れ落ちる。ずっと一緒にいて当たり前だと思っていたから、この時間は永久(とわ)に続くと思っていたから。

夜が終わり成人の儀も終わりを告げる。すると両親の体が砂へと変わって行く……。

「待って!まってまって!行かナいで!オれには、まだあなだ方が必よぅでず!!」

ボロボロと涙が止まらない。

「「レン……元気で……」」

そう言うと二人の体が砂に変わりパン!と弾け消える。レンは残りの魔力で死者蘇生の魔術を行使するが砂の侭二人は戻らなかった。

「ああぁあぁああー!!」



どれ程泣いただろう……涙が枯れる程泣いた。もう……何も感じない自分のせいで両親は死んだ。せめてもと残った砂を集め庭へ埋めて墓を作った。酷く愁傷(しゅうしょう)し疲弊して精神的にも身体的にもボロボロでいっそ両親の居る世界へ逝きたいと思った。こんな事誰も望んでいないがレンは下界の事は一切知らない。ここで死んでも魔物の餌になるだけだ。ならば死んでしまった両親より長生きするだけだ、自分はこの二人の寿命の代わりに生かされているから。

「仕方ない……朝飯でも食うか」

こんな状況でも愚かに腹が減るのだなと思う。朝まで温かい会話が木霊していた家の中が懐かしい。コップに水を汲みゴクゴクと飲み干す。すると


カッ!!


「!」

目が覚めると光の中にいた。でも特に眩しい訳ではない誰かの気配がしてそちらを振り向く。

『初めましてレン・アックスフォード』

「誰だアンタ?」

『そう構えないで下さい、危害を加えるつもりはありません』

「じゃ俺に何の用だ」

そこに居たのは一人の女性だった。髪の色は神々しい金髪そしてそれに映える薄浅葱(うすあさぎ)色をしていた。

『レン、貴方に頼みがあります、、、』

「人に名も名乗らないのか?」

『そうですね……申し訳ありません、私はいつもタイミングを逸してしまうのです、許して下さい……私はこの世界の総てを司る神でアリアと申します』

「アリア……うちの母さんと似た名前」

フム……と考えるレン、するとアリアは微笑み。

『貴方のお母さんの双子の姉です、なので顔は似ているかもしれませんね』

「……はあ、その神様が俺に何の用だ?」

『貴方の世界と違う世界に行って貰いたいのです』

「ん?」

全く話しに付いて行けない。「アナタノセカイトチガウセカイ?」全く見当がつかない。寧ろこの世界と違う世界がある事すら知らなかった。

『あちらの世界には魔物は居ません……しかし人々の心の中に宿る鬼が存在します、勿論黙視はできませんが魔眼で見やる事はできます、なのでその鬼が人の心を飲み込みきる前にその鬼と覇鬼(ばき)と言う元凶の親鬼を倒して欲しいのです』

「……」

『その為に必要なものは出来る限り用意しましょう』

どうせ、今居る世界に居ても居場所も待っている者も居ない。

「分かった、、、だがその世界では金を使うと言う概念があるのだろうか?飯や服とか?後は……従者を二体連れて行きたい」

『金銭面では私が何とかしましょう、従者とは?』

「俺の使役しているガイアとウラヌスを連れて行きたい、あいつ等は他に身内となりうる奴が居ない」

『では良いでしょう、今召喚出来ますか?あっ魔力が底を着きそうですね』

パチンとアリアが指を弾くとレンを光を包み魔力が回復する。

「分かった……え……っと」

『あ、この場では何でもイメージ出来ていれば喚ぶ事が出来ますよ?』

「成る程……」


(ガイア・ウラヌス来てくれ)


ヴヴンと現れる二体の龍。

『!』

『レン様ここはどこですか?』

ガイアはビックリしている様だウラヌスもキョロキョロしている。

「実は……」



『成る程……アリア様、でしたか?私達もレン様とご一緒出来るのでしょうか?』

『それは我も同意だ』

『勿論です、その代わり貴方様達には人間体で居て貰います、これから行く世界では龍は空想上の生き物ですから』

『!』

『何と我らが空想上の生き物とは……』

「(初めて知った……)」

『全く戻れないと言う訳ではないですからね?』

内心そう思っていたレンであった。そしてそれから少しの間二体は人になるイメージを固めて。


パァア……


『レン様どうでしょう?』

『主、どうだろう?』

ガイアは緋色の髪に金眼身長は二メートル程。ウラヌスは青藍(せいらん)色の髪に銀眼身長は一メートル九十程。身長が一メートル七十五程のレンにとっては羨ましい限りだった。

「良いんじゃないか?デカいがな……(苦笑)」

『『申し訳ありません』』

『では、レン様は日本と言う国の高校二年生と言う設定になります、ガイア様とウラヌス様はその高校の寮で同室にさせていただきます、そしてレン様の周囲を警戒して下さい鬼に私が仕向けた使いだと思われなければ良いのですが……』

「分かった」

『では、私と契約している猫と言う生き物を預けましょう……人にも化けれますし、猫の時は基本的に人には見えません、武器は異空間収納に用意しました』

「至れり尽くせりで悪いな」

『いえ、こちらの世界には戻って来れませんので……お願いしますね?』



その後光に包まれ次に目が覚めたのは知らない世界だった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ