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3分読み切り短編集

東の空を見つめて。

作者: 庵アルス

「ねぇ、起きなー」

「んんー?」

 まだまだ寝ていたい俺を、文字通り叩き起こしたのは、年子の姉だった。

 布団の上からとはいえ、腹を叩くのは甚だ粗暴としか言えない。

「初日の出! 見るぞ!」

「はいはーい⋯⋯」

 強引な姉に布団を引き剥がされ、渋々ベッドから抜け出す。ここで食い下がって寝ようものなら、ストレートが飛んでくるのだからおっかない。

 一家揃って初日の出を拝むというのが、我が家の決まりだった。

 といっても、どこへ出かけるでもなく、家の庭で東の方角を見るだけである。

 空は朱色(あけいろ)に染まっていた。日の出前というのに明るく、吐く息は真っ白に漂う。

 振り積もった雪が白く光っているためか、寝起きの目には眩しい。

 目をしばしばさせつつ、家族と共に夜明けの方角を見つめる。

「そろそろ登るー?」

「あとちょっとみたいだよ」

 おおらかな母親と、陽気な父親。

 姉が日の出の時刻を再度言った。

 父親が窓辺に寄って、どうにか壁掛け時計を確認しようとしているが、母親がスマートフォンの画面で瞬時に時刻を教える。

「パパの苦労は⋯⋯?」

「スマホが勝ったな」

 どんまい、と俺は父の肩を叩く。

「あっ」

 その途端、地平線が光った。

 さっと目を射抜く黄金の太陽。顔をしかめたのも一瞬、父が声を上げる。

「みんな祈るぞ!」

 初日の出を浴び、拝み、今年の抱負を念じるまでが、我が家の習慣。

 俺はなにも思いつかないものの、目を瞑り手を組んだ。

 黒い視界の中にも、太陽が輝いているのがわかる。

 そして、会いたいなぁ、と。

 誰にともわからないが、とにかく強く、会いたいと思った。

 ふっと、家に伝わる歌が、続いて頭に浮かぶ。

「天に届くその唄を 闇に在りてその唄を

 結ぶ祈りは()の為に

 想う指には銀の()

 望みは夢の事切れに 朽ちる花のように消える

 空裂く鷲の羽搏きに 星の光は奪われる

 狂いた神の思し召し

 交わす秘密は果てもなく

 天の遣いもこの嘆き

 気付くことなく 明日は来る」

 ふと目を開けると、俺はみんなの視線を一身に集めていた。

「⋯⋯(なぎ)、どうしたの」

 姉は引き気味に訊ねた。この歌を教えてくれた祖母の息子である父は、どこか誇らしげにしている。

「今日みたいな空なら、届くのかなって」

「なにが?」

「祈りと想いが」

「ふーん」

 私にはわかんないや、と姉はさっさと家の中に入っていく。

 今年だけは、東の空に。太陽が通り過ぎていった、あの方角に、惹かれる。

 会いたい。会えるものなら。

 たぶん、この歌は、誰かがそう願って歌ったものだろうから。

2021/01/01

新年おめでとうございます。


この歌をどこかに書き出したかったばかりに書いたもので、初日の出あまり関係ないです。

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