東の空を見つめて。
「ねぇ、起きなー」
「んんー?」
まだまだ寝ていたい俺を、文字通り叩き起こしたのは、年子の姉だった。
布団の上からとはいえ、腹を叩くのは甚だ粗暴としか言えない。
「初日の出! 見るぞ!」
「はいはーい⋯⋯」
強引な姉に布団を引き剥がされ、渋々ベッドから抜け出す。ここで食い下がって寝ようものなら、ストレートが飛んでくるのだからおっかない。
一家揃って初日の出を拝むというのが、我が家の決まりだった。
といっても、どこへ出かけるでもなく、家の庭で東の方角を見るだけである。
空は朱色に染まっていた。日の出前というのに明るく、吐く息は真っ白に漂う。
振り積もった雪が白く光っているためか、寝起きの目には眩しい。
目をしばしばさせつつ、家族と共に夜明けの方角を見つめる。
「そろそろ登るー?」
「あとちょっとみたいだよ」
おおらかな母親と、陽気な父親。
姉が日の出の時刻を再度言った。
父親が窓辺に寄って、どうにか壁掛け時計を確認しようとしているが、母親がスマートフォンの画面で瞬時に時刻を教える。
「パパの苦労は⋯⋯?」
「スマホが勝ったな」
どんまい、と俺は父の肩を叩く。
「あっ」
その途端、地平線が光った。
さっと目を射抜く黄金の太陽。顔をしかめたのも一瞬、父が声を上げる。
「みんな祈るぞ!」
初日の出を浴び、拝み、今年の抱負を念じるまでが、我が家の習慣。
俺はなにも思いつかないものの、目を瞑り手を組んだ。
黒い視界の中にも、太陽が輝いているのがわかる。
そして、会いたいなぁ、と。
誰にともわからないが、とにかく強く、会いたいと思った。
ふっと、家に伝わる歌が、続いて頭に浮かぶ。
「天に届くその唄を 闇に在りてその唄を
結ぶ祈りは彼の為に
想う指には銀の環を
望みは夢の事切れに 朽ちる花のように消える
空裂く鷲の羽搏きに 星の光は奪われる
狂いた神の思し召し
交わす秘密は果てもなく
天の遣いもこの嘆き
気付くことなく 明日は来る」
ふと目を開けると、俺はみんなの視線を一身に集めていた。
「⋯⋯凪、どうしたの」
姉は引き気味に訊ねた。この歌を教えてくれた祖母の息子である父は、どこか誇らしげにしている。
「今日みたいな空なら、届くのかなって」
「なにが?」
「祈りと想いが」
「ふーん」
私にはわかんないや、と姉はさっさと家の中に入っていく。
今年だけは、東の空に。太陽が通り過ぎていった、あの方角に、惹かれる。
会いたい。会えるものなら。
たぶん、この歌は、誰かがそう願って歌ったものだろうから。
2021/01/01
新年おめでとうございます。
この歌をどこかに書き出したかったばかりに書いたもので、初日の出あまり関係ないです。