♥ 隣町 2 / 爺碼竝駅 2 / 12月23日 2
「 選んだんじゃないよ。
ボクは何も知らずに電車に乗ってしまったんだ。
電車に乗るなら、役場に行って住人登録しないとね 」
「 住人登録?? 」
「 そうだよ。
此方側の住人になったら役場で住人登録をする事が決まってるんだ。
寧子ちゃんが彼方側の住人である事を捨てて、此方側の住人になるなら、シュシュを探す前に役場へ行かないとね 」
「 そう…なんだ……。
お父さんとお母さんに会えなくなる……。
家にも帰れなくなる……。
シュシュを諦めれば…家に帰れるし、家族と暮らせる…… 」
「 何で悩む必要があるの?
普通は改札口を出る選択をするもんでしょ 」
「 それは…そうなんだけど〜〜。
ほら、私さ今、怪奇を体験しちゃってるわけじゃない?
この機会を逃しちゃうと──って思うと、惜しいって言うか…… 」
「 何で惜しがるの?? 」
「 何でって、だって、私、今、凄い体験真っ最中でしょ!
私は謂わば、40年も “ 神隠し ” に遭ってた事になってるんだよ!
私、今までの行方不明者達と同じ体験をしちゃってるんだよね?
【 無人駅の増加と行方不明者との関係が繋がってる 】って事が証明されたんだよ!
“ 此方側の住人 ” とか “ 彼方側の住人 ” とか “ 役場 ” とか言われたら、この機会を逃せないでしょ!
住人が居るなら会ってみたいし! 」
「 …………あのね…寧子ちゃん、1度でも電車に乗っちゃったら、改札口を出ても彼方側には戻れなくなるんだよ。
分かってて言ってる?
両親と暮らせなくなるんだよ。
明日は楽しいクリスマスイブなんだよね?
彼方側に帰った方が良いんじゃないの? 」
「 翔君… 」
「 後悔する事になるよ。
彼方側に帰りたくても帰れない人は沢山居る。
寧子ちゃんもその1人になりたいの?
態々自分から此方側の住人になる道を選ぶ必要もないと思うけど? 」
翔君は懸命に私を彼方側に帰そうとしてくれてるみたい。
翔君の気持ちは嬉しい。
確かに翔君の言う通りだと思う。
翔君の言う通りにすべきなんだと思う。
翔君がきっと正しい。
だって、翔君自身も神隠しの体験者で経験者なんだもんね…。
帰りたくても帰れなくて辛い思いをしてるから、彼方側に帰れるチャンスのある私に、帰る事を進めてくれているんだ。
多分ね?
私にとっては1年振りの家族揃ってのクリスマスイブとクリスマスだけど、お父さんとお母さんにとっては40年振りになる娘とのクリスマスイブとクリスマス。
クリスマスの後にはお正月が待ってる。
………………お父さんとお母さんの事を思ったら、帰るべきなんだと思うし、帰らないといけないんだと思う。
80代になってしまった、お父さんとお母さんは残りの余生を40年振りに戻って来た娘と過ごしたいに決まってる。
私がまた行方不明になって帰って来なくなったら、きっと悲しむと思う。
1人娘…だもんね。
だけど…この爺碼竝駅のホームに入ってから、もう直ぐ1時間が経とうとしてる。
此処での4時間が40年なら、もう彼方側の時間はで10年過ぎる事になるんじゃないの?
今、帰れば90代になったお父さんとお母さんと家で暮らす事が出来る。
介護をして、看取って、御葬式をして、供養をして、先祖代《だい》々の叭瀬芭家の家墓を守らないといけない。
だって、私が跡取りなんだもん。
私が帰らないと、叭瀬芭家は絶えてしまうし、先祖代々の叭瀬芭家の家墓は無縁墓になって、粗末になっちゃう。
…………うん、やっぱり、帰らなくちゃ。
叭瀬芭寧子は、叭瀬芭家を絶えさせない為に帰って、跡取りをゲットして、先祖代々から受け継いで来た叭瀬芭家の土地と財産を守っていかないといけないんだもん!!
迷う必要なんてなかったね!
私は、私が取るべき正しい行動を──、選択をするだけだよ!!
「 ──翔君、有り難う!
私、決めたよ! 」
「 随分長く考えてたね…。
答えなんて考える以前に出てた気もするけど… 」
「 えへへ…(////)
女子高生はね、どんな事に対しても彼是と考えちゃうもんなの! 」
「 ふぅん?
決めれたんなら良いんじゃないの? 」
「 うん(////)」
「 ──あっ、電車が来る。
じゃあね、寧子ちゃん。
もう会う事もないだろうけど、元気で。
呉々も無人駅には入らないように気を付けなよ! 」
「 うん、有り難う!
気を付けるよ 」
私は心配してくれた翔君とお別れの言葉を交わした。
バイバイ、翔君。
無人駅で出逢った此方側の親切な住人さん────。