♥ 隣町 2 / 爺碼竝駅 2 / 8月24日 2
──*──*──*── 爺碼竝駅の前
爺碼竝駅の改札口を潜って外に出た私は、スマホを見てみた。
──電話が入ってる!!
スマホが使える!!
私はスマホから自宅の電話番号を選択して、自宅に電話を掛けてみた。
今、夜中だよ。
寝てるのに態々起きて電話に出るわけないじゃん。
何度目かのコールで電話が繋がった。
「 …………もしもし……どちらさま? 」
随分と声が窶れてるように聞こえるけど……、お母さんだよねぇ?
風邪でも引いたのかな?
「 ──もしもし、お母さん…だよね?
風邪でも引いたの? 」
「 …………誰なの?? 」
「 誰って……。
もう!
娘の声を忘れるなんて、お母さん、重症なんじゃない?
寧子ですけど! 」
「 寧子?? 」
「 そうですーー。
叭瀬芭寧子ですーー。
叭瀬芭喜好と叭瀬芭寿子の娘の寧子ですーー。
もう!
今朝、会ってるじゃん 」
「 寧子…………寧子なのね?!
本当に寧子なのね?!
本物の寧子なのね!!
間違いないのね! 」
「 ……そう言ってるじゃん…。
ねぇ、本当に大丈夫なの? 」
「 ──寧子っ!!
お前っ、今、何処に居るんだ!! 」
「 お父さん?!
何で怒鳴るの??
声が大きいよ… 」
「 いいから答えなさい!!
今、何処に居るんだ! 」
「 何処って……。
隣町の爺碼竝駅の前に居るけど?
出掛ける前に、お母さんに教えたよ?
明日の朝には帰るから、そんなに怒らないでよ 」
「 隣町の爺碼竝駅だな!
今から迎えに行くから、何処にも行かずに其処で待ってなさい!! 」
「 えぇっ?!
来なくていいよ。
明日、始発の電車に乗って帰るんだから〜〜 」
「 ──駄目よ!
そんなの駄目!!
迎えに行くから、待ってなさい!
車に乗ったら直ぐに電話を掛け直すから、待ってなさい! 」
「 お母さん??
…………何か良く分からないけど分かったぁ…。
爺碼竝駅の前で待ってる 」
「 じゃあ、一旦切るわね?
電話が鳴ったら直ぐに出るのよ? 」
「 は〜い 」
私が返事をすると、電話が切れてツーツーツーっ音が鳴っている。
来ちゃうんだ……。
無人駅の検証がオジャンになっちゃうなぁ……。
あっ、そうだ。
帰る事になった事を教えとかないと!
改札口に近付いた私は、ホームに居るだろう少年に向かって、「 私、帰る事になったからねー。バイバーーイ! 」って叫んでみた。
まだ寝てないよね?
返事がしないから寝ちゃったかも?
「 ねぇ〜〜〜?
もう、寝ちゃったぁ〜〜?? 」
「 ──あのさぁ、大声出さなくても聞こえてるから!
近所迷惑だと思わないわけ? 」
声がしたと思ったら、少年が改札口の前に来てくれた。
改札口越しに少年と私は向かい合っている。
「 ごめんねぇ…… 」
「 ──で?
ちゃんと連絡は取れたの? 」
「 うん。
お父さんとお母さんが迎えに来てくれる事になっちゃったの 」
「 良かったじゃん 」
「 良くないよ!
私の無人駅検証が出来なくなっちゃうんだからね! 」
「 しなくていいじゃんか。
無人駅と行方不明者が関係してるなんてファンタジーな事、起きるわけが無いんだからさ 」
「 ファンタジーじゃなくて、怪奇だと思うんだけど? 」
「 あのね、お姉さん。
怪奇もファンタジーなんだよ。
ファンタジーの中に “ 怪奇 ” っていうジャンルがあるの 」
「 そんな事な── 」
言い返そうとした時、私のスマホが鳴った。
画面を見たら、お母さんからだった。
「 早く出てあげたら? 」
「 う、うん…。
ねぇ、君の名前、聞いてない!
私は叭瀬芭寧子だよ!
君は? 」
「 もう会えないかも知れないのに名前を知りたいの? 」
「 教えてくれないの? 」
「 ──翔。
夛田今翔。
早く出てあげなよ、寧子ちゃん 」
そう私に言った翔君は改札口から離れて行った。
遠ざかる翔君を見送りながら、私はお母さんから掛かって来た電話に出た。