虎狸電車ぶる~す♪
化粧と香水の匂いが激しい全長0.02mmに満たないサソリ型生命体オダマリ♪。
彼女らは大型生命体の内部に寄生して宿主を食いつくす!
「我々の星は寿命が尽きた。新たな母星を探す!」
偉大なる指導者サソリザ=ノガールの作戦計画に基づき、ブルース=ヤナガーセ師団長も麾下の部隊を率いて進撃していた!
副官コロッケ=モノマーネ「ヤナガーセ師団長! 我々の宇宙船はサソリザ=ノガール様の指示する位置に降下できません!」
ヤナガーセ「しかたないわ、そこの大きい生命体がいない地点へ不時着しなさ~ぃ!」
虎狸電気軌道G51型。
ブレーキも古く、減速時に若干石綿臭い。
発進時のモーターの動きで車両自体も震えた。
ちなみに、好景気の時に不動産開発しすぎてこの名前で呼ばれる。
――この会社の本名はもちろん知らない。
ただ、小林クンが好きな電車だった、ただそれだけ。
ある時、私は中学時代の友人である小林クンを誘った。
「――でも行くでしょ?」
そう念を押すと、小林クンは仕方なさそうに 「ああ」 と答えた。
小林クンのこういうとこ、好き。
虎狸電車と一緒。
カッコ良くも愛想良くもないけど、絶対ちゃんと応えてくれる。
ずるく、スルッと離れていったりしない。
(それがわかってて興味ないことに誘うあたしは、かなり狡いのかもしれないけど。)
当日、あたしは駅前でウキウキと小林クンを待った。
虎狸電車での外出には似合わない、オシャレめなワンピと新しいスニーカーは、ちょっとした女心というやつだ。
わかってくれるかな、とちょっと期待したけど、遅れてやってきた小林クンは、やっぱり 「そのカッコ、TPOに合ってねえんじゃ?」 とツッコミ入れてきただけだった。
……そんなこと、わかってたけどね。
気を取り直して改札を通り、ホームへ向かう。
小林クンとあたしの間は、いつも30cmくらい開いてる…… 友達としては、適度な距離。
(ねえ、ちょっとさ、手つないでみたり、しない?)
冗談ぽく、ふざけた感じで、本気ととられないように…… 昨晩寝ながら練習した台詞を、あたしは飲み込む。
どんなに練習したって……言えない。
本当は、小林クンがあたしのことどう思ってるかも、聞きたいけど、聞けない。
30cmの距離は、それなりに心地好くて、壊すのに勇気がいる。
副官コロッケ「師団長! 我が第3宇宙船団不時着成功です!」
プチプチプチ☆彡
白線より内側に不時着してしまったためにオダマリ♪達は未曾有の大損害を受けた。
昔懐かしい感じのメロディと共に、電車がホームにガタゴトと割り込んでくる。
あたしたちはとりとめのない話をしながら電車に乗り込んだ。
電車が古いトンネルを出るまでにしたのは、昨日の講義の話。でも、きっと、来週には忘れてる。
電車が、目的駅についた。
ホームに降りて、足がずいぶん疲れていることに、ふと気づいた。
そういえば、おろしたてのスニーカー、形は可愛いけどちょっとキツかったっけ…… 大丈夫と思っていたけど、靴擦れしたのか、足が痛い。
「いらっしゃい」
小林クンと行ったのはガードしたのお寿司屋さん。
暖簾のかかった狭い間口、実は前にも行ったことがあるお店。
奥の小さな座敷に通してもらった。
副官コロッケ「くんくん♪ 師団長! いい匂いがするであります」
ヤナガーセ「よぉ~しぃ、この長い体の魚や其処の白い汁に潜り込むわよぉ~」
「うっわー、煮穴子、柔らかいぃ♡ おっぱいみたい♡」
「オッサンかお前は」
副官コロッケ「リポ・デーショウニヨウ小隊生体反応消失」
ヤナガーセ「!?」
「言いたいけど節度を重んじて言わない小林クンの代わりに言ってあげてるんだって♡」
本当は、小林クンに楽しんでほしいけど、何言ったらいいか分からなくなるからこうなっちゃうんだよね。
「ああっ、この焼きアナゴの香ばしい香りと、とろける舌触り…… こんなの初体験♡」
「ウソつけ」
ウソじゃないよー。
小林クンとアナゴ食べるの、初めてだもんね!
それだけでも、あたしにはずっと覚えてられる価値があると思えるけど……
きっと、小林クンにとってはそうでもないんだろうな。
「んまいぃぃぃっ! この、海栗とイカがまぐわって、とろとろの山芋がお口を満たすこの感じ……!」
副官コロッケ「第六特殊工作パブロン支隊音信途絶!」
ヤナガーセ「ぇ!?」
「オヤジか。いちいちエロくさい解釈つけんじゃねぇ」
女と飯食ってる気がしねー、とブツブツ小林クンが言う。
「えー。じゃあ、どんな話がいいんですかぁ?ねーねー」
「いくらでもあるだろーが! 政治・経済の話とかよ!」
あたしは、あたしたちがいくら政治や経済の話したところで、世の中が良くなるワケない、と思って……あきらめて、いるけど、小林クンはまだ、夢を見れているんだな。
一緒に椀物を食べている女の子が実は、自分と手をつなぎたがっていた、なんてことは、知りもしないんだろうな。
それでもいいんだ、と思う。
だって、今日小林クンとこうして楽しんでいるのは、あたしだけのためのものだから。
「うわぁぁっ♡ この白濁した濃厚なお汁、いくらでも飲めちゃいそう♡ あぁん、もっとぉ♡」
副官コロッケ「カイ・ゲンデース沿岸設営隊全滅!」「ボラ・ギノール白濁水突入作戦中隊壊滅!」
ヤナガーセ「貴重な資材がぁぁぁ!」
「……やめろよ、恥ずかしい……」
きっと、小林クンと2人で食べた、この白みその味も、一生忘れない……。
3本目の瓶ビールをポンと開けた。
「あれ、お前、野球とか興味あったっけ」 小林クンが不思議そうな顔をする。
副官コロッケ「あの黄色い泡の出る水溶液に移動したノー・シン中隊は変な言葉を発しております」
ヤナガーセ「神経毒のお池? チクショウ姑息な手を!」
そうだね。昔、時間が無限にあると思ってた時なら、「興味ない」 と言ったかもしれないよね。
「嫌いじゃないよ」 と笑う。わざわざ覚えた選手の名前を口にする。
「城戸とか、すごいじゃん。アメリカからオファーきたのに断っちゃうなんて、カッコいい」
「俺は、逆にアメリカ行ってみて欲しかったけどなー。鍛えられて、一回り大きくなって帰ってこい! みたいな」
ああ、今、小林クンはちょっと、楽しそうだ、と、あたしは思った。
一緒に育ったはずなのに、いつの間にか話が合わなくなって、面倒臭そうにされて……
どうしたらいいか分からなくて、男の子が好きそうなエロネタに走ってみたりしたけど。
好きなことに1つ、興味を持ってあげるだけでも、良かったんだ。
こんな簡単なことにさえ、時間が無くなってからやっと気づく。
ヤナガーセ「今のうちに奴らの表皮をめくり体内に総員潜り込むわよぉ!」
副官コロッケ「了解!!」
……店を出て10分後。あたしは、本格的に足をひきずっていた。
「……まだ、つかないのかな……」
「意外と遠いな」
急行が止まる隣の駅まで歩くことにしたが、小林クンがスマートフォンで場所を確認して、 「あと10分程」 と教えてくれた時には、もう足がすごく痛くなってしまっていた。
「大丈夫か……?」
「全然平気!」
「いや、それ無理だろ」 小林クンがひょい、と背中を向けてくる。
「おぶってやるよ」
「ええー!?」
無理無理無理だよ!
手を繋ぐのさえ、どうしても言い出せなかったのに!
小林クンがイライラとする、気配。
「早くしないと置いてくぞ」
「はい……スミマセン」
あたしはおずおずと、彼の背中に乗った。
思ったより、広い背中。
温かい。なんだか、優しい……。
そう、もう、一生、死ぬまで忘れない。
これからは、この思い出があるだけで、どんなつらいことも耐えられる。
……たぶん小林クンは、すぐ忘れるんだろうけど。
翌朝、あたしはとても激しい腹痛に襲われた。
『なんでだろう?』
……翌々日、虎狸電車に乗って旅立った。
今度は、1人で。
小林クンには最後まで、どうしても言えなかったな。
昨日限りで大学をやめちゃうことも、あたしが遠くに行くことも。
――― 小林クンへの、気持ちも。
そして、今。
G51の運転台に、あたしは立っている。
あれからすぐ、最近生れたばかりの、この南の国へやってきたのだ。
小学校のころ、周りに語った『世界に貢献したい』
実際にやってみると、凄まじいまでの日差しと、痛いまでの虫刺され。
『……ダサい』
仕事が終わっても、美味しいご飯とキーンと冷えたお酒はここにはない。
『……帰りたい』
でも痛々しいまでの真新しいエネルギーを浴びることはできた。
本当はもっと『楽がしたい』って気持ちが今日のあたしにもあるけれど。
―――線路沿いには、貧しい子供たちが今日も元気に遊ぶ。
車掌の合図を待ち、右手でハンドルを握る。
左手でブレーキレバー解除。
「電圧、異常ナシ!」
「前方ヨシ」
「発車っ!」
そうそう、小林クンから連絡があった。
今度の連休に此方にくるみたい。
―――私の目の前には真っすぐの軌道。
真っ黒に日焼けした腕でG51を加速させた。
あの頃の弱い私は、きっともういない。
ブレーキも古く、減速時に若干石綿臭い。
発進時のモーターの動きで車両自体も震えた。
……ちなみに、オダマリ♪達はこの星にて絶滅していた。
免疫と言われる超兵器の前に敗れ去ったのだ。
しかし、我々は未知なる外敵に対し、うがい手洗いを忘れてはならないのだ!!
【製作経緯】
砂礫零様に、『コラボした~い♪』とお願いして有難く受諾頂いた本件。
まずは若輩の私とコラボして頂いた砂礫零様にこの場を借りて厚く御礼申し上げます。
本文は、砂礫様より叩き台なるものを頂いて、それを私がごそごそいじくった文を共有、さらにそれを題材にて各々本編が書かれております。
その頂いた叩き台がレベルが高くて、自分がいじると次々に改悪になりました (;'∀')
まぁ……やってみないと『自分に腕がない』とかわかりませんね、しみじみ。
で、人から恋愛小説を借りて読んだりと、勉強しながら取り組みました。
そのため自作に比べて恐ろしく時間がかかり、そのぶん凄く訓練になりました。
自分一人で書いていると見えない世界ってきっとありますよね? いつも自分だけで作るとどうしても独りよがりな世界になっていくみたいな (;'∀')
本編はいくつもの試行錯誤の中から、ルビにて主人公の気持ちの変化を表して、外野でサソリたちを遊ばせることに落ち着きました。オチが説教臭いですが、それも私のつたなさということで(苦笑)
これからもいろいろな方の間で、様々なコラボが生み出されたらいいなと思いつつ……。
2020/05/17 黒鯛