切って落とされた戦いの火蓋
実質一日二話投稿は死にます
「…ちょっと失礼」
そこに立っていたのは黄眼の青年。黒眼の男は椅子ごと彼の方へ振り向く。
「何だ」
「また耳寄りの情報が入ったよ。ソルジャー日本部隊の先鋭が一人増えた。名は『鬼重院楓丸』…歳は10代らしいね」
黄眼は紙を一枚渡し、黒眼はそれを受け取って椅子に深くもたれ掛かり足を組みなおした。
「若いな…それほどの能力を持っている戦士なんだろうな…?」
「いや、彼に特殊な能力はない。木の枝を武器のように扱う、言わば武器術の使い手と言ったところかな」
「木の枝だと…?ほう、ソルジャーの上層部も面白い人材を引っ張り上げたものだな。この俺でも笑ってしまいそうになるぞ」
「…リーダーも、笑うんだね」
「当たり前だ。この俺にも感情くらいある、無かったら今頃お前たちとも出会っていなかっただろうに」
「それもそうだね。じゃあ僕はこの辺で失礼するよ」
「ああ、報告感謝する」
黄眼の青年が部屋を出る。数分も経たないうちに、入れ替わるように次なる者が部屋をノックした。
「入れ」
「リーダー、失礼します。お茶を淹れて参りました」
「あぁ、お前たちか」
今度は二人の片眼ずつの双子が入ってきた。片方は赤眼、もう片方は片青眼の彼女たちはいつも紅茶を飲み終わるまで黙って待ってくれている。分かりやすくいえば彼女たちはダークアライアンスの一員であり召使いでもあるのだ。
「…本当に、戦争が始まるのですね」
片青眼の方がぽつりと言った。黒眼は「そうだな」と飲みかけのティーカップをソーサーの上に置く。
「我々はいつでも準備は出来ておりますわ。先鋒はどなたに致しますか、リーダー」
「既にもう決めてある。ダークアライアンスの存在はソルジャーにもある程度知らされているようだが、まだその中身については解析が追いついていないと見ている。だから今回はあの『軍神』とやらを戦場に放つとしよう」
「『軍神』…あぁ、あのお方のことでしょうか。そもそもあのお方のようなレベルの悪魔が野に放たれては、逆に先鋭たちに嗅ぎつけられて返り討ちにされる可能性もありますよ」
「アイツを猛獣と一緒にするな…それに、俺は奴を信頼している。先鋭が数人集まったところで、奴の絶対的な能力には抗えないはずだ。それに、連れを一人連れていく。奴もまぁなかなかやる。あの二人が揃えば、まず勝てる奴はいないだろう」
黒眼はついに紅茶を飲み干し、ティーカップを片赤眼の方に渡した。
「じきお前たちも戦うことになるだろう。準備を怠るなよ」
「分かりました、リーダー。あなたの仰せのままに」
「それでは、私たちはこれで」
役目を終えた召使いたちは部屋を出た。そして黒眼は席を戻し自分の掌を見、そして握り締めた。
「さあ、戦場を掻き回してこい…毒使いの殺戮兵器、『スクラーヴ・ハーバー』…そして、古より蘇りし最強の騎士団長、『ベアル・レド』…!人間を、世界を、絶望の色に染め上げてこい…そして我らがダークアライアンスの宿願を叶えるため、一人でも多くの人間の首を狩ってこい…!」
一行は電車の中にいた。
帰りの車内は比較的空いていて、全員座ることが出来たようだ。
「そういや幻夢。ソルジャーに階級があるのはさっき教えてもらったけどよ、悪魔にもそういうランク付けみたいなのはあんのか?」
「ある。悪魔のランク付けは割と単純で、DからSまでの評価だ。俺たちソルジャーのランクアップに必要な悪魔討伐点数ってのは、その評価が高ければ高いほど上がる。つまりはよりレベルの高い悪魔を倒すほど、一回の点数の上がりが変わってくるということだ」
「ほー、ってことはあの先鋭たちもレベル高い悪魔倒して昇進したってわけか」
「そういうことになる…が、ランク一つ上がっただけでその悪魔の危険度は格段に上がる。ちなみに昨日お前が苦戦していたあの悪魔でもDランクぐらいだったぞ」
「え…マジか。じゃあ俺もっと頑張んねえとな…」
幻夢は「そうだな」と答えて、それ以降はもう喋らなかった。ラベンダー、碧、瞹の三人の女子たちは何やらお菓子のようなものを食べている。怜虹がそこに突っかかっできた。
「お前ら何食ってんだ?…スイーツか」
「駅近くの店にあってね。買ってきちゃった」
「これ美味しい…!ねぇ碧さん半分こしよ…!!」
「おけおけー、瞹ちゃんとシェアハピ〜」
「お前たち…楽しそうだな」
幻夢がふっと嬉しそうに笑う。瞹は「幻夢さんも食べる?」と差し出したが彼は断った。
「いや、俺はいい。甘い物が苦手だからな」
「そうなんだー、甘いもの食べれない人って人生の半分ぐらい損してそうだけど」
「碧、その意味わからん屁理屈はそのくらいにしておけ…」
幻夢がため息混じりに頭を抱えた。彼がたまに見せる和んでいるような表情を見て、怜虹やラベンダーはそれを十分に面白がっていた。
一方その頃。
ある二人の男が線路の上に立っていた。緑色のしばり髪が靡く軍服姿の男と、全身が痩せこけたゾンビのような仮面の少年。不思議と、彼らには鳥や虫など生物が誰も近寄らない。そう、彼らは悪魔だった。それも、そこら辺の悪魔たちとは訳が違う。
「数百年もの間眠っていたが文明がここまで進んでいるとは…!俺は少し感動したぞ。なあスクラーヴよ、俺たちが踏みしめている、この鉄骨が組み合わさった床は何だ?」
「これは線路って言う…この上を、電車っていう乗り物が通るんだよ…」
「ほう、センロ!人間も良くこのようなものを考えつくなと珍しくこの俺を感激させてくれるな…!」
何気なく線路を踏んでいる二人。そこに一人、男が近づいてきた。
「おいお前たち!そこが線路の上だって分かんねぇのか!そこは電車が通るんだぞ、轢かれてもいいのかこの野郎!!」
男の言うことを二人は聞こうとしない。もはや眼中にすらないようだが。
「何だあいつは、我らは高等生物だぞ。スクラーヴ、あの無礼者に身分の違いというものを分からせてやれ」
「言われなくてもやるよ…アイツ、うぜぇし…」
スクラーヴが大きく息を吐くと、仮面の奥から何やら紫色の黒煙が出始めた。するとその煙は空気中のあるポイントで滞留し、鋭い針の形へと形を変えていく。
「な、何だあれは…」
「死ねよ、ゴミ虫屑野郎」
ピシュン!!風切り音が鳴った。
煙から出た針はとてつもない勢いで男の眉間を撃ち抜き、男はそのまま、声を出す間もなく倒れていった。
「流石人体殺戮兵器と呼ばれた男スクラーヴ。殺しに何の躊躇いもない、俺が相棒と認めただけのものはある」
「もう既に、人間の体は捨てたけどね…それに、僕はアンタに命を売った男だから。アンタの命令なら殺しだろうが何だろうが黙ってやるよ」
「フッ…そうか」
「あ、ベアル。電車が来るよ…どうする?」
「言うまでもないだろう。やることは一つだ、下がっていろスクラーヴ」
ベアルが前に出る。彼の腕から大量の黒靄が出たと思えば、それは長く変形して大きな剣の形になった。
「居合…に近いものか。否、それは俺も心得がないがまぁいい。とりあえずこの人間が沢山載っていそうなこの電車とやらを切り潰せばいいんだな」
黒光りする緑色の剣を後ろに振りかぶると、その剣は力を溜めれば溜めるほど大きくなっていった。
電車が彼らの姿に気づかないまま突っ込んでいく。ベアルはそのスピードを数秒の間に完全に把握し、電車の方へ剣を持って走っていった。
「人間よ、ソルジャーよ…打ち震えよ!これが我の神剣の力だッッッ!!!その凄まじさ、死をもって思い知るが良い!!!」
ベアルは大剣を電車に向けてぶった斬った。その衝撃波は奥まで波状に届き、一振りで超広範囲の攻撃を食らわせた。
ドガァァァァァン!!!!!
「何だ!?」
「きゃあっっっっ!!!」
車内が爆音とともに物凄い勢いで揺れる。重力が狂ったかと思うほどの揺れで、窓ガラスは奥側から連続で割れまくる。
皆は座っていて幸い無事だったが、この激しい揺れの中ではまともでいられなかった。幻夢は咄嗟に瞹を抱きかかえ、ガラスが刺さらないように守りの体制に入る。
「ここで襲撃かよッ…!!しかも一発でこの威力…ガチのただもんじゃねえな!!」
「瞹、大丈夫か!?」
「いやああああああぁぁぁ!!!!!でんしゃが!!!!!でんしゃがぁぁぁ!!!!!」
「このままだとまずいな…ラベンダー、防護壁を頼む!」
「分かってる…!今出すから!」
いきなりの緊急事態にその場は混乱に混乱を極めた状態に陥る。瞹は幻夢の胸元で泣きじゃくっていて、碧はさっきの揺れでまた意識を失っていた。その中でも幻夢は冷静に最善の指示をとっていた。
「これから私の能力で泡のバリアを作るから、ちょっと待ってて!」
ラベンダーが早口で魔法の詠唱を始めた。彼女の手元が紫色に光り始める。電車の不安定な激しい揺れの中だったが、詠唱を続ける度にその泡は次第に大きくなっていった。
「まだかよラベンダー、絶対こっからでけぇの来るって、分かってんのか!?」
「あぁもう怜虹は黙っててよ!今私も急いでるんだから!」
泡が人五人分くらい入れる大きさになった時、ラベンダーは一度詠唱を止めて仲間たちに呼びかけた。
「みんな、私の近くに集まって!…我に穏やかさと激しさ、そして何ものにも無限の形状で受け流す、水の如き自然の魔法を与えし汝よ。その水を泡へと形取り、周りにあるもの全てを守護せし金剛の如き泡の障壁を生み出し給え!よし、詠唱終わった!」
怜虹は碧を、幻夢は瞹を抱えてラベンダーの元へと集まった。
「…行くよ!『アイ解放』、『無限泡沫の揺蕩い』!!!」
「ほう…良かったなスクラーヴ。この電車が当たりだったらしいぞ」
「ふーん…?あ、あれね、あの紫色の…」
彼らが目を凝らして電車の奥を見てみると、何やら大きな泡がふよふよ空を浮遊していた。そして車外の安全なところに行くとその泡は割れ、中から数人の人間たちが出てきた。
「奴らが我らの持つ力であるヘイトに相反する力『ホープ』を持つソルジャー、つまり天使か…」
「ぐっ、…あいつら、か!?電車をぶった斬った野郎は…!?」
「間違いない、あの黒光りする大剣…ヘイトのエネルギーの凝縮体…悪魔だ!」
ベアルは剣を天使たちの方へ向けた。
「ここで、今この瞬間から、お前たち『天使』に宣戦を布告するとしよう!そしてお前たちが一人前のソルジャーとして成長する前に、その首をもいで、目をほじくって、腸を引きずり出してやろう!輝かしい未来も見えないまま、深淵よりも深い絶望を味わわせてやる!それが嫌ならその光で意地でもこの俺を人間に戻して見せよ!」
「クソ…言われなくても分かってんだよ…、行くぞ幻夢!ラベンダー!」
「ああ」
「寸分の時間も…休ませちゃくれないってことね…!!」
怜虹の拳が橙色に光り出す。それに応えるように幻夢とラベンダーの手元も光り始め、彼女は碧の治療に向かい、幻夢と怜虹はそれぞれの武器を持ってベアルたちの方へ駆け込んで行く。
「さあ…この俺を楽しませてみろ…!!喜ばせろ、踊れ!踊り狂え!戦いを忘れた下等生物がァァァァ!!!!!」
読んでいただきありがとうございました
次回から本格的に天使vs悪魔(幻夢、怜虹、ラベンダーetc…対 ベアル、スクラーヴ)が始まります
なれないアクションですがなんとか頑張るのでよろしくお願いします 乞うご期待