鬼重院楓丸・ソルジャー先鋭就任式
今回ちょっと長めですし結構グダってますのでまぁさらさら読んで下さると幸いです
「昨日未明、悪魔が都内で暴れ回る事件が発生しており…事態は沈静化したものの50代男性が全身を強く打つ重症を……」
そんなニュース番組が流れる朝。忙しなく、各々出掛ける準備をしていた。幻夢は外行きの服に着替え、怜虹はワックスで髪型をセットし、ラベンダーは朝食の目玉焼きを作っている。
すると、自室から碧がお腹を掻きながら出てきた。
「おっはー…って、今日みんな早くない?」
「碧こそ珍しいな、こんな時間に起きるなんて」
「早いって、今日は招集があるって前から言ってたでしょ。ほらお湯沸かしといたからコーヒー飲んで」
「ほーい」
この家では目を覚ます為に皆コーヒーを飲むという習慣がある。苦いものが苦手な碧は砂糖をスプーン2杯、3杯入れて甘々にしてから飲みほし、トーストを口にくわえて部屋へと戻った。
瞹も一応起きてはいたようだが昨夜に不定期な時間に起きてしまった為に、ラベンダーのスカートの裾を握りしめてゆらゆらと眠そうにしている。
「ラベンダーさん…まだ眠いよぉ…」
「ほーら、しっかりして。電車乗ればゆっくり寝てもいいから。今はちょっと頑張って」
ラベンダーが瞹の頭をポンポンと叩くと、瞹は「はぁい」と気の抜けた返事をして眼帯を取りに行った。
「なぁ、幻夢…今回の招集って、アレの事なのか…?」
二人はラベンダーから目玉焼きの皿を受け取る。怜虹がほかほかの目玉焼きに塩胡椒を振りかけながら幻夢に聞いた。
「恐らく…な。先鋭が増えるってのは結構稀な例らしく、他の面子も調べてみたけど他の情報は民間のネットワークじゃアクセスできなかった」
どうやら怜虹は昨日のあの出来事がまだ気になっていたようだ。「先鋭」、その言葉の意味を怜虹をまだ知らされていなかったようで今だに話についていけていない。
「とにかく先鋭ってなんだよ。教えてくれよ幻夢」
「今は時間が無いから、電車に乗ったらでも話してやる。少し急ぐぞ」
「っちぇ、落ち着きねーなぁ」
怜虹はその大口で目玉焼きを頬張り、ほどよく噛んでからそれをお茶で流し込み荷物の準備へ向かって行った。
一行は電車の中にいた。
ラベンダーと碧を座らせて、幻夢と怜虹が立っている形に。瞹も家に置き去りにしておくわけにはいかないので連れていき、ラベンダーと碧の隣に座らせている。彼女は余程眠たかったのか、座って数分でもうぐっすり眠っていた。
「んで、幻夢。そろそろ教えてくれよ」
「ん?あぁ、先鋭のことか。分かった」
幻夢は一呼吸置いて、ソルジャーの仕組みから説明を始めた。
「俺たち天使支局は特殊な例だからそれは置いといて、俺たちが所属しているソルジャーという悪魔討伐組織。この中にも階級というものはある。下から順に言えば、『ブレイバー』から始まって「下位」、「中位」、「上位」。その中に各三つの階級がある。例えば下から六つ目の階級は『中位2級』になる。ここまではお前でも分かるだろ?」
「おう、俺たちはそれの範疇の外だけどな」
「それは最初に言った…まぁ話を戻すぞ。ブレイバー、下位、中位、上位…という十の位がある訳だが、その上にも数人だけ、ほんの僅かな数だけが位置する『幻の』最上級クラスのソルジャーがいる。その人たちが『先鋭』だ」
「…!!」
怜虹は唾を飲み込んだ。このソルジャーという組織、下位の者に関してもそれなりに認められている人間でないと入隊出来ない。それの上位になるというだけでも凄まじいのに、それより上のランクがあるとは…と、まだ出会っていない人間にも関わらず底知れなさを感じる。
「まあまあ…そんな今から緊張しなくてもいいだろ。そういえば今回の招集、やっぱり昨日の件が関わっているらしいな。もしかしたら他の先鋭もお目にかけられるかもな」
「ま、マジかよ……」
まだ顔も見たことも無いのに何故か冷や汗が出てきた。
「怜虹ってガタイ良くてマッチョなのにめちゃんこ豆腐メンタルだよねー」
「…っるせぇ。こればかりはしょうがねえんだよ…つーかお前それ人のこと言えんのかよ、完全に気絶してたぞ」
「喧嘩はそのくらいにしといて。人前なんだから」
碧と怜虹が揉め合いにならないようにラベンダーが割入る。
「はは、もうすぐ着くぞ。ラベンダー、瞹を起こしといてくれ」
「分かった」
肩をゆさゆさ揺り動かすと、瞹は瞼をゆっくり開けて伸びをした。ラベンダーは瞹の手を取り、離れ離れにならないようにぎゅっと握り締める。
一行は歩き出し、目的地へと向かうのであった。
「これよりソルジャー部隊、『先鋭』新任式を挙行致します。一同静粛にお願いします」
アナウンスで男の声が聞こえると、会場は静まり返り厳粛な空気へと変貌した。
「会場進行はソルジャー部隊最高責任者の『久夛良木』が務めさせていただきます。よろしくお願いします」
「会場進行って普通最高責任者がやるもんだったっけか…?」
「…知らん」
怜虹の落ち着きのなさにそろそろ幻夢がうんざりし始め、黙ってステージの方を見ろ、と向こうへ指をさす。
「ではまず初めに、既に先鋭である七人に入場して頂きましょう。では皆様ご入場をお願いします」
合図と共に次々と入場してきた先鋭たち。突然の先鋭、ソルジャー最強クラスの人間たちの登場に会場がどよめく。
「おぉ…あのお方がソルジャー最強の剣士と歌われる『花火花 丞兄』さんだ!今日もグラサンが決まってダンディ!」
「おーおー、かわい子ちゃんたちが一杯いなさんなぁ」
「次に来たのはソルジャー最強の格闘家『蘭香 陽菜』さん!可愛いしスタイルめっちゃいいな…!!」
「ジョニィさん、今は式に集中するんだよ」
「ソルジャー最強の魔法使い『せせらぎ 翠子』様!数十年もの間努力を惜しまずこれまで二十年間も先鋭に大往生しているソルジャーのプロフェッショナル!」
「あたしもまだ若いもんにゃ負けはせんよ…悔しかったら越してみな」
「ソルジャーの装備開発を担っているエンジニア『比堂 宮太』!太ってなければ完璧なインテリ系残念なイケメンだ!」
「残念なってなんだよ残念なって…」
「まだ日本にもニンジャが生きていたとは…!冷酷非道の忍『根愚露 蛇魔世』さん!目付きめっちゃこえ〜…ひっ!うわこっち睨まれた!」
「何ギャーギャー喚いてんだ…殺すぞ」
「その姿はまるで仏様…しかしあのお方を目の前にした悪魔は全て無に帰されるという『権夏 壇蔵』さん!あぁ…見てるだけで浄化されそうだ…」
「ほぉ、これほどの人々が私を応援してくださるとは。今日も天に感謝…」
「来た来た!正真正銘ソルジャー最強戦士と謳われ、全ての能力を完全にコピーできるという美少女巫女ちゃん『尊園いづる』ちゃん!」
「だーかーら…僕は男だっての…好きでこの服来てるわけじゃないしぃ」
七人の先鋭たちが壇上に揃った途端、またもや会場の空気が張り詰めた。これがソルジャー最上級の実力者たちの醸し出す空気なのか…と、誰もがその貫禄に息をすることも忘れていた。
「そして本日から先鋭へ就任することになった『鬼重院楓丸』さんです。壇上へお上がりください」
「押忍!!!!!!!!!!!!」
威勢のいい張り上がった声が静まった会場に響く。
「来るぜ幻夢…」
「ああ」
「えっなになになになに!?」
大柄の男が一歩一歩、その階段の一段ずつを踏みしめて壇上へと上がっていく。キリッと反り立つ前髪にキチッとした学ラン…そう、昨日家に挨拶に来たのはこの人だ。
「おああああああぁぁぁ!!!!!あの人!!!!!!昨日の!!!!!助けてくれた人!!!!!!」
「うるさい、静かにしろ碧…!」
興奮する碧。昨日見た名も知らぬ命の恩人がこの場に、しかも先鋭として前に立っていることに彼女は驚くしかなかった。
「彼の優秀な実力と涙ぐましい努力が評価され、彼の就任となりました。では少し私から紹介させていただきます。鬼重院楓丸、歳は十六。ソルジャー歴は三年間で、悪魔討伐の数によっての昇級となります」
会場が少しざわめく。十六という二十歳にも満たない異例の若さで先鋭に就任した彼に不満の声がぽつりぽつりと聞こえ始めた。
「十六で先鋭っておかしいだろ、誰か裏で手ぇ回したんだろ」
「体育会系の生意気そうな奴だな…」
その様子を見ていた先鋭たち。
「チッ…努力もまともに出来ない身の程知らずの下衆共が…殺すぞ」
「まぁまぁ根愚露殿、そんなカリカリしなくても良いではないですか」
「でも僕は正直まだ不安だな。彼自身の実力でここまで来たのは認めるけど、先鋭としての覚悟があるかどうかも見せて欲しいところ」
「人の目陰口なんざどーでもいいんだよ。あいつがやるには、あいつ自身が勝手に先鋭をやるとしたらな。けどな、先に立つ人間ってのは信頼がいるんだ。そして覚悟もいる。それを見せてやるっつーことが問題なんじゃねぇーか?なぁ」
「ではここで、彼から一言意気込みを聞かせて頂きましょう。では鬼重院さんお願いします」
マイクが彼の元へ渡されようとするが、彼は手のひらを出してマイクを断る。背後に先鋭たちがいて、目の前にソルジャーのほぼ全隊員がいる。一呼吸置いてから話を始めた。
「はい、本日よりソルジャー部隊、先鋭へ就任することになった鬼重院楓丸です!兄に勧められてソルジャー入隊への道を選び、今日この瞬間に先鋭となれたことを非常に誇らしく思っております!しかし兄は悪魔との戦いによって命を落としてしまい今はもう亡き人…、私はそんな兄の無念を晴らす為に、より多くの功績を上げられるよう三日三晩修行を積んできました!初めは先輩方の力をお借りしないと何も出来ない力不足な私でしたが、熱心な指導のおかげでここまでの力をつけることができました!非常に感謝しております!」
非常に長く語っているが、彼の声量は小さくなることを知らない。
「先鋭としての勲章を頂いたことは大変喜ばしいことですが、それに甘んじず先鋭としての名に恥じぬことのないよう、また一人のソルジャー隊員としても成長していきたいと思っておりますので、まだまだ未熟な身ですが皆様のご支援を頂きながら精進尽くして参ります!しかし私の目標は悪魔の殲滅ではありません!悪魔が出てくる間も無いような輝かしい人間社会を作り上げていくことが私の先鋭として、いや、ソルジャーとしての目標であります!皆様、改めてこれより何卒よろしくお願いします!!」
彼が演説を終えると、応援団ばりに深深と頭を下げた。
彼の覚悟と、その勇姿を見た隊員たちの間から、自然とポツポツと拍手の音が聞こえ、その音は瞬く間に会場全てに広がり、会場は拍手に包まれた。
彼の覚悟と意気込みがソルジャーたちに伝わったのだ。楓丸は息を切らしているが、仁王立ちを崩さずにその澄んだ目で前を向き続けていた。
「あたいこの子が気に入ったよ!本当にいい子だ」
「えぇ、えぇ。また若い人が増えて、私たちも賑やかになりそうだねぇ」
「こいつ、できる…!!僕をここまでビビらせたのは久しぶりだな、少年!」
先鋭たちも彼の後ろ姿を見て拍手を送った。楓丸の先鋭就任は、そこにいる皆誰もが彼の未来に希望を持つ、素晴らしい就任式となったことだろう。天使のメンバーたちも、将来こんな格好良い姿になりたい…!と胸を高鳴らせていたのだった。
読んでいただきありがとうございました
次回からやっとダークアライアンスが動き出しそうなのでバトル展開もまた見れると思います、乞うご期待(しない方がいい)!