白昼夢の幻覚
正直このパートは実質なくてもいい気がする
「君は……誰……??」
誰かが自分を呼んでいる気がする。
自分の同じくらいの歳の男の子で、それはもう病人のように震えた声で、這うように自分を探し求めるその声は、幼さがあるもののまるでゾンビのような気味の悪さがあった。
「え…、ここはどこ…?そもそもあなたこそ誰…??」
「君なのかい…?『昼月 瞹』…僕の『契約者』……」
瞹は恐怖で後ずさりした。
腰が抜けそうになるが、なんとか持ちこたえた。しかしその恐怖は抜けきらず、逆にその恐怖の対象はさらに自分へと距離を縮めていく。
「教えてあげる。これから近く、『戦争』が起こる……人間と悪魔たちが殺し合う…悲しい戦争…過酷な戦争……」
「『戦争』…、が、起きるの…?」
そんなに疑わしさ極まりないことを言われても彼女の頭では理解できない。そもそも戦争を知らない彼女にとってそれを説明されても分かりようがないのだ。
ただ彼女は「殺し合う」という言葉を聞き、それがどれだけ辛いことかを汲み取ることは出来たようだ。
「そうなの…でも、私は、どうしたら…」
「君も確か天使なんだよね?君の友達と同じような…」
「知らない…しらない!天使とか悪魔とか、言われても分かんないよ!」
瞹はきっぱり言い切った。天使とか悪魔とかいう言葉が出てきた瞬間、何故から涙が溢れてしまった。それを見て向こうは少し気まずそうな顔をして続ける。
「そうか…難しいことを言ってごめん。でも君に頼みがあるんだ。あの人達と同じように、実は僕も君の友達なんだ。しかも、君に最も近い友達」
「とも…だち?」
「そう友達。そして君と僕のからだは繋がってる。それがどういうことか…、それは、僕の力を君が使ってもいいということだよ」
向こうは指を瞹の閉じた左目に近い額にトン、と軽く突いて笑った。
「つまり、僕はいつだって君の味方だよ。心配しないで」
「それじゃあもうお別れの時間だね。君なら出来るって僕は信じてるよ」
「あっ…ちょっと待って……」
瞹が引き留めようとするが、バイバイ、と手を振る彼の姿は少しずつうっすらと消えていく。
「待って…まってよ!!…………」
「はっ………!?」
意識は一瞬で元の世界に引き戻された。
少年を追いかけて伸ばしていたはずの手は、天井にある電灯に向かって伸ばされていた。
「夢……なの……??」
横になっていた体を起き上がらせて、目をゴシゴシこすった。現実でも涙が出ていたようで、目やにが鬱陶しかっま。さっきまで見ていた夢の内容を思い出そうとするが何も思い出せない。
布団をかき分けてベッドから出る。気が付かないうちに部屋着に着替えていたようだ。多分ラベンダーが手間をかけて着替えさせてくれたのだろう。
ぐる〜〜…とお腹が鳴った。そういえばまだ夕ご飯を食べていなかったっけ…みんなと一緒にご飯が食べられなかったことを悔やみながらも、気持ちの整理もつかないままリビングへと向かった。
「お、おはよう。よく眠れたか?」
ちょうどドアの近くにいた幻夢が出迎えた。彼は手に淹れたてのコーヒーを持っていて、その香りで瞹は少し目が覚めた気がした。奥にいる怜虹やラベンダーも、少し安心した顔で「おはよう」と口々に挨拶を交わす。
「…つっても、まだ夜なんだがな」
掛け時計を見ると、時刻は午後7時半くらい。まだ夜は深くないが、もう外は日が落ちてすっかり暗くなっている頃合だろう。瞹は一回大きく欠伸をして、ラベンダーの元にとことこ歩いた。
「どうしたの、もう大丈夫?」
「うん…大丈夫…」
お腹が空いた、と直接言うのは流石に卑しいと思って瞹は少しもじもじしながら「お膝座ってもいい?」とだけ言った。ラベンダーは「もちろん」と言って背中からその体を持ち上げて膝に乗せた。
「どうしたの、怖い夢でも見た?」
「…ううん、覚えてない」
「そっか、覚えてないか」
ラベンダーは瞹のシルクのような髪をなぞるように優しく撫でる。瞹は安心してまた少し泣きそうになってしまうが、人がいる手前、自分の服をつまんでそれを我慢する。
「ふふ、まだ甘えたいんだね…可愛いな…」
「…どうした怜虹、雲でもつかんでるような顔して」
まだ湯気ののぼるマグカップを口から離しつつ幻夢が言った。
「いや…なんでもねえ。それより瞹、腹減ったろ。なんか食うか?」
幻夢の発言に少しギクッとした怜虹は、逃げるように立ち上がって冷蔵庫の中を見る。しかし冷蔵庫の中にはほとんど何も残っていない。怜虹はもっと気まずそうな顔をした。
「今日食材使い切ってたでしょ…しかも瞹がこんなに早く起きると思ってなかったから残してもなかったし」
ラベンダーが子守りをするように体を揺すりながら言うと、幻夢が何かを察したかのように立ち上がり、アイコンタクトに応えて怜虹も動き出し、同じところへと向かっていった。
「お兄ちゃんたち何しに行くの…?」
「瞹は知らなくていーの。それよりお風呂入ろっか、瞹もまだ入ってないでしょ」
ラベンダーは瞹を膝からおろし、風呂場へと一緒にぞろぞろ歩き出し始めた。
「ん〜、そのコンボもあったかぁ」
「おっ、無駄ジャンありがとね。はい着地狩り〜」
ピコピコと鳴る機械音と、ガチャガチャ鳴るコントローラの音。そしてただ独り言をぼやく女の声が仄暗い部屋の中で鳴る。ぼんやりと暗闇の中に映るモニターの光が彼女の顔面だけを不気味に照らし続けていた。
「おっけおけおけこのままゴリ押せば勝てる!」
コントローラを動かす手が早まった。彼女が操作するキャラから放たれるコンボは相手を画面端に圧倒し続けていた。
ドンドン、と突然誰かが扉を叩く音がした。向こうがドアを開けようとしているが、こちらから鍵をかけているために開かない。
「おい起きやがれ碧!もう8時だろ」
「風呂ぐらい入ってくれ、今日お前ずっと部屋にいるだろ」
「あーあーもううるさいなぁ、トイレには行ってるよ」
自分を叩き起こそうとする声がうざったくて、聞こえないように空返事をする。彼女はゲームの画面に釘付けだった。
「はいこれは勝ちだなー!いけるぞ私!」
彼女がゲームの勝利を確信した。その時だった。
「はぁ…しょうがねえな。幻夢アレやるぞ」
「おいおいまたアレをやるのか…?」
「悪魔のせいにすりゃいいだろ、早くやるぞ」
不穏な会話が耳に入ってきて、碧はゾッとしてコントローラの入力は止めないながらも恐る恐る後ろを振り向く。
「えっ…ま、まさかアレを…!?」
ドゴォン!!!
爆音と共に真っ暗闇の部屋に広く大きな光が差し込んだ。
「ぎにゃあぁぁぁぁ!!!!!!」
唐突な衝撃に驚いてコントローラを落としてしまう碧。パラパラと飛び散る破片と瓦礫煙の奥には、緑色の光剣を持った幻夢と橙色の拳を持った怜虹がいた。
モニターには「YOU LOSE…」の青い文字列がデカデカと表示されていた。
「碧、お前起きてたのか…だったら返事くらいしろ」
「ひぇえ命だけは、命だけは……」
多少寝ぼけているか不眠で頭がおかしくなっているのか、碧は身内に対してにも関わらず二人に命乞いをした。その様子を見て幻夢は顔に手を当て、怜虹は肩を縮ませた。
「やれやれ…まぁいい。お前に頼みがある」
「なななな何よ……」
碧の目の前にほおり投げられたのはメモが記された紙切れとがま口財布。碧は恐る恐る顔を上げた。
「買い物に行ってこい」
突然の任務任命&外出命令に、碧はここ数日で一番の悲鳴を上げた。
読んで頂きありがとうございました
実際このパートいるかな…って思いました
進行ヘタクソで話全然続かないけど碧ちゃん登場できたのでキャラが一人増えたってことでいいでしょう