天使の羽休め
進捗!!!
今のところ順調
「うぉおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!」
歓声が響いた。
漫画のような鮮烈な戦いを目の前にして、人類を悪から救ってくれたヒーローに、人々は歓喜の声を叫ばずにはいられなかった。
「お、おい幻夢…こいつの死体、どうすんだよ…」
怜虹が幻夢に歩み寄る。幻夢は振り返って、顔面に付いた返り血をゴシゴシ手で拭って言った。
「いや、こいつは死んでない」
「はぁ!?お、おい!?首斬って殺し損ねたって…お前一体どういうことだ…」
「さっきも言ったろ。俺たちの目的は悪魔を殺すことじゃない、悪魔を人間に戻してやること。要は目を覚まさせてやることだって」
状況の掴めていない怜虹を制止するように、多少食い気味に幻夢が言い放つ。そのてんやわんやした表情を見て、幻夢は呆れた顔をしながら男の方を指さした。
「見ろよ」
「首が…落ちてねえ…?」
「俺は首を斬ったんじゃない、こいつの悪魔エネルギー、つまり『ヘイト』の供給を断ち斬っただけだ。こいつは身内が死んだことによりヘイトが異常に体内に蓄積されて悪魔化したって魂胆だろ」
話が終わると、幻夢がいきなり歩き出す。それに合わせて怜虹も歩き出した。その先には瞹を抱えるラベンダーがいて、向こうもこちらに気づいたようで少し駆け足で歩み寄る。
「だ、大丈夫だった!?二人とも怪我はない?血がたくさん付いてる…」
「俺のは返り血だ。怜虹はどうだ?」
「お?あぁ、どうってことないぜ」
怜虹は彼のギザ歯が生えた口元をニヤッとさせた。ラベンダーはその顔を見て、対照的に疑わしそうに目を睨ませて腕をペシッと叩く。
「いって!?おいラベンダー何すんだ…」
「何すんだじゃない!結構ボロボロでしょその体、今は瞹おぶってるから怜虹は家帰った後ね」
自分の腹の中を見透かされてるようで、怜虹は頭をボリボリ掻きながら複雑な顔になる。その二人の仲の良さそうなこと…と幻夢は少しフッと笑った。
「おい何笑ってんだよ」
「いや…お前らもやっぱり、仲がいいなって思っただけ」
「それは昔からでしょ!言われなくても分かるって、それに幻夢も同じ仲じゃないの」
「それもそうだな。じゃあそろそろ帰るか、もう日が暮れそうだからな。それにこんなに騒がれてはこっちも小っ恥ずかしい」
「なんだよ、幻夢にもそんな感情があったってのか、ハハハ」
三人は互いに少し歩幅を寄せ合って帰路へと向かった。
彼らにもまた家があって、自分たちを家族のように思い合っている。そう思えるだけで、彼らは幸せだと感じることが出来るのだった。
「お前達に告ぐ」
ある男が言った。彼らは黒い影を纏っているが、彼らの目を表す色だけが煌々と暗黒の中に映っていた。
「今回集まってもらったのは他でもない。我が組織『ダークアライアンス』の活動における重要な報告だ。心して聞け」
男は椅子に座り、話を始めた。
「ここ最近数週間の間に急速にソルジャーたちの活動が活発になっている。それはつまり我々悪魔としては驚異となりうる事象でもあるという事だ。今回お前たちに知って欲しいことはこの事だ」
男は続ける。
「お前たちがすべき事はまずソルジャーの数をとにかく減らすこと、要は殲滅だ。率直な話、ソルジャーが活躍して悪魔の数が減り続けているのならば俺たちも同じことをすればいい。数は多かれ少なかれ、そのようなデータを残すことで向こうの士気を削ぎとるのだ。そして、また新しい情報が入った。この資料を見ろ…」
男が徐ろに立ち上がると、メンバーにある紙を配り始めた。そこには天使達、幻夢や怜虹たちの顔や情報が記されたデータが記載されていた。
「リーダー、これは…」
「ソルジャーが最近立ち上げた特別支局『天使』のメンバーだ。こいつらはソルジャーの構成員とは違い、悪魔を殺さずに人間に戻す、という目的があるようだ」
「しかしリーダー、悪魔が殺されるのはまだしも、悪魔を人間に戻す方法が知れ渡られたとしたらこれはまずいんじゃないでしょうか?」
「その通りだ。今はこの天使たちの人数が少ない故に悪魔が人間に戻る事案は少ない…しかし人間がそのメカニズムを研究して天使以外でもそれができる力を得てしまう…つまりは特効薬たるものが作られてしまえば、急速に我々悪魔の勢力が萎縮していくという可能性を孕んでいる」
「ならばリーダー…対応策はあるのかい?」
「ああ。俺たちのやることはもう一つしかない。『天使』を潰せ。人間がその特効薬を手に入れる前に、一刻も早くその根源を叩き潰せばその危険性が無くなり、それはまたソルジャー側の大きな損失になる。悪魔を増やす作業は一旦止めろ。ここは俺たちダークアライアンスが直々に奴らへと宣戦布告するのが適当だろう」
「ほう…久方振りの戦争か。滾るな、なぁ相棒よ」
「もちろん…それに僕は人間を殺す為だけの存在。それこそが僕の生きる価値」
「あら大変、お料理の支度を始めなきゃ」
「それを言うならお掃除でしょ、人間のお掃除」
「くくく…僕の開発した最強殺戮兵器の実戦投下を楽しみにしてたよ」
「悪魔に対する天使…か、人間も粋なネーミングセンスするねぇ」
「せんそー?よく分かんないけどみんな楽しそうだから私も楽しみ!」
「…馬っ鹿みたい」
口々に主々の思いを口にするメンバーたちを黙らせるように男が言った。
「さあ、お遊びはここで終わりだ。お前たち、この天使たちの打首を掲げて天の神様まで見せてやれ」
また辺り一体が闇に包まれ、彼らの姿は黒色に匿われた。
「ただいま」
ドアを開けると、扉に取り付けられた鈴の音がチリンチリンと、まるで喫茶店のような洒落た音色が辺りに響いた。
「…迎えも、来ちゃくれねえのかよ」
「まだ寝てるんだろ、あいつの事だし」
パタパタ足音を立てながら玄関を通ってリビングに進む。
「幻夢、怜虹、シャワー浴びてきなよ。服ドロドロじゃん」
「お、そうか。じゃあ幻夢、ジャンケンで決めようぜ」
「…あぁ」
幻夢は相変わらずやれやれという表情を見せながら、それに応じてやった。
「「最初はグー、ジャン、ケン……ポン」」
「どうだった?」
「…俺の勝ちだ、悪いな怜虹。先に行かせてもらうぞ」
「ちぇ、分かったよ」
幻夢は血まみれのブラウスを脱ぎ始め、洗濯用のバスケットに突っ込む。彼の細身ながらも鍛え上げられた筋肉が露になり、ラベンダーは立ち止まってそれをぼんやり見つめていた。
「………」
「…どうした、なんか変なものでもついてんのか」
「いっいやいやいや!!ちが、違うから!ほら早く入って、次待ってるから!」
「お、おい押すな…!そんな押さなくても…って」
今だに瞹を抱えたままなので、ラベンダーはややタックル気味に幻夢を風呂場に押し込む。彼女の顔は少し火照っていて恥ずかしらしさを隠しきれていなかったが、敵の心理を付けた彼でもラベンダーの本心は見透かせない幻夢だった。
読んで頂きありがとうございました
いつ連載が止まるか知れたもんじゃないですが応援くださると嬉しいです