言いたいことがあるなら口に出して言ってください
1日休みあったのに更新出来なかったorz
現在2時34分。これから課題やって風呂入ります。
一限だけ寝なきゃいいからコーヒでも買ってくか…
ドゴッ!!
「ぐっ、ぐはっ…!!」
壁にめり込むほどの威力で叩きつけられる男。傷だらけの少年は、体格差をものともせず男の頸をギリギリと潰そうとする。
「ま、待ってください!命だけは、命だけは…!!」
男の頸元に手が押し付けられている。男は必死の命乞いをするが、もはや目の前の少年の耳には届いていない。
仮面の少年は、瞳の黒い模様を回した。
「うるせぇんだよ……早く死ね、ゴミカス。『アイ解放……」
「そこまでにしておけ。スクラーヴ」
後ろから、少年の名と共に彼を呼ぶ声がした。
少年は頸を掴んだままゆっくりと振り返る。
「…あんたか」
スクラーヴを呼んだ声の主は、彼の相棒であるベアルだった。
「スクラーヴ…お前にも言ったはずだ。全人類悪魔計画の遂行の為には、お前の協力も必要だと。人間を殺すのではなく悪魔にする事が目的だと…、今すぐそいつから手を離せ」
「……チッ」
ゴシャッッ!!!
スクラーヴは男の頸から手を離し、地面におもいっきり叩きつけた。ベアルは「…世話の焼ける奴だ」と呆れた様に言い、半分意識の朦朧としている男に近づく。
「な、何をする気だ…!!」
「何、悩むことなどない。一瞬の痛みのみだ。無礼を許す代償として、お前を俺の傀儡にする。むしろこの『悪魔の王』である俺の配下につけること、一生誇るがいい。…『アイ解放』、『Panoplía klímakas』」
ベアルの瞳に模様が浮かび、手元に集まった暗黒物質は剣の形を取る。ベアルは男の頸を掠めるように傷つけた。その傷からツーッと一筋の血が垂れ流れる。ベアルはそれだけをして、目を閉じた。
スクラーヴからは何が起こっているのか分からないが、確かに男の眼はどんどん黒くなっていく。どういう原理なのか知る由もないが、ベアルは何らかの方法でこの一般人の男を悪魔に変えているようだった。
「行くぞスクラーヴ。今日はここまでにしておく、こいつは勝手に所定の持ち場に着くよう命じた。俺達がこれ以上こいつにする事は何も無い」
「……………フン」
スクラーヴは不機嫌そうにベアルの後を追う。
「スクラーヴお前、近頃あまり機嫌が良くないようだな、何があった」
「惚けんなよ…いくらあんただってそんな事も分からないのだったら本当に呆れるよ。僕が人間嫌いだってことぐらい言わなくてもわかるだろ。…最近の命令はずっと生け捕りばっか。悪魔は『殺戮』という行為でこそその能力の本領を発揮する。悪魔として定められた運命から逸れてるって思う。
まぁ、そんな宗教めいた阿呆らしい理屈考えなくても、僕はただ殺戮がしたいから今こうして苛立ってるんだけど」
「フン…そうか。ここ数年でお前も随分と生意気になったものだ」
ポタ、ポタ………
彼らの肌に雫が次々当たっていくのを感じる。
「天気が悪くなってきたな。急ぐぞ」
「………………」
二人は飛び去って行った。
「お帰りなさいませ、ベアル様。雨に振られてしまったようですね…お気の毒に」
ベアルがドアを開けると、そこに片眼赤眼のメイド…ルナ・アンジェリーク=ペルソナージュが、深々とお辞儀をして彼の帰りを出迎えた。すかさず彼女はベアルにタオルを渡す。
「お召し物を用意しておきました。あなたとあろうお方でも、風邪を引いてしまっては大変です。すぐにでもシャワーをお浴びになったら如何でしょうか」
「そうだな。相変わらず、本当によく気の利く召使いだ」
「…そのお言葉、恐縮ながら…召使いとして誠に光栄でございます。では、失礼致します」
ルナはちょこんとカーテシーをして、ベアルの部屋着を取りに行った。
「…ソルはどうした?」
ベアルが呟くように問う。ルナは一瞬動きを止めて答えた。
「ソルはスクラーヴ様を探しておるようです。…しかし、彼女のことですので直ぐに見つけられそうですが」
「そうか」
ベアルはルナから部屋着を受け取り、シャワー室に向かった。
ザァァァァッッッ………
雨はスクラーヴの体を無差別に打ち付けて、彼の傷だらけで貧相な体を伝って流れていく。彼は降りしきる雨の中で立ち尽くし、ただ黙り込んで、空の曇りを漠然と眺めているようだった。
その雨の肌寒さ、湿っぽい空気の匂い、そして全身を伝う雫の感触。とても悲観的で冷徹な情景に浸っているようだったが、彼にとってはこの感覚が、ある意味何故か懐かしさも思い起こさせていた。
「スクラーヴ様」
「……………!!!!!」
背後からの声に反応し、スクラーヴは反射的にクウェックシルバーを尖らせる。が、そこには誰の姿も見えず、今度は彼の肩をトントンと叩いた。
「なんだよッッッ!!!」
スクラーヴは振り返り、その声の主を睨みつけるように見る。
「…くすくす。そんな怒らないでくださいよぉ、スクラーヴ様?」
彼が見たのは、左眼の瞼を縫い合わされたサイドテールのメイド少女、ソル。彼女はスクラーヴを面白がるように笑い、突き出されたスクラーヴの手に傘を押し込む。
「私知ってるんですよ?スクラーヴ様、雨が降ると必ずお外に行かれてるなぁって。別にスクラーヴ様の体質的にお風邪引かれ無いことは存じておりますけど、メイドである私としてはなんかベトベトの人がお家に来られるってのはちょっと手間が多いんですよぉ。分かります?なのでまぁ濡れてしまったものはしょうがないですけど、今度からは濡れる前に真っ直ぐ帰っていただきたいものです」
ペラペラと早口で話すソルをよそに、スクラーヴは「お前…よく喋るな」と言う。
「まぁまぁそれはいつもの事じゃないですか!そんなことより早く帰りましょうよ、皆さんスクラーヴ様の事お待ちですよぉ」
「………………」
ソルはスクラーヴの手を取って歩きだそうとした。
しかし、スクラーヴは彼女の手を振り払ってしまう。
「…どうされました?」
スクラーヴは何も答えなかった。ただただソルの目を見つめ、何も言わず黙り込んでいた。
「そんな黙ってても誰も分かってくれませんよ?言いたい事があるなら口に出して言わなきゃ」
スクラーヴはソルを手で突き放した。
ソルが何か言ってくる前に、スクラーヴは言い放つ。
「お前…僕のこと、何も知らないくせに偉そうなこと言ってんじゃねえよ…?人の事情にズカズカ立ち入ってさ…何が楽しいんだ?僕のことが、僕が抱え込んでる全てが、そんなに可笑しいか?馬鹿馬鹿しいか?」
スクラーヴはソルの襟元をギリギリと掴む。彼の腕はどんどん錆びるように黒ずんでいき、今にもクウェックシルバーが飛び出しそうなヘイトを溜め込んでいる。彼女は少し驚いた顔で何も言わず、彼の話を聞いていた。
「………今度は黙るのかよ…面倒臭い女だな」
掴んでいた手を離す。
スクラーヴは顔を逸らし、「もういいや」と歩き出す。
「……ちょっと、待ってくださいよ」
ソルが彼を引き止めるように言う。
「なんだよお前…」
「一つ、よろしいでしょうか…?」
そして、スクラーヴが答える間もなくソルは彼に詰め寄る。
「何ですか今のめちゃくちゃかっこいいのーー!?!?あれ猟奇的な愛って言うんですかね?私めちゃくちゃドキドキしました!!緩急掛けてくるのって割と高等なテクニックですよ!?意識的か無意識的か分かりませんけどスクラーヴ様にもこんなにアタック力があるなんて…はわわ…胸きゅんですよ胸きゅん!!!帰ったらもう一回やってくださいねあれ!!!」
ソルは右眼をキラキラと輝かせて、彼に弾丸のようなスピードで賞賛を送る。そう言えばソルが驚いた顔をしてた時、ちょっとずつ顔が赤くなっていったんだったっけ。
「………っはぁ〜……、お前はどうしてそんなにおかしいのか…」
むしろ開き直りとも思える彼女の態度に怒りどころか完全に呆れてしまった。スクラーヴは頭をボリボリ掻き、彼女から一歩距離をとる。
しかし、ソルはその一歩よりも大きい一歩を踏み込みスクラーヴに近づく。
「違うんです私はおかしくありません!愛は狂気というものですのであながち間違いでもありませんが!
そんなことより私言ったじゃないですか、『言いたいことがあるなら口に出して言ってください』って。スクラーヴ様のこととか抱え込んでることとか仰っておりましたけど!スクラーヴ様が何にも喋ってくれないから配慮しようがないんですけど!!!」
今度はスクラーヴが黙り込んだ。ソルの真っ当すぎる正論に返す言葉が見つからなくなってしまったからだ。
彼は振り向き、またさっきのように雨空を仰いでいた。
「……………」
「スクラーヴ様ー?どうされましたー?というか私もう帰りたいので早くお帰りになってくださると有難いのですが」
ソルがスクラーヴの顔を覗き込むように回り込もうとすると、逆にスクラーヴがソルの方へ振り返った。
「…………しりたい?」
「…え?申し訳ありません、今なんと仰いました?ちょっと聞こえなくて…」
「…知りたい?僕のこと、僕の思想、…僕の『過去』を」
ソルは息が詰まったようにドキッとして立ち止まる。
「いつ僕の精神の支配者が、お前を殺しに行くか分からないけど、…そこまで興味深く探り回られるぐらいなら、逆にご丁寧に教えてあげた方がいいかな?」
スクラーヴは自分の顔を覆っていたマスクに手をかけ、それをゆっくりと外していった。
その真っ白で傷だらけのマスクの下には、少年の素顔。少し痩せていて、顔に傷は付いていない。そして、確かに、彼の眼は悪魔の目の色をしていた。
「僕の生まれはここ『レーンバニア大国』、細かくは『マールタロー地区』。お前も知ってるだろう…何の面白みもない田舎の生まれさ。僕はそこで生まれ、そこから人生を初めて行った。…
僕には友達がいた。
『カトリーナ』、僕と同い年の女の子。
………
「わぁ、こんな素敵な花冠!やっぱりリフリット花畑の近くは羨ましいわ、こんなに綺麗なお花が年中見られるなんて…私も将来大人になったら、あなたのいるリフリットに住みたいわ」
カトリーナは僕から受け取った花冠をうっとり眺めていた。
「…そうだね。でも僕は、こうやって君のところに花を持ってきて、君が喜ぶ顔を見るのが好き。カトリーナ、君にとってのリフリットは僕だからね」
「んもー、すぐそうやってロマンチストになるんだから。でもそういう所好きよ。私もあなたのこと。ふふ」
マールタローには都会のような娯楽も何も無い。けど農業や牧畜が盛んな国で、毎日のように美味しい野菜や果物、チーズなどが味わえる。空気の流れもゆったりで、暇な時は草原に寝転がって雲の数を数えたり、羊追いの飼い犬と戯れて遊んでいられるような日々。裕福とは言えないが案外幸せな生活ができた。
それに、カトリーナ。彼女のお陰で僕の人生はひまわりの花のように明るく楽しい日々を過ごせた。毎日彼女に会って花を贈り、こうして談笑出来ることがこの世界の何よりも大きい幸せだった。
…だけど、僕の幸福の絶頂はある日急下降を迎える。
そよ風が吹く草原の上に寝そべっているつもりが、空気の淀む冷たい床貼りしかないようか空間に、僕は突き落とされた。どんな高い水車から突き落とされるよりも高い所から落とされて、もう二度と這い上がれないような沼にはまり込む。その沼の泥に汚されて出来たのが僕だ。
…これから僕が話すのは、天使達がほざいてる様な上っ面の『希望』じゃあ何とも出来ない『憎しみ』と苦しみからなるこの僕の、僕が生まれ変わる、『第2の胎内記憶』のようなものになる。
心して聞けよ。
読んでいただきありがとうございました!
え、寝ろ?あ、わかりました。がんばります
次回からスクラーヴ君の過去編に入りますが、天使の修行編もありますのでくどくなり過ぎないように調整します!次回も乞うご期待
☆Babyfaced Rumors
「ソルジャーは基本的に『ルートルビーレ中心国』、『オーブド・ユニエトランス都市』にあるソルジャー本部を拠点として活動しています!ちなみに天使達の住んでいるシェアロッテは、住宅街『アバーント地区』にあります!地理むづかしいね!それではまた」