伝言
長くなったので切ったから短いかも
沈黙を破るように現れた二人を見た天使は、少しの間フリーズしていた。
「………誰、ですか…?」
全員がそんな眼差しを彼らに向けている。
「……建夫、正直な話、まずは名乗ったらどうだ」
ピアスの男が言うと、吾椎と言う名の男性は頭をポリポリかいて、「あ、やっぱそうか?」と、うっかりしたように言った。
「まぁそんな緊張するな、怪しい者じゃない。俺は吾椎 建夫、ソルジャー階級中位1級。お前達のお見舞いでここに来た。これからよろしくな」
「…紹介が遅れてすまない。俺は無斎 犀星、階級は同じだ。よろしく頼む」
その正体は、先輩にあたるソルジャー達だった。
吾椎は彼らの緊張をほぐそうと立ち振る舞うが、さっきの気まずい状況を引っ張っているためか、天使達も表情の固さが和らがない。
「それにしても、この子は余程お前達に可愛がって貰ってるようだな!とても微笑ましいぞ」
その気まずさを汲み取ったのか、吾椎は口を開く。
「え、瞹を知っているんですか…!?」
「…と、言ってもなあ、そもそも俺達はこの子の付き人として遣わされた人間だしよ」
「正直な話、病棟を歩いている時も、常に今にも走り出しそうな早足で歩き「早くお兄ちゃんとお姉ちゃんに会いたいなぁ」とか言っていたぞ」
瞹の顔が、果物のようにポッと赤くなる。
「それでこいつは俺達を置いていって先に行ってしまってな。まあ病院の中だから安全と見たため先に行かしておくことを許した。本当は俺達と同時に着く予定が、こいつだけ先に来たというのはそういう事だ。正直な話、まるでそれはお前達にとっての可愛らしい妹のようだったぞ」
「ひ、ひうぅぅぅ………」
ズバズバと放たれる無斎によるカミングアウトに、瞹はどんどん恥ずかしくなっていって、遂に変な声まで出し始めた。
「おいおい犀星、その辺にしといてやれ。お前があまりにも正直に言い過ぎるせいで瞹ちゃんが困ってるぞ」
「…そうか、分かった。正直な話、俺は場を和ませようとしての行動だと思ったのだがな…」
無斎は少し心外そうな顔をしたが、照れる瞹を見た天使達の表情が少し和らいだのを見た彼は安心したように思った。
「お、そうだそうだ」
吾椎は何か思い出したように鞄の中を漁り出した。
そこから出てきたのは、人数分、五つの袋。
「お前達に見舞いの品を持ってきたんだよ!ソルジャーの先輩としての奢りみたいなもんだ、まぁ遠慮なく受け取ってくれ」
「…あ、開けても、いいですか!?」
「おう!一思いに開けてくれ!」
瞹はわくわくした表情で袋を開ける。その中には、イチゴの洋菓子が入っていた。
「こ、これは…!!」
「何が入ってたの?ちょっと見せて」
「ラベンダーさん!これ、これって…」
イチゴのミニタルト。これは先日の電車の中で食べようとしたお菓子だった。限定販売を辛くも買え、ほくほく顔で食べようとしたところを襲撃を受け、彼女も気が落ちていたらしい。
「良かったねぇ。お兄さん達にお礼言うんだよ」
「あ、ありがとうございます!」
瞹は勢いよくペコッと頭を下げる。それを見た吾椎は「あはは、いいんだいいんだよ」と笑った。
「全員にそいつが入ってるから、気が向いた時に食べてくれ!病院生活も暇だろうからな、先輩からのプレゼントって事でまぁ一つ受け取ってくれ!お返しは要らねぇからな、強いていえばお前達が活躍してくれれば俺達はそれでいい!」
吾椎は親指をビシッと立てた。
「…建夫」
ひょこっと、後ろから彼を呼ぶ無斎の声。吾椎は「…何だ?」と振り返る。
「…正直な話、こいつら『今日退院』だぞ」
無斎の冷静な一言が空気を凍らせ、吾椎の顔に一筋の冷や汗が流れた。
「あ、あー…、うん!まぁいい!無事で何よりだ!じゃあ退院おめでとうだな、これからも頑張れよ!」
とりあえず持ち直した吾椎。そのチグハグな立ち振る舞いに苦笑しながらも、天使達の緊張はほどけていった。
…しかし、
「…すみません、外の空気を吸ってきます」
幻夢は立ち上がり、ドアを開けて廊下の方に行ってしまった。
「ちょ、ちょっと幻夢!」
「お?おぉう、うん、気をつけて行けよ」
「…何かあったみたいだな」
「はい。ここ数日幻夢は口をきいてくれないようです。さっき瞹とは少し話していましたが、あまり気分が上がっているような様子ではありませんでした」
「………そうかぁ」
吾椎は手を顎に当て、考える仕草をとった。そこに無斎が切り込むように言った。
「俺が話をつけてくる。あいつが自然に何らかの不安を取り除けるとしたらいいが今は時間が無い。正直な話、今後メンバー達の精神面に支障をきたさないように早いうちに話を片付けておくべきだ」
「いやそれは良くない。あいつらは特別な存在だから、常人には理解できない何かを抱えているはずだ。その問題は自己解決もしくは同じ考えを持つ者同士で解決するべきだと、俺は思う」
珍しく吾椎が無斎に反論する。さっきのおどけた表情は一変し、それは真っ直ぐな眼差しで無斎と、そして天使達を見ていた。
「分かった。お前がそこまで言うならあいつに任せるとしよう。…というか早いところ言わなくてもいいのか?正直な話、俺達の目的…『もうひとつあるだろ』」
「あ、あぁそうだったな!」
吾椎は思い出したように左ポケットをゴソゴソ漁り、一つの封筒を取り出した。
「俺達は瞹ちゃんの付き人として来た、って言った…が、目的はもう一つあった。…『伝言』を預かってな」
「伝言…?」
「ソルジャー最高責任者、『久夛良木 倭文禰』様からの…直々の伝言だ」
「「「!!!!!!!!!」」」
一同、驚愕の表情を見せる。
「えっっ、最高責任者って…ソルジャーで一番偉い人ってこと!?」
「そうだ、今後のお前達に対する指令が記されている。正直な話、この情報及び指令はトップシークレットという事になっている。故に、間違っても他人に教えたりしないように。それじゃ、封筒を開けるぞ」
無斎は吾椎から封筒を受け取り、親指を押し付けてスラスラと慣れた手つきで指を動かす。すると、ただの紙にしか見えないような封筒からサイバーパンクなHUDが浮き出し、「Certification Completed」と表示され、封筒の留め具がガチャっと外されゆっくり開いていく。
「す、すげぇ……」
オタク心を掻き立てられている碧は、その近未来的な仕様に感動のため息をついた。
「では読むぞ。心して聞け」
無斎がそう言う頃には、病室から音という音は消えていた。沈黙と緊張が場を支配し、天使達はその内容が知らされるのを固唾を飲んで望んでいた。
読んで頂きありがとうございました!
ソルジャー最高責任者から天使達に送られた手紙の内容とは…!?次回も乞うご期待
☆Babyfaced Rumors
「吾椎と無斎は顔面年齢がめちゃくちゃ違うけど同じや32です。不思議ですね それではまた!」