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×  作者: と金
第一章 Angel Soldiers vs Dark Alliance
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究極的な位相の重なり

課題が終わりません。死

「正真正銘の悪魔である僕が、なぜ天使である瞹と共存できると思う?」

瞹…の姿形をした誰か、はすっくと立ち上がってベアルに問いかけた。足の負傷はいつの間にかなくなっている。


「…どういう事だ」

「天使が希望を語り、悪魔が憎しみを振りかざす。本来僕と瞹は悪魔と天使、正反対に位置する存在だ。しかし僕は瞹の中で生き、ここにいる。決して交わる事のない二人が、今ここに顕在する事に……疑問を持とうという気は無いのかい?」

「……………」

ベアルは黙っていた。神威を解くことは無かったが、何かを悟ったものの、その確証がとれず戸惑いを隠しているようにも思える。


「…少しはそのおっきな口開けて何か喋ってみてはどうだい?ドラゴンさん」

断裂した空間の隙間から矢がまた飛び出すが、神威の剣によってすかさず弾かれた。瞹は「やっぱりね」という顔をして空間を元に戻した。

「お前の持論など興味はないが、同じ悪魔である俺には、それを聞く価値がないわけではない。話を続けろ」

「…『お前』なんて呼ぶなよ。僕の事は…そうだね、仮の名として、『アイ』に反する者、『イア』とでも名乗らせて頂こうか」



イア、と名乗る少年は一呼吸置いて、原初の説明を始めた。

「そもそもの話、天使の『アイ』…それは魂を結託させた者、いわば肉体的又は精神的な範疇を超えた『魂の契約者』、それを閉じ込めておくケージとなるもの。誰かを守りたい、という魂の意思…言い換えれば未練を晴らすために、その誰かの意識に留まり、しがみ付いて、死してなお守り続けようとする。守りたい、という本能から生まれた意思の具現化…それが『ホープ』というものさ。

けど彼女がとどめているものは僕の魂ではなく、『僕自身』。彼女は僕自身と契約し、僕をアイという籠に閉じ込めている。ホープとヘイトは共存できないけど、それはあくまで理論上までの話。概念ではなく、何かの究極的な位相の重なりによって僕は彼女の中で生きているって事。

勘違いしないでね?僕が彼女を守りたいという想いはあくまで間接的なものである事を。実体を持たない僕の生命は、瞹の体に宿る事によって存在を謳歌できる。…まぁ、強いて言えば、彼女のアイには僕の意思で宿ってるんじゃなくて、彼女が僕を勝手に引き込んでいるんだけれどね」

イアは左手に持っていた眼帯を落とし、「何か質問はある?」と言った。



「やはり、この俺に天使の話をするだけ無駄だったようだ。俺たち悪魔こそ最高の存在、それ以外は全て下郎。知る必要もないことだったな。しかしその幼い体によくそこまでの知見を隠し持っていることだ」

「…ベアル・レド、だったっけか?君は僕の話をまるで理解していないように見える。自分と違う物を拒んで知らなそうとするその態度、見るに耐えないよ。もっと違う人に話すべきだったね。馬ぁー鹿」

「…図に乗るなよ小僧が。身分の違いという物を弁えろ」

ベアルは眼を見開いてイアを神威で斬りかかろうとした。


「待ってベアルさん!!」

黄目はベアルを引き止めた。神威の動きがピクッと止まる。

「…邪魔をするな」

「いや、話を聞いてあげようよベアルさん。確かに天使と悪魔は相反する概念を持った対立の関係にある者同士だけど、だからこそ、他を知って自らを悟るように、彼の持論には耳を傾けるべきだと思うんだ。武器を離して」

黄目の呼びかけによって、ベアルは溜息を吐きながら剣を空に消し神威解放を解いた。

「…フン、好きにしろ」


「物分かりのいい人が近くにいて助かったよ。名乗りを上げてもらおうか?」

「生憎僕の存在はトップシークレットだからね、匿名さんとして話をさせてもらうぜ」

黄目は一歩前に出て、遠くにいるイアの眼を見た。

「君の言ってることはつまり、共存できるはずのない瞹ちゃんとイア君が共存できる…その理由は、それぞれがホープとヘイト、という概念だけで存在しているんじゃなくて、瞹ちゃんは瞹ちゃん、イア君はイア君として個を以って存在しているから。ホープとヘイトで繋がってる以前に、瞹ちゃんは何らかの重なった偶然によって、君自身そのものを、彼女の『アイ』に閉じ込めている。そういうわけだね?イア君」

「…ご名答。よく知ってるね君」

「色々あって僕は詳しいからね…この事象は初めて出会ったけれど、君の丁寧な説明のおかげでまた新しい知識が蓄積されたよ。どうもありがとう」

イアと黄目は笑みを浮かべる。



「しかしなぜ、そのような事を俺達に話した?」

ベアルが割り入ってきた。

「君に喋っても聞いてくれないから喋りたくないなぁ。でもまぁ、…あえて言えば、君達に『警告』をしようかな、と思ってね」

「…『警告』?」


「…近頃の世界は、あまりにも負のエネルギーが強すぎる。心を病む人、他人を拒む人…殺人犯罪、自殺だって日常茶飯事さ。そんな鬱蒼な世界の中から、どんどん人間が憎しみに染まっていき、その人間が悪魔になる。悪魔になり過ぎるんだ。天使と悪魔のパワーバランスが崩れている今、天使達が黙っていると思うかい?」


「…それは、ソルジャーが天使を生み出している事と干渉する?」

「勿論。天使の誰かが誰かの人間にアイを埋め込むことによって、…いうなら『人間兵器』を作るわけさ。そして異常に増え過ぎた悪魔に対して『ホロコースト』を行う。パワーバランスを制御するためにね。…その天使達が、ここでくたばってるわけだけど。

…僕はもうこれに飽きたんだ。悪魔になりたくないのになった者だけではなく、天使になりたくないのに、神の悪戯によってなった者も苦しいんだ。…僕はこの世界を創り替えたい。この重なる天使と悪魔の謎を解き明かして、ね。君はさっき僕が瞹に留められていることを偶然だと言ったけど、もしそこに何らかの裏付けがあるとしたら…僕はその運命的な力を以って、破壊と創造をするつもりでいる。人間も、天使も、悪魔も、全てを間引いて…全てを創り替える。誰も悲しまない、平和だけの世界を作るんだ。

『警告』…というのは、同じ悪魔でも、君達を同胞とは見做さないという事。寧ろこの世界の危険分子として、君達も殲滅対象として見做す事だ。天使と悪魔、瞹とイア。僕達に授けられたこの力を使って……


『全ての憎しみを、憎しみによって破壊し、愛と希望に溢れる世界を創造する事』」


「……………」

「……もう沢山なんだよ。誰かを守るために、誰かを傷つけなくてはいけないなんて。でももうそれもこの時代で終わりだ。…僕は……、僕は……、」


イアは頭を抱えて蹲る。彼の背後に、先程現れた無数の空間の歪みが現れた。目の形に開かれた空間の中からは眩い光のような何かが放たれようとしている。


「この腐りきった世界を全部ぶち壊してやるんだ………!!!!!!」


イアの眼の模様が変わった。それに呼応するように光も急激に大きくなる。

地面が揺れ始めた。彼にとてつもないエネルギーが蓄積、圧縮されてあたり一面を揺るがしている。彼の背中からは真っ黒い翼が飛び出し、その翼にも赤い光が纏い、計り知れないほどのエネルギーが溜まり込んでいる。


「…これで、終わりだ………!!!」




「そうはさせない」

イアの背後から、真っ白な糸のようなものが伸び、その体をグルグル巻きにした。

「な、何だ、これは………!?」

「…『アイ解放」………『以糸伝糸の紡ぎ』」


つい一瞬前まで膨大に膨れ上がっていたイアのエネルギーは急激に萎縮し、翼も体の中に仕舞われ、空間の目も次々と閉じていった。

「………ぐ、…体に力が入らない…意識も遠のいていく…、この能力は…!」

「瞹が乗っ取られたと聞いてね。悪いけど君をまた、封じさせてもらうよ」

「あ、ぐぁあああ……、こんな所で…こんな所で…!!…お前はそうやってまた、僕の願いを…、僕の夢を……!!」


瞹の意識の中に封じ込められたイアは左眼を閉じ、意識を失って倒れた。集まっていたエネルギーは塵となり、空に溶けていった。そこに残った跡は、すぅすぅと眠る昼月瞹の姿だった。

「君にも理想があり、それを叶えたいのは分かる。言ってる事に一理はあるね。だけどね、君だって結局人を傷つける事でしか解決する方法を考えていない。…誰も傷かないように、全ての平和を作ることが、私の願いだ」



「…こいつ、あの白く光る糸…『天使』か…!!」

ベアルはイアの攻撃を防ぐために展開した神威に剣を持たせて、男に斬りかかろうとする。



…しかし、彼は動きを止めた。その背後にある気配を感じて、その剣を仕舞い神威を消す。

「…お前達、か」


その様子を見ていた、多くの『黒い目』があった。

読んでいただきありがとうございました

『アイ』に潜む『イア』、彼の目的は世界の破壊と創造。その大いなる野望を秘めた彼と瞹はどうやって生きていくのでしょうか そしてイアの暴走を止めた天使、ベアルを引き止めた気配の主は誰か…?次回も乞うご期待しないでね


☆Babyfaced Rumors

「瞹の好きな食べ物はアップルパイと苺タルト。それではまた」

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