昼月瞹の『アイ解放』
TETSUYA!!TETSUYA!!
「…ねぇ」
誰かが私を呼んでる。
「…ねぇ、聞いてるの?」
私は体を動かさないまま、仰向けになりながら左眼をゆっくりと開いた。
そこには、いつもの、『あの子』が私を覗き込んでいた。私の夢の中にいる、私と同じくらいの歳の男の子。彼の顔は見えない。何か黒いもやもやに包まれて、彼を覆ってしまっているのだ。
そして、「この子」は……『嫌なことがあると必ず出る』。
「…どうしたの?こんな時に」
私は彼に聞いた。しかし彼は「そっちこそ、どうしたんだよ」と聞いてきた。
「君はどうして……そんな『無意味』なことをするのかい?」
目を見ることはできないけれど、私は目を逸らした。
「だんまり…か、もう一度聞くよ。どうしてそんな『無意味』なことをするんだ?」
『無意味』という言葉がどんどん刺さっていく。私だって頑張ったのに。みんなの為に、敵に立ち向かったのに。
とても悔しくなって、じわっと涙が溢れてきた。
「…君も勝手だね。僕をこんなところに縛り付けておいてさ、僕はどうしてか知らないけど君の深層心理の中でしか生きていけない。君が死んだら、僕もいなくなってしまうんだよ?」
男の子は私の方に顔を近づけた。彼の禍々しい視線が私の目に届いてくる。
「だって、みんなが、大事だから…、みんなに、死んでほしく、ないから……」
私は泣きながらだったけど、落ち着いて答えた。すると、男の子は片膝をつき、もっと私に近づいて、耳打ちをしてきた。
「……良い方法を教えてあげようか?みんなを助けるための、唯一の方法」
私は男の子の頭を手で退け、立ち上がった。
「…君を、解き放つ事でしょ?私の、『アイ解放』を……」
「よく知ってるじゃないか。……そう、君が幼い……いや、君が『生まれた時から』、僕はそうやって君の命を助けてきたよね。僕の力を貸してあげるって……」
「それは出来ない」
「……」
キッパリと断った。男の子は少し驚いた様子を見せる。
「どうしてだい?今こそ君の命の危険が迫っている瞬間じゃないか。そしてそれは僕にとっての脅威でもある。正当な防衛行為でしょ?」
「……お母さんと、お父さんが、使っちゃダメだって……言ってたから」
私のお母さんやお父さんは誰だか分からない。顔や声も覚えていなくて、その人達が両親なのかも分からない。けど、私は昔からそうやって教えられてきたのだ。
「…なら、『見る』かい?何が起こっているのか」
彼の声と足音が近づいてきた。何かただならぬものを感じて後退りをする。
「『右目』を……開けて」
意図せず、体が勝手に動いて、私は左目を瞑って右目を開けた。
そこに映っていたのは…地獄のような世界だった。
見渡す限りに広がる屍体の大海原。四肢が捥げた男や血に染まった剣、ザーザーとノイズを鳴らすトランシーバーに行きどころを失くした人間の頭。
そして、自分の体を見ても真っ赤に染まった生臭い服があり、脚の痛みは未だにズキズキと響いている。この世界は……
「ぃ……ひ……っ、あ、あああ…あああああああああああああああ!!!!!!!!!」
目の前には山のように巨大なドラゴンがいて、空は怒るようにゴロゴロと雷鳴を鳴らしている。ここに立っているのは、ここで今生きている人間は、まさに自分一人だけしかいなかったようだ。
「…こ、ここは……!?!?ここ、は……」
「目が覚めたかい?」
「……っ!?!?…ひっ、……はぁ、あぁ……!!!ああああああ…!!!」
「おいおい、そんな怯えるなよ」
男の子はどんどん近づいていく。私は腰を抜かした。
「君は僕のことを『出てくる』とか勝手に考えてるだろうけど、それは違う。君が勝手に現実逃避して僕のいる精神世界に逃げ込んで来てるわけ。結局君のいる現状は変わらない」
男の子は私の耳元に口を近づけて囁いた。
「君がこのままなら、君の『お友達』もみんな死んじゃうかもねぇ。今は辛うじて生きてるんだろうけど、遅れればいずれ死ぬ。そして、それは君にとって同じさ」
「あ……、あああ……」
震える私の方にそっと触れて、彼はさらに「君は、このままでいいの?」と言う。
「………嫌だ!!嫌だ!!!もっとみんなと一緒にいたい!みんなに生きていて欲しい!みんなを……助けたい!!!」
私は精一杯叫んだ。胸の奥で熱く高鳴っているものを感じて。
今自分が生きていると感じて、みんなが生きていると信じて。
みんなの笑顔を…もう一度思い出して。
「…そうだね。なら僕の手を取って」
男の子が私に手を差し伸べた。私は一瞬躊躇う。だけど彼は「大丈夫、彼らに悪いことはしないから」と言った。
私は、彼の手を取って起き上がろうとした。
しかし、彼はなぜか不敵な笑みを浮かべていた。
「……………交代だ」
彼はそう言って私を腕を引っ張って、手前の方に倒した。そのまま転けてしまう私。
「ま、待って……待ってよ!!!!!」
彼を呼び止めようとしたが、彼は応じない。そのまま遠くに行ってしまった。
「あ…、ま、まっ……て………」
どんどん意識が遠のいていく。と言うよりかは意識を彼に奪われていくような気分だった。
……私は、眠ってしまった。
「…おやすみ、瞹。君は……いい子だ。そのまま、眠ってね」
「…しぶとい奴だ。何者かが庇ったのか?」
ベアルは神威解放を行ってもなお、まだ息のある瞹の存在を見失ってはいなかった。
彼女は目を瞑ったまま、座り込んで項垂れている。
「…ふん、まぁいい。どうせ生き残りは奴しかいないらしいな。…この俺の神威の力で死ねる事、誇りに思うがいい」
もう一度ベアルの神威が剣を掲げた。
瞹は徐に自分の眼帯を外したかと思えば、突然、瞹が両の目を瞑ったまま嗤った。
「…はは、よかった。物わかりのいいやつで。いや、口車に乗せられたと言った方が正しいかな。数年ぶりの外界だ…僕にはまだ眩しいな。存分に遊ばせてもらうぞ、デカブツ」
「…なんだこいつ、いきなり『別人のように』……」
ドスドスドスドスっっっっっ!!!!!!
瞬間、ベアルの作った竜騎士に無数の槍が突き刺さった。
目の形をした空間の境界から止めどなく矢がどんどん放たれ、その一撃も重く、その総攻撃で竜騎士の装甲にどんどんヒビが入っていく。
「な、なんだと…この能力、この小娘の能力か…!?いや、おかしい!この感覚、あの真っ黒い漆黒の矢、そして空間に浮かぶあの『黒い目』……!!!」
「…あのガキ、あの能力まさか…!?!?」
「これは予想外だった…というか、もう驚くしかないね。あの『黒い目』、彼女も持ってる。いや、あれは『彼女』じゃなくて…あの子の『もう一人の人格』、の能力かな。こんな例は極めて珍しいね、しっかりデータに取らなきゃ、っと。まさか彼女が…」
「『アイ解放』………楽しませてくれよ??」
「『悪魔の能力を持っていたなんて』」
読んでいただきありがとうございました
あの…ギルガメッシュって言ったやつちょっと来い。仲良い人のミラティブ配信見ながら二話も書いてたら夜が明けてた。きついわぁ 次回も乞うご期待
★Babyfaced Rumors
「幻夢の趣味は解体ショー見学。それではまた(さっぱり)」