神の鳴る処
ipadでの終筆を始めました。誤字が増えるかもしれない……
見回す限り、血みどろに塗りたくられた世界。
幻夢は胸を貫かれ、碧は背中に大きな斬傷を負い、ラベンダーは意識を失って、怜虹は全身から針が飛び出て倒れている。
そして、目の前に立ちはだかるのは大剣を持った大男。
足の骨は砕けていて、身動きは取れるもののここから歩くことが出来ない。
足がズキズキと痛み、恐怖で体が竦み上がる。彼女はもう何をすることも出来ず、ベアルを絶望の目で見上げながら震えるしか無かった。
「……………………」
「決まったね。スクラーヴ君、今からすっごいグロくて胸糞な光景が待ってるけど大丈夫?怖くない?」
「……今更そんなこと心配してんの?逆さ、この目に焼き付けておくよ。ベアルも言ってた、天使は人類の希望だって。だから僕こいつらに早く死んで欲しかったんだよ…特にあのデカイのとあの眼帯のクソガキに関しては」
「へーえ。っていうかさ、君もまだ15でしょ?その歳でその思想は、イカれてるねぇ…君」
「第一イカれてるのは人間達の方だ…それ以上言ったら仲間でも殺すよ?」
「…これで最後だ。天使達よ………」
ベアルが剣を高く振りかざす。彼の目はとても、非情で、冷静で…それでいて何故か憐れみのある感情を含めていた。
「……去ね」
バァァン!!
その時、ベアルの剣が突然弾き飛ばされた。剣は回転しながら地面を滑っていき、止まった頃には剣は消えていた。
ベアルは顔を上げ、目の前に広がる光景を目の当たりにした。
「……次から次へとしゃしゃり出る屑共が」
「動くな、我らはソルジャー部隊の者だ!お前を抹殺するよう名を受けた!お前は既に包囲されている、少しでも変な動きをすれば発砲するぞ!!」
ベアルが見たのは、緊急命令を受けて駆けつけたソルジャー隊員達。ヘリがいくつもこちらの方に近づき、どんどん人集りが増えていく。そしてベアルの体にはいつの間にかワイヤーフックのような拘束具がいくつも深く突き刺さっており、周囲から銃口が向いていた。
それでもベアルは顔色一つ変えず、顎を上げて蔑むように隊員達を見た。
「…………『アイ解放 Panoplí………」
「撃てぇぇえええええ!!!!!!!!!」
ベアルがアイ解放で装甲を装着しようとした瞬間、ソルジャー達はベアルに向かって機関銃を放った。爆音と共に、容赦のない銃弾の連射が全方位から浴びせられる。
「……うっわあ、ソルジャーもえげつないね。平和だ平和だって言ってる割に、これじゃ『弾圧』じゃあないか…しかもこんな残酷なやり方で。あ、『弾』だけに、って?あはっ、どう?ねぇねぇスクラーヴ君、今の面白かった?」
「……死ねばいいと思う」
「辛辣〜〜!!」
黄目は仲間が撃たれている中調子に乗って冗談をかましたが、スクラーヴは興味が無いどころか彼を見向きもせず切り捨てる。
そして、二人ともベアルの事を心配する様子は無い。黄目はニヤッと不敵な笑みを浮かべた。
「発砲止めぇぇえええ!!!!!」
機関銃の発砲音が止まった。火薬の匂いが辺りに立ち込める。一分程続いた銃射処置が終わり、銃を構えたまま煙が晴れるのを待った。
「…やったか!?」
「まだ油断するなぁ!!引き続き銃を構えておけぇぇ!!」
煙の中から出てきたのは、傷一つないベアルの姿だった。しかし、彼の装着していたキリマクアスは剥がれ落ち、ボロボロと崩れて解けていった。
「ちっ…奴は無傷か…!!あの装甲さえ無ければ…!」
「いや、お前達は大層良くやった。俺の能力、『Panoplía klímakas』の装甲は、これまで如何なる武器の攻撃をも通さない最強の鎧だった…数百年前の戦いではな。それをここまで破壊するとは、近代の人類は大した代物を作ったなぁ…?『悪魔を殺すためだけに』……
しかしな、お前達に一つ教えてやろう。さっき俺が纏った鎧、キリマクアス…俺はあの能力を、あの鎧を『数千人、数万人…いや、数十万人』に纏わせる事が出来る。あの鎧は『あくまで一人分』だと言うことだ。この意味…分かるな?」
ベアルは目をゆっくりと閉じた。
沈黙が辺りを包み込んだ。
これから何をするか分からない悪魔を目の前にして、ソルジャー達はその出方をただ固唾を飲んで見るしか無かった。
すると空が突然ゆっくりと雲がかっていき、街灯の電光は何故か消え、世界は途端に暗黒へと落とし込まれた。
「…な、何だ、この怪現象は」
「厳粛に謹聴しろ」
ベアルは地面に剣を突き立て、そこに両手をかけた。
隊員は再び銃を構えるが、その無言の威圧に気圧されて引き金を引けなかった。というより、彼を畏怖していた。
「『詠唱』……………
この世の総てを凌駕する神、如何なる有象無象がこの俺に歯向かう事は、何人たりとも許されない。
この姿を眼前にした者は跪き、頭を項垂れ、神と称するこの煌々たる黒き威光に畏怖し、懺悔せよ。
その剣から放たれる一撃は、空の怒りの嵐、地の怒りの地震、そして海の怒りの大氾濫の如く、暇を持て余した天地の悪戯などと引き合いに出すことすら無礼。その穹穿つ威光、それは神の怒りである。神の怒りを買った愚者に救済はない。死を超越した完全なる破滅を以てその愚行を悔い改めるがいい。
神の名の元に、そしてその神体を拝み崇めながら、塵一つ残さず死んでゆけ」
ベアルが詠唱を行っている間、彼からこの世の者とは思えないほどの威圧が放たれ、その圧は次第に大きくなり、終わる頃には常人どころか身の軽い隊員達が吹き飛ばされるほどにまでそれは膨れ上がっていた。
「…………………」
瞹が最後に見たものは、ベアルの瞳に映る万華鏡の様な模様が猛烈な勢いで回転し、そして別の模様に変わっていったことだけだった。
「…っ、怯むなぁ!!奴が何か仕掛けてくる前に奴を始末しろぉ!!」
「ダメです上等!引き金を引いているのに…、弾が出ないんです!!ちゃんと残弾も確保してあるし銃に不具合があったような様子は無かったのに…!!」
「…そんな下らない豆鉄砲でも、神の尊さは理解し得るという事だ。お前達にも今すぐ分かる。『アイ解放 Panoplía klímakas』の完全体である真の姿……しかと目に焼き付けるするが良い。
『神威解放』…、『βροντήα Ζεύς(黒雷神)』」
ドォォォォォォォォォォン!!!!!
大きな黒い雷がベアルに落ちた。辺りは黒い光に包まれ、その光はベアルにどんどん吸収されていき、その像はどんどん大きさを増していく。
そしてそれはドラゴンの形になり、そのドラゴンにはベアルのキリマクアスの様な鎧が着せられ、両の手に剣が持たされた。
聳え立つ竜騎士、轟く黒い雷鳴。
そして彼らを最も脅かしているのは、その規格外すぎる像の大きさだった。
「馬、馬鹿な…悪魔はそのヘイト性質のルールより、2種類も能力を持つことができない筈……!?」
「しかもこの破格級のサイズ……20、30…いや、50メートル近くはあるぞ!?一体どれだけの量のヘイトを有していればこんな芸当が…」
「芸などではない。この能力…『神威解放』は選ばれた悪魔でないと使うことのできない能力。そう…『純血の悪魔』として生まれ生きている俺は、他の悪魔達の常識範疇を超越したヘイト量…そして能力を得ているのだ。他の悪魔達を劣っているなどとは断言するつもりは無いが、そして俺はこの能力を以って最強と呼ばれているのだ」
竜騎士が両腕の剣を振り上げる。天に掲げられたその剣は黒い電気を帯び、バチバチと火花を散らせていた。
「まずい、あの攻撃はまずいぞ!全軍引け、あの一撃を喰らったら確実に死ぬぞ!!」
「不可能です!推定される攻撃範囲からして、範囲外に脱出することはできません!!」
「くそっ、防壁を張れるものは直ちに展開しろ!被害を最小限に抑えるのだ!!」
「…無駄だ。散れ」
剣が振り下ろされる。それはまさに雷を体現したかの如く、疾く、力強く、そして怒るように、雷鳴を轟かせながら落ちていった。
読んでいただきありがとうございました!
もう絶望オブザ絶望。(伝わる?)転機が来ると良いですねぇ…(他人事)
次回も乞うご期待
★Babyfaced Rumors
「瞹ちゃんは基本一人で寝てますがたまにラベンダーちゃんと寝たりします。微笑ましいですね!それではまた!」