亡国の騎士団長 ベアル・レドは語る
まぁうん、ガチシリアスパートです。
ちょっと耳が痛くなる話ですがご清聴お願い致します
ベアルが幻夢を跨ぐように立ち、首元に剣を突き立てる。
しかし、
「……やめて…、やめて…!!」
突然、瞹が立ち上がった。その足は一歩一歩前へと交互に、だんだん早く足早になり、彼女はベアルの元に駆け出す。
「瞹、駄目!!戻ってきて!!」
「瞹ちゃん!!!」
ラベンダーたちの制止を聞こうとせず、瞹はその足を止めない。そして声を張り上げ、幻夢を守るように両手を広げた。その手足を震わせ、真っ青な顔で泣きじゃくりながらも、彼女は必死に仲間を助けようとした。
「…お前、何してんだ…、来るな…瞹…」
「やめて!!…お願い、お兄ちゃんを殺さないで!!!」
「無駄だ小童よ!!こいつはもう判決を下されている!こいつは黒だ!!こいつ、いや…お前たちを含むこの世にいる人類全てが黒だ!!」
ベアルは裏手で瞹を突き飛ばす。瞹は倒れ込み、とても怯えた様子で、嗚咽を鳴らしながら涙をポロポロ零して俯いていた。
ベアルは舌打ちをして、剣を地に突き刺し叫ぶように語った。
「お前たちはソルジャーという名の正義を掲げ、我らの同胞とも呼べる悪魔を片端から惨たらしく殺し、踏みにじり、全てを奪ったのだろう!?
全くお前たちは、『数百年前から』何の進歩もしていない!!当時の、数百年前の俺たち悪魔によって形成されていた王国が、命を投げ出し他国の人間たちと死闘して尚結局その結果はどうなったかと思うか!?
『悪魔の弾圧』!!!お前たち人間は結局悪魔のありとあらゆる権利を剥奪して社会の外側に封じ込めんとしたのだ!!
そして国の騎士団長であった俺は厳重な呪術によって封印されてしまったのだ!!…それはいい、その封印は『あいつ』によって解かれ俺は生きている身として現世の地を踏みしめていられるからな!!
しかし…俺の、王と王妃である父と母が愛していた我が王国とその王国民たち…そしてこの俺が最も愛していた、最愛の弟までもが…!その戦禍に巻き込まれて皆殺されてしまった!!どうだ!?お前たち人間ののうのうと暮らしている、尻に敷いて過ごしている平和とは何だ!?
悪魔というものは、それになりたくてなった者では断じてない!!望まない悲劇、望まない絶望、望まない憎しみを背負って生きている者たちの事だ!!
天が悪魔たちに与えたもの、それはヘイトという言葉で片付けられるものでは無い、反逆の意思とその武器だ!!悪魔たちはいつだって人間たちとの戦いの歴史に勝利という形で終止符を打つためにその武器を常に握りしめて人間に復讐せんとしているのだ!!
人間はそれを武力行使として弾圧し、殺していくだけ…お前たちがやっていることは本当に正義か!?奪うこと、殺すこと、虐げることがお前たち人間の正義なのか!?
はっきり言う…この世に全ての正義などない!!全ての者が納得出来る決断などこの世には存在しない!!だから俺は戦い続けるという決断をした!!もう平穏などいらん!!理不尽な悲劇のために悪魔となってしまう者が殺されるのだとしたら、俺はいつだって彼らの仇を取りに行く!!例え全人類の敵に回されようが、幾千幾万の武器を突き立てられようが構わん!!俺はこの連鎖し続ける悪魔たちの悲しみを、無念を晴らすために俺はこの剣を振るい続けるのみ!!
『殺さないで』だと!?甘えたことを言うな!!それは我が同胞たちが人間たちに言った遺言でもある!!それを問答無用と刃で貫かれ、銃で撃ち抜かれ、拳で頭を打ち飛ばされ、呪法で呪い殺されていった悪魔たちがどれほどいることか!?お前如きがここで人間一人救おうがそれはお前たち人間にとっては何の変化にもならん、俺たちは同じことを何度も言われ続けて殺されてきたのだぞ!!
……もういい、この小童に付き合っている暇はない!!スクラーヴ、お前ももうその男を八つ裂きにしてしまえ!!!」
「幻夢、怜虹っ……!!…くっ、ここで私が少しでも援護が来るまでの時間稼ぎをしなきゃ…、『9番目の魔法・ハガラズの』……!!」
「小娘、お前がそれ以上足掻いても無駄だ。周りを見よ、この無量大数の『軍勢』を」
「…………『軍、勢』…………!?」
その時、泡沫弾丸を撃つ為に溜め込んでいた光泡が、ホロホロ溶けて散っていく。ラベンダーは全身をガクガク震わせ、絶望を見たように膝から崩れ落ちた。状況を理解した瞹と碧も、打ちひしがれたように涙を流しながらガチガチ震える。
「あ……あ………」
「…これは……終わった……」
「……お、お姉ちゃん……お兄ちゃん…、助けて……」
周りに見えたのは、黒い鎧を纏った悪魔たちの大軍。
視界の周りを囲むように群がり、鎧鋼のぶつかり合う音をガシャガシャと立てながら天使たちに近づいてくる。
それはまるで、海の真ん中にぽつりと浮かぶ木製の船に無数の鮫が群れをなして近づいてくるような迫力と絶望があった。
「絶望したか天使たちよ!?この軍隊は俺が分けた血によってヘイトの力を増強させた優秀な戦士たちだ!!そしてその黒鎧…もう誰も殺させない、仲間たちの命を落とさせないがための俺の固有能力……
『アイ解放』、『Πανοπλία κλίμακας(竜騎士の王国)』だ!!!」
ベアルの緑色の瞳に特殊な、スクラーヴと同じように紋章が浮かぶ。ベアルの『アイ解放』が発現したのだ。
「もう生け捕りして調べることなどどうでも良い!!こいつら天使を殺せ!!どんな手段を使っても構わん、全ての恨みはこの俺が背負ってやる!!こいつらは人類の希望、つまりこいつらを潰すことは人間の絶望に繋がることだ!!失敗は許さん……確実に首を刎ねろ!!全軍……前進!!!!!」
「うぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!!!」
男たちの雄叫びがこだまする。軍隊の進む足の速さは少しずつ速さを増し、ぐんぐんその距離を縮めていった。
「さぁここで人類に絶望させるのだ!!俺たちが虐げられてきた過去もここで終結し、今まで散っていった悪魔たちの無念を晴らすため、そして次なる悪魔の世代の繁栄のためにこの天使たちを殺す!!もう猶予は許さん、今ここで死ね!!!」
「だってさ…って、聞いてないか。だったらもう何もいらないね。バイバイ。ゴミカスクズダメダメ堕天使ども」
ベアルは剣を幻夢の首元に突き立てようとする。そしてスクラーヴもアイを解放し、右手を握って怜虹を殺そうとした。
その時、
「……ラベン、ダー……」
「何……?」
幻夢は今にも死んでしまいそうな、消えてしまいそうな声で呟いた。
「ラベンダー…約束、だよな…お前は、生きてもいい…人だって…、俺が、守る…って…」
「何を戯言を!!お前は何も守れない!!そのか細い意思では願いなど何も叶いやしないということにまだ気づかないのか!!」
「……てる……か、……?…し……る……」
「あれ、まだこいつ生きてたんだ。もう息もしてないから死んだかと思ってたよ。遺言なら聞いてあげるよ?言い終わったらすぐ殺すけどね」
「……きこえ、てる……か…?しえ……る……」
怜虹もズタズタになった体で、ヒューヒュー音を立てながら呟いた。
「…それだけ?命乞いとかしないんだ。もういいかなクズ人間、もう二度と待たないからね。さよなら」
「ラベンダー、俺は……」
「志…………選…………………」
幻夢と怜虹は、朦朧とした意識の中で、自分の中にある『誰かの名前』を呼んだ…………。
読んで頂きありがとうございました
Twitterで私の事見てる人なら全部バレてしまってますけどまぁお話はこのまま続きますのでお願い致します
それではまた!次回も乞うご期待!」(しないでね)
*キーボードの仕様上ギリシャ語が全角になっております。見苦しくてすみません…….
☆Babyfaced Rumors
「ベアルさんのアイ解放能力名、『Πανοπλία κλίμακας(竜騎士の王国)』はギリシャ語で『鱗の鎧』という意味があります!
ちなみに読み方はアルファベットの発音でいえば『Panoplía klímakas』ですのでベアルさんクラスタはしっかり言えるようにしてくださいね!それでは今日はここまで!」