Ep.34 女の子の話
例の金細工の絵については、アンナの家が贔屓の商会ーーアウレリア商会にそれとなく似た品の仕入れを頼んでくれることになった。
「アウレリアと言ったら王都でも3本指に入る大店だし、あそこはもとより宝石商から始まったと聞く。
下手に数打つより余程期待出来そうだな」
『だから、あまり思い詰めないように』と笑って私の頭をぽんとして帰っていくイグニスの姿を見てアンナがまたまぁまぁと頬を赤らめ興奮していた。
これはまた質問攻めが始まるな…………。
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1週間後、何と私はアンナからお茶会へのご招待をいただいた。
幼少期にはリヒト様を巡ってライバルみたいな立ち位置だったし、互いの婚約者が決まった後もそれと言って仲良くなる機会がなかった為に実は初のお宅訪問だ。
といっても本邸ではなく、王都での暮らし用の別邸の方だけどね。
「よくお越しくださいましたカナリア様!
さあさあさあ、早くお上がりになって!」
「お、お招きありがとうございますアンナ様」
テンションMAXのアンナに気圧される私に、側仕えとして一緒に来てくれたマーガレットがクスリと笑った気配がした。
こちらの屋敷は基本的に王都の学園に通う為のもので、今はほぼアンナ専用なんだとか。
「ですので、調度品ひとつから庭の花までわたくしの好きなもので揃えてあるのです!」
「まぁ、それは素敵ね。
朝起きた瞬間から幸せな気持ちになれそうだわ」
「そうなんです!
やはりカナリア様ならわかってくださると思っていましたわ〜♡」
ルンルンとした足取りでアンナが踏みしめる絨毯は真っ白、調度品も淡い色味が多く、庭には噴水前に構えられたピンク色の薔薇のアーチ。
そして。
「さ・て・と!
早速ですが、カナリア様にはわたくしの愛読書を履修していただきましてよ!」
ドサッと目の前に積まれた、ロマンス小説と言う名のこちらの世界で言う少女漫画……中身は文だけどね。
「ふふふふ、こちらの作品は特にヒーローである殿方の秘めた想いが情熱的で素敵ですの。
きっとカナリア様もお気に召しますわ!」
きらっきらのお目々で表紙を指さすアンナ。
指の先には、橙色の髪を前髪アップにしたちょっと悪そうなイケメンが。
(ちょっとだけ昔のイグニスに似てるかも……)
なんてことだ。勝ち気なご令嬢かと思いきや、アンナは恋に恋する年頃の可愛い少女だったのだ。
恋する乙女の計らいにより、その後は目くるめく甘いロマンス小説読書会へと丸1日浸されてしまった私だった。
ぱたん、と最新巻のページを閉じた私は、全く意識せずにそれはそれは長ーーーいため息をついてしまった。
「いかがでした?」
「ものすごく尊かったわ……!
恋愛って一方的に女性が殿方に尽くすものではないのね……!」
「そう!そこなのです!
ご理解いただけまして!?」
然りげ無く読み終えた本を下げてくれるアンナの従者達に感謝を伝えつつ、2人でテーブルの上で手を取り合う。
「自分の無能は棚に上げて主人公を無碍にする最低な婚約者を、それでも幼き日の恩義と思い出で切り捨てられない序盤の彼女があまりに可哀想で……!」
「わかりますわ!
優秀なのは貴方ではなく裏で人脈から何から支えている主人公の方ですのに!
何を調子づいているのか言うに事欠いて『見栄えがせず見窄らしい』だなんて……!」
「ですがあのクズの数々があるからこそ婚約者の兄君の『己を磨く事に一切妥協せず歩み続けた彼女の眼差しはどんな宝石より価値がある』と言うひと言が輝いて見えましたわ」
きゃーっ!と2人で同じタイミングで盛り上がる。
どうしよう、楽しいぞ。
「あれはあの兄君は既に主人公に惹かれている様子でしたね」
「カナリア様もおわかりになりました!?」
「もちろんです。
落ち込む彼女を励まそうと庭園に連れ出したのに、肩に付いた花びらを取ろうとして結局触れることすら出来ない様子がもう……!」
「あのシーンは思わずこちらまで肩に力が入ってしまいましたわね……」
ほぅ……と、そこでようやく一息ついた私達の前に新しい紅茶を用意し、ひとりの侍女がアンナに何かを報告した。
「えぇ、手筈通りお願い」
「あら、何かこのあとにご予定が?
でしたら私はそろそろ……」
「いいえ、大丈夫ですわ。
むしろここからが本題ですの!」
「本題?」
あっ、もしかして例の鏡について何かわかったとか!?
期待して身を乗り出した私の胸元に、アンナがピッと指先を突きつけた。
「カナリア様は、イグニス殿下のことをその御心のどちらに置いていらして?」
私の手から脱走した白地のティーカップが、ソーサーに落ちて2つに割れた。




