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Ep.27 平穏と不穏

 ひとしきりカナリアが泣いた後、イグニスは泣き止んだカナリアを問い質すことなくただひと言、『暇なら来るか?』とだけ笑ってそう言った。


 

 今回の討伐で負傷した兵士達は、数ある王宮の広間の内のひとつに集められ治療を受けていた。


「イグニス殿下!?」


 室内に薬や包帯を配り歩いていた比較的軽症そうな兵士の一声に、他の兵士達の視線が一斉に集まる。


「イグニス殿下!重症を負った兵士達の部屋に王子が自ら出向くとは、貴方と言うお人は……!」


「おっ、お待ち下さい隊長!イグニス様は貴方達を案じて……!」


「ご自分の方が余程重症だと言うのに何考えてんですか貴方は!今すぐ部屋に帰ってください!」


「全くです!さぁハウスですよハウス!!」


「お前等ちったぁ俺のこと敬えよ!!」


 各々傷を負いながらも犬でもあしらうような軽口を叩く兵士達とイグニスの様子に、慌てていたカナリアはぽかんと言葉を無くす。そして、小さく肩を震わせ笑い出した。 


「……笑ったな」


「ーっ!」


 穏やかな笑みを浮かべたイグニスは、驚いているカナリアから視線を逸らしベッドから起き上がれずに居る兵士一人ひとりに労いの声を掛けてまわっていた。時折先程の隊長達と交わしていたような軽口や笑い声も聞こえてきて、慕われているのが端からでもわかる。


「しかし、全隊29名中25名負傷、内9名が復帰も危ぶまれる程の重症とは。こんなときこそ出番だろうに、噂の聖女様は何をしてるんだ。城には呼ばれて来ているんだろう?」


「それが、リヒト殿下がこんな血の匂いが漂う部屋に聖女を入れるのは精神衛生上良くないと治療をさせないよう密令を出したそうだ。殿下だけは王太子だってんで治療受けたってよ。自分はただの捻挫と打撲だけの癖に……」


 ほっこりした気持ちで居たのに、耳を掠めた不満げな兵士達の声にまた気持ちが沈む。カナリアの表情が陰ったことに気がついた兵士が慌てて噂話に興じていた二人に声を上げた。


「馬鹿っ、口を慎め!カナリア様の前だぞ!」


 はっとした顔になり、二人の兵士が頭を下げる。カナリアは儚く笑い、静かに頭を振った。


「良いのです。最近のリヒト様のご様子は私も存じておりますから」 


 言葉を無くした兵士達が、労るような眼差しで自分を見ている。このままこの場に留まるのは良くない。リヒトの外聞的にも、自分の心情的にも。


「では、わたくしはそろそろ……」


「そうだな、ひと通り様子も見たし戻るか」


 別れの挨拶より先に背後から肩を叩かれ、然りげ無く退室を促される。去り際、忙しなく走り回っていた医師がイグニスを呼び止めた。


「お待ち下さい殿下!お戻りになる前に薬を…っ」 


「いや、俺は結構。普段の栄養状態がいい分俺は回復が早いんでな。薬は兵士達に当ててやってくれ」


「しかし、そう言うわけには…っ」


「俺がいいっつってんだから良いんだよ。ほら、まだ若いしな。どこぞのヒゲ面のおっさんと違って。しっかり休まねーとまた腰やっちまうぜ?」


「ははははっ、違いねぇや!」


 イグニスの軽口にドッと笑い声が上がる中、二人で治療室を後にする。

 もう笑い声も届かないほど進んだ頃、静かにイグニスが口を開いた。


「悪いが、少し時間をくれ。リヒトとメリア嬢について、話しておきたいことがある」 


 


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